【力を抜きたい日の食卓へ】最終回:手間をかけたとんかつも、さっと作れてしまう袋麺も。

麻生 要一郎

先日、韓国に住んでいる友人が東京に遊びに来たとき、大人から子供まで10人程で、我が家の食卓を囲んだ。

彼はとんかつが好きだという情報により、その日のメインはとんかつに決めていた。前日に、美味しそうな豚ロースをたくさん買って、パン粉用に食パンを3斤抱えて帰宅した。さすがに3斤は多かったかなと思い、2斤をパン粉に加工、残りの1斤から2枚を、朝食のトーストにして食べて、残りを足りなかった時の予備にとっておいた。

集合時間の少し前、大きな揚げ鍋に油をたくさん注いで、すぐに揚げ始められるよう、油の温度も調整しておいた。皆が、彼との再会を喜んでいる姿を横目に、僕は豚肉をバッター液にくぐらせて、パン粉をしっかり塗して油の中へ、ジュワーッと良い音がする。こちらは、必死なので油の前から離れられない。パン粉が足りるだろうかと心配をしながら、10枚以上揚げて、手元のパン粉に目をやると、驚く事にほとんど減っていなかった。薄々気づいていたけれど、作ったパン粉が多すぎた。足りて良かった安堵感、もう少し分量を考えようよと、切り分けた端っこの部分を食べながら、一人で小さく反省した。

一通り食べて、洗い物を手伝いにキッチンに来た友人が、目ざとくそのパン粉の山を目にして「この量は一体!?」と、驚いていた。食材が無駄にならないよう、分量は正確にと思ってはいる。しかし、自分の料理の良さを一つ挙げるとするなら、気持ちが先走っている感じのところじゃないかと思う。パン屋さんに並んだ食パンの前で、皆に美味しいとんかつを食べて欲しいと、1斤では気持ちが足りなくて、2斤でも心配で、3斤となった。友人は呆れながら「2斤分のパン粉に愛を感じたよ」と、言ってくれたので嬉しかった。

とんかつが食卓から、きれいになくなった頃、皆に、自分の好きなラーメンを振る舞いたいと言って、友人がキッチンに立った。日本では売っていない、韓国で人気の凄く辛いラーメンだと言う。鍋だけ渡すと、いつも自分の家で作るように、彼はネギを切ったりしながら、手際良く仕上げていった。僕は、彼の邪魔をしないように、席に座ってその様子をじっと眺めていた。

出来上がったラーメンは、ちょっと辛そうな赤い色をしていたが、皆で、楽しく食卓を囲んで食べたそのラーメンは、他のどんな有名店のラーメンよりも美味しく感じた。辛い味のスープも、夏の夜にはちょうど良くて、ラーメンが入っていた鍋はすぐ空になった。子供達も麦茶を飲みながら、美味しいと食べていた。しかし、辛いよ!と言っていた彼が、一番辛そうに食べていたのが面白かった。

とんかつと、ラーメンの夏の夜の思い出。僕は「辛ラーメン」を見る度、彼の事を思い出すだろう。

皆、ご贔屓の袋ラーメンがあると思うけれど、我が家の定番は”中華三昧の塩味”。亡くなった母が、よく買っていたからだと思う。実家のキッチンの食材ストックが詰まった棚には、必ず入っていた。

スーパーの袋麺売り場に行くと、今はすごい種類があってびっくりする。色々な謳い文句を眺めていると、悩んでしまうのだが、散々眺めて結局はいつものを選ぶ。

どの麺だろうが、具材をたくさん入れるのが好き。具材を炒める人もいるみたいだけれど、簡単な時は極力簡単に済ませたいので、鍋一つで全て煮込む。具材は、記しておくけれど、何もわざわざ買い揃えなくたって、冷蔵庫に余っているものを適当に入れたら良いと思う。塩味は、食材を受け止める度量があるから気にせずなんでも入れてしまえば大丈夫、冷蔵庫の片隅に残っている、かまぼこを入れたって美味しい。

そして「ラーメン食べたい」と、あの歌を口ずさみながら作れば、より美味しくなる。

毎日、食事の支度をすることはとても大変。作るのが億劫な日は、僕だってある。手間をかけたとんかつも、さっと作れてしまう袋麺も、食卓に並んだら甲乙付け難い人気者。いつも張り切らなくて良いのではないかと、最近よく感じます。

塩ラーメン
材料
・袋麺 2袋
・豚肉 150g
・レタス 4枚
・つるむらさき 2本
・ピーマン 2個
・にんじん 中 1/2本
・玉ねぎ 1/2個
・えのき 1袋
・ミニトマト 6個
・ゆで卵 2個
・ごま油 大さじ1

作り方
1. 豚肉、レタスとつるむらさきは食べやすい大きさに切り、ピーマンは中の種をとってから一口大、にんじんは短冊切り、たまねぎは薄切り、えのきは石づきをとってから、食べやすい大きさに切り分ける。ミニトマトは洗っておき、卵も茹でておく。

2. 鍋にお湯を沸かし、レタス以外の野菜とお肉を先に入れ、お肉に火が通った頃に麺を入れる(水が足りなければ少し足す)。麺がほぐれてきたら、レタスをいれて、一煮立ちさせたら、火を止める。スープを仕上げ、味が薄いと思ったらガラスープの素などで調整し、ごま油を入れる。

3. 器によそって、半分に切ったゆで卵をのせたら完成です。

「力を抜きたい日の食卓へ」は、今回で最終回となります。

読んで下さった皆さま、本当にありがとうございました。毎日、食卓に料理を並べるのは大変なこと。余裕がある時には、楽しくたくさん作って、余裕がない時には、とにかく簡単に。

僕もこの連載を通して、日々もっと力を抜いてもいいんじゃないかなと思い、自分好みなお惣菜を見つけるとか、冷蔵庫にあるもので適当に作ることを、積極的に楽しむ事が出来ました。撮影も、毎回楽しかった。また、どこかで会いましょう。

 

家庭的な味わいのお弁当が評判となり口コミで広がる。雑誌への料理・レシピ提供、食や暮らしについてのエッセイなどの執筆を経て、初の単行本『僕の献立 本日もお疲れ様でした』(光文社刊)を発行。2022年1月には第2弾『僕のいたわり飯』(光文社刊)も。

Instagram:@yoichiro_aso

 

フォトグラファー。1974年3月東京生まれ。雑誌、単行本で主に暮らしまわりを撮影。 好きな被写体は人物と料理。著書に、17組の人とその人の作った料理を撮り、文章を綴った『人と料理』(アノニマスタジオ刊)がある。他に『まよいながら、ゆれながら』(文・中川ちえ)など。

Instagram:@wakanababa

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