【おおらかなインテリア】第1話:暮らしは「スタイリング」できないものばかりだから。スタイリスト・大谷優依さんの自宅を訪ねました
ライター 瀬谷薫子
心地よい暮らしをイメージするとき、片づいた住まいが頭に浮かびます。でも、現実はなかなかそうもいかないもの。
仕事や子育てに追われていると、家は散らかっていくばかり。「出したものをしまう」というシンプルなことすら無性にしんどく感じてしまうことも多々あります。
そんな毎日を送りながらも、素敵な住まいを保つ工夫について。お話を伺ったのはインテリアスタイリストの大谷優依(おおたに ゆい)さん。2歳の娘と夫と、都内の賃貸に暮らしています。
今年、2人暮らしの頃から住んでいたマンションを出て、より広い新居に越した大谷さん。今回は新しいお宅を拝見しながら、自分に合った収納づくりのヒント、子どもと過ごす心地よいインテリアの工夫について伺います。
インテリアの仕事をしていても「片づけは大の苦手です」
以前住んでいたマンションは、リビングから寝室までひと続きの広いワンルーム。風通しがよく気持ちのいい空間でしたが、子どもが生まれてからは手狭になり、物を整理する難しさを感じていたそう。
大谷さん:
「仕事柄、スタイリング小物を自宅に保管していますし、自宅が仕事場でもあります。そこに娘のものが増え始めたら、もう大変。すべてのものが混在していて、暮らしと仕事の境がないような状態でした。
新しい住まいは、以前の部屋より広くなり、物を収納できるスペースが増えたこと。そして部屋数が増え、リビングと仕事をする空間が分けられることも決め手になりました」
スタイリストという仕事をしていても「実は整理収納はすごく苦手」と話す大谷さん。
だからこそ新居への引越しを機に、続けやすい収納の方法を考えて、見直したことがあったといいます。
“なんとなく” 収納することを、やめました
▲娘さんの食器や食事スタイは「mushie」、収納ケースは「HAY」のもの
大谷さん:
「その道具を自分がいつもどこで使うか、そのためにどこから取り出せたら一番ストレスがないか。そんな “ものの動線” を意識するようになりました。
もともと片付けが苦手な私は、ああ、あれしまうの面倒だなと思うことが多々あって。でも、それはしまいづらい場所に収納しようとしているからだと気づいたんです。
たとえば娘の食器は、毎食同じものしか使わないので、洗うたび食器棚にしまうのがひと手間に。エプロンや紙ナプキンなど一緒に使うものとまとめてキッチンカウンターの上に置いておくようにしたら、日々の出し入れがらくになりました」
そうやって収納場所を見直すようになったきっかけは、引越し直後にダンボールを開梱したこと。ダンボールから出したものを、とりあえずどこかに置きそうになるのをぐっとこらえて「これはどこで使うんだっけ? それならどの場所に置けたら一番いいんだろう?」と考え直す作業を、ひとつひとつ繰り返していったそう。
「それがとても大変で、引越し直後の2週間が本当にしんどかった」と笑う大谷さん。けれどそうして物の居場所をいちから見直す機会を作ったことが、今の心地よさにつながっているのだと話します。
家の中にあるもの一つ一つが「誰のものか」を明確にしてみたら
▲大谷さん自身の部屋には、スタイリング小物が「バンカーズボックス」や東急ハンズの収納箱におさめられています
大谷さん:
「それから、夫婦それぞれの所有物を明確にすること。考えてみると家の中にあるものは、ほとんどが ”誰か” のものだと気づいたんですね。皆のものって、薬や衛生用品など、案外ほんの一部なんです。
以前は全員の持ち物がリビングに集約していました。でも、今の家は私と夫それぞれの部屋ができたので、個人に属した持ち物は、自分の部屋に置くように。
元々私も夫も片づけが苦手でしたが、なんとなく置いてあるものを『これは誰のもの?』と確認し合う習慣ができて。そうしたら、リビングが以前よりずっと片づきやすくなりました」
一箇所だけでも「きれいをキープする」場所をつくる
そんな経緯で、大谷家のリビングには今、あまりものがありません。夫婦の持ちものを置かなくなり、娘さんのものと家具のみが置かれた、すっきりした状態です。
大谷さん:
「ここはいわば “応接間” のようなスペースとして、ものを極力減らした分、できるだけ片付いた状態をキープできるようにしています。
たとえば急な来客があるときも、この部屋があれば大丈夫。いつ人に見せてもいいと思える場所がひとつできたら、家の整理に手が回らない忙しいときでも、自分の気持ちが穏やかになることに気づきました」
▲この家に越したタイミングでテレビも処分。代わりにプロジェクターを活用しているそう
ここに置くのは、子どものものだけ。そうすれば子どもが散らかしたものを元の場所に戻す以外、余計な片づけが不要に。また、仕事道具を置かないことで、暮らしと仕事にも境がつけられるようになったといいます。
暮らしは、スタイリングできないものばかりだから
大谷さん:
「私はスタイリストという仕事柄、素敵な一角を部屋に作ることは得意です。でも、やっぱり整理収納は苦手。だってリアルな暮らしは、スタイリングできないリアルなものばかりですから。
たとえばゴミ箱は? ラップやポリ袋や洗剤の替えは? 全部を素敵な見た目で揃えることもできないし、しまい場所を作ることも難しいですよね」
子どもと暮らすようになって、自分の好みだけで選べないものも増え、余計にそう感じるようになったという大谷さん。
だからこそ、それらとどう向き合い、整理しながら心地よく暮らしていくか。そんな工夫を考えながら住まいを作ってきたそう。
2話目以降は具体的な生活空間を見せていただきながら、大谷さんならではのインテリアの工夫について伺っていきます。
【写真】清永洋
もくじ
大谷 優依
雑誌と書籍のエディトリアルデザイナーを経て、2012年インテリアスタイリストとして独立。 ライフスタイル誌を中心に、雑貨、インテリアや空間イメージのスタイリングを担当。 企業ブランドのカタログ、広告、空間演出なども手がける。Instagram:@otaniyui
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