【力を抜きたい日の食卓へ】第十一回:味噌汁の記憶。

麻生 要一郎

京都へ出かけると必ず立ち寄る、味噌汁が有名な老舗の割烹。

暖簾をくぐって、少し低めの椅子に腰掛け、いつもの利休弁当と一品料理をお願いする。主役のお椀は白味噌、赤味噌から、味噌を選んで、具材も様々に用意されている。味噌から選ぶのか、具材から選ぶのかで、少々悩む事も、この店の楽しさの一つ。

奇をてらわぬ正統派な一杯、しっかりした出汁、上等な味噌の風味は、天にも上るような幸せを味わう事が出来る。並ぶおかずの一つ一つも、抜かりのない仕事が施されていて、行く度に色々食べているのに、味噌汁の記憶しか残っていない。

しかし毎日、家庭の台所に立って食事の支度をしていると、しじみ汁、豚汁、立派な名前がつけられる味噌汁ばかりを作っていられないというのが、正直なところではないだろうか。

汁物は作るのが、面倒という声も聞こえてくる。客人の多い我が家は、お酒が好きな人達だから〆にはしじみ汁、子供達も食べやすいように具沢山の豚汁といった具合に拵える。

しかし、自分達の食事なら、冷蔵庫の余り物から食材を選んで、味噌汁は簡単に済ませてしまう。だしは、何かしら常備しているけれど、そんなに難しく考えずとも、出掛けに、鍋に水をはって昆布を一枚入れておけば帰宅する頃には、昆布の風味がちゃんと引き出されている。それに、食材の組み合わせによっては、だしがなくても美味しい汁物を作る事は出来る。

養親となった姉妹は、きれいに魚を捌き、よくお刺身をつくってくれた。そのアラの部分を使って出汁をとり、ねぎやお豆腐等のちょっとした具材を足して、味噌汁にしてくれた。冷蔵庫には、色々な味噌があったけれど、九州がルーツの彼女達は、麦味噌を好んでいた。

終戦後、東京を離れて九州の海側で一家はしばらく暮らした。その頃、目の前の海に広がる、きれいな海で魚を釣ったり、漁師さんがとってきてくれたものを、お刺身で食べた残りは、保存出来るようにと干物にしたりしていたそうだ。たくさん干物が出来た時には、まだ食料が十分になくて苦労していた、東京の友人達へ送ったという話を何度か聞いては、生活力の高さを思い知らされる気がした。

僕の亡くなった母も、色々な味噌汁を作ってくれた。豚汁、しじみ汁、僕が好きだったのは、大根と卵。細切りにした大根の味噌汁に卵を落としたもので、たったそれだけの事なのに、ちょっとしたご馳走になる。卵と味噌の相性も、良いもの。

小さな頃、母が実家の裏庭で、茄子やきゅうりを作っていた。その茄子を一緒にもいで、味噌汁にしてくれた時の記憶が、今も鮮明に残っている。味噌汁の味というよりも、ちょっとじめっとした裏庭が、子供心に恐かったこと、ぷっくりとした茄子をもいだ時の感触、そして美しい茄子の色。母が最後に作ってくれた味噌汁には、何が入っていたのだろうと思案したが、思い出す事は出来なかった。

味噌汁には、食卓を飾る華やかな主菜とは違った、その味わい同様、じんわりと広がるような情景があると改めて感じた。時には、作ることがちょっと億劫に感じる事もあるけれど、これからもホッとする一杯を心がけていきたいものである。

我が家の冷蔵庫には、味噌が色々入っている。どこかで美味しいそうな味噌を見つけたら、カゴの中へ。定番は、白味噌、赤味噌、麦味噌は欠かさない。気分で使い分けている。自分で作ったこともあるけれど、無精な僕は、どこかで買う方が気が楽である。

冷蔵庫を開けて、ごそごそ。何かの残りで豚バラ肉が少々、いつぞやのえのきだけ。メインは魚、今日はこの2つの食材を使い切ってしまいたい。だしも品切れ、時間もない。両者を胡麻油少々で炒めてみると良い味わい。そのまま水を注いで、味噌汁に仕上げると、これがなかなか美味しかった。食材の始末がよいのは、気持ちがよいと思う。

豚バラ肉とえのきだけの味噌汁
材料
・豚バラ肉 150g
・えのきだけ 1パック
・水 400cc
・ごま油 大さじ1
・麦味噌 適宜
・三つ葉 適宜

作り方
1. 豚バラ肉、えのきだけは、食べやすい大きさに切り揃え、鍋にごま油を引いて、軽く炒め合わせる。
2. 水がひたひたになるまで注ぎ、沸いてきたら、麦味噌で味を整える。味噌は少しずつ加えて、自分の好みの加減を見つけて下さい。
3. お椀に注いで、お好みで三つ葉(ネギでも良い)を散らして完成。

実家にいる頃、近所に暮らす母の友人、北海道出身の静代さんが作ってくれた味噌汁。彼女は料理がとても上手だった、北海道出身だけあって、じゃがいもの扱いを心得ており、肉じゃがも絶品だった。随分会っていないけれど、元気にしているかなあ。

じゃがいもの味噌汁
材料
・じゃがいも 中2個(大なら1個)
・玉ねぎ 1/2個
・わかめ 適宜
・だし 400cc
・白味噌 適宜

作り方
1. じゃがいもは食べやすい大きさに切って、玉ねぎは薄切り、わかめは食べやすい大きさに切っておく。
2. 鍋にだしを注いで、じゃがいもと玉ねぎを入れて火にかけて、煮込む。途中、水分が減ってし待ったら、水を足し、ひたひたな状態を維持する。野菜が柔らかくなったら、わかめを足して、最後に白味噌を入れて完成

外食が続いたとき、少し健康に良さそうな家ごはんが食べたいと思うと、簡単に出来るし、海藻がたくさん食べられるので、よく作るメニュー。もずくじゃなくても、めかぶやアカモク、なんでも大丈夫、是非お試しを。

もずくの味噌汁
材料
・もずく 大さじ4(お好みで)
・豆腐 半丁
・だし 400cc
・赤味噌 適宜

作り方
1. 鍋にだしを入れたら、一口大に切った豆腐を加えたらひと煮立ち、赤味噌で味を整える。食べる直前に、もずくを入れたら、火を通し過ぎないうちにお椀によそう。
※もずくをお椀に入れておいて、注ぐでも良い。僕はじんわり火が入った感じが好きなので、一度鍋に入れています。お好みの加減でどうぞ。

***

レシピでは、3種類のお味噌を使いましたが、どのお味噌で作っても、美味しく出来ると思います。好きな味噌、好きな加減を見つけて下さいね。困った時には、味噌汁に卵を一つ落としたら、きっと日々の食卓の助けになると思います。

 

家庭的な味わいのお弁当が評判となり口コミで広がる。雑誌への料理・レシピ提供、食や暮らしについてのエッセイなどの執筆を経て、初の単行本『僕の献立 本日もお疲れ様でした』(光文社刊)を発行。2022年1月には第2弾『僕のいたわり飯』(光文社刊)も。

Instagram:@yoichiro_aso

 

フォトグラファー。1974年3月東京生まれ。雑誌、単行本で主に暮らしまわりを撮影。 好きな被写体は人物と料理。著書に、17組の人とその人の作った料理を撮り、文章を綴った『人と料理』(アノニマスタジオ刊)がある。他に『まよいながら、ゆれながら』(文・中川ちえ)など。

Instagram:@wakanababa

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