【暮らしのみずうみ – 松本便り】第18話:小さな時間ができるのは、嬉しくて、ちょっと寂しい。

ライター 桒原さやか

前働いていた職場では、「ぽかん期」という言葉が時折オフィスで聞こえていました。

ぽかん期とは、文字通り、呆然としてしまう時期のこと。

ひたすら自分の持っている仕事に精一杯だった毎日から、それを同僚に引き継いだ途端、突如目の前に現れる、「ぼーっとしてしまう時間」のことを指します。

本人は時間の余裕ができて嬉しい反面、何をしたらいいかわからず、焦る気持ちもけっこう大きい。これを会社としては、次のステップへの準備期間として、ポジティブなこととして捉えていました。だからこそ、愛情を込めてそう呼んでいたのです。

最近、ぽかん期って、子育てにも通じるところがあるなぁと気がつきました。

ちょっと前までひとりでズボンもはけないと思っていたのに、気がついたら、よいしょよいしょと自分ではけるようになっていて。公園に行ったら、親のことなんてすっかり忘れて、夢中で友だちと追いかけっこしている。
あれ、いつの間にこんなに大きくなったんだろうか……。

子どもは気がついたら、成長している。

私がいなきゃ何もできないと思っていたのに、いつの間にか手から離れて、小さな時間ができる。それが嬉しくて、ちょっと寂しい。

そうそう、我が家でも、この秋から3歳になるタイミングで息子が幼稚園に入園することになりました。もともとは来年の4月に通い始める予定だったところ、仕事も家のこともまわらなくなり、迷いながらも決めたことです。

子どもが生まれてからは、ずっとひたすら、長距離マラソンを走っているような毎日。ひとつ山を超えたと思ったら、また違う山が目の前にズンッ!と立ちはだかっている。「えーー、まだあるの?」とぼやきながらも、止まることもできず、ひたすら足を前へ前へと進めているような日々でした。

そんな毎日から、これからはじまる、息子の幼稚園生活。

時間にも気持ちにも、ちょっと余裕ができるでしょうか。ほっとする気持ちもありながら、小さな転換期が我が家にやってくることに、胸がざわざわしています。

子どもって、ある日を境に、突然ヒュンと風みたいに、親から離れていくものだと思っていたのになぁ。子育てをしていると、小さかったり大きかったりする「ぽかん期」を毎日のように越えているような気がするのです。

子どもは日々、ちょっとずつ親から巣立っていく。

これも親になってはじめて知ったことのひとつです。

 

ライター・エッセイスト。岐阜県出身。『北欧、暮らしの道具店』で、お客さま係として6年間働いていたスタッフ。退職後、ノルウェーにある北極圏の街、トロムソに住んでいた。現在は長野県松本市でスウェーデン人の夫と2歳と4歳の子どもの4人暮らし。
著書は2023年4月に発売の「北欧の日常、自分の暮らし- 居心地のいい場所は自分でつくる -」(ワニブックス)。その他、「北欧で見つけた気持ちが軽くなる暮らし」(ワニブックス)、「家族が笑顔になる北欧流の暮らし方」(オレンジページ)がある。
instagram:@kuwabarasayaka

 

撮影:清水美由紀
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