【模索するふたり】前編:「北欧、暮らしの道具店」のプロを目指してみる、というのもいいかも?(田中 × 澁谷)

ライター 長谷川賢人

ふだんはせわしなく、仕事と向き合うクラシコムのスタッフたち。ゆっくり、じっくりと、お互いのこれまでを振り返って話す時間は……実はそれほど多くありません。

でも、あらためて話してみると、人となりがもっとわかったり、新鮮な発見が得られたりするもの。そこで、スタッフ同士でインタビュー(というより、おしゃべり?)してみる機会を持ってみることにしました。

今回は、当店で販売する商品に関するページを作る「ストア編集グループ」の田中と、当店の公式YouTubeで公開している動画などを制作している「コンテンツ開発グループ」の澁谷が登場。

実はふたりとも、それぞれのチームを立ち上げていく「初期メンバー」としての共通点があります。さらに仕事のことも、自分自身のことも、どこか探しながら考え続けているそう。

そんな “模索するふたり” ですが、クラシコムで働いていくなかで、あらためて自身に「変わったこと、変わらないこと」もあるのでしょうか?

前編は澁谷が主に聞き手となって、田中に色々と質問してみました。

 

「自分のしていることが、いったい何になるのだろう?」

澁谷:
もともと、今のような仕事をしようと目指していたんですか?

田中:
それがぜんぜん、一本道じゃなくて。高校生の頃は、文化財の修復や考古学に興味があって、それが学べる大学を目指したけれど、落ちちゃったんです。別の学科に進んでも面白さを見いだせず、そこから就職しても、ずっと生き方を模索していました。

「自分のしていることが、いったい何になるのだろう?」と感じながら、いろんな仕事を続けてきました。でも、それらがクラシコムで活きて、「今、好きなことをやれているかもしれない」とつながる瞬間も来たんです。

澁谷:
すごく興味あります。私も、自分の中に「散らばった何か」がいっぱいあるけれど、つながる時が来るのかなって、ずっと不安なままなんです。しかも、それがどんどん増え続けて……。

田中:
増えますよねぇ。私もそうだった。

澁谷:
田中さんの「つながった」道のり、知りたいです。

田中:
就職の時は、絵を描くのが得意だからグラフィックデザイナーもいいな、と広告制作会社を志望したけれど、受かるはずもなく。最初に勤めたのは、地元の編集プロダクションでした。地方新聞社の広告枠やタウン誌の編集業務として、ライターやカメラマンのアシスタントをしていました。でも、現場もハードすぎて、1年で辞めることに。体がそれほど強くないんだなぁ、と知りました。

次は、派遣社員としてコピーサービスを主業務としている会社に勤めました。「急ぎで名刺100枚!」みたいな注文に応えたり、年賀状やハガキの印刷をしたり。その仕事をするには画像編集ソフトを使えないといけないので、空き時間が出るたびに、教本を引きながら勉強していましたね。

そうしたら、そのソフトが使えることもきっかけになって、食品メーカーの通販部門でチラシ制作や通販業務に携わることになりました。

 

転職の道のりが「つながった」と思えた場所

澁谷:
あっ、ゴールを知っているおかげもありますけど、近づいてきましたね(笑)。

田中:
通販のことを学びながら、自由に働かせてもらったとは思うのですが、勤務時間も長くなってきて。その会社は好きだったけれど、「もっと健やかに働くにはどうしたらいいかな」と考え始めました。

暮らしのことにも興味を深めていって、たまたまあるエッセイで、アラビアの「ブラックパラティッシ」を知りました。ネットで検索したら「北欧、暮らしの道具店」がヒットしたんです。ちょうど『かもめ食堂』の特集ページを出していて面白いなぁ、と。

そこから2年くらいサイトを見ているうちに、社員募集の案内が出て、思い切って応募したところ入社が決まりました。それで地元から上京して、社員歴12年目に至るわけですね。あっという間に時が経ちました。

澁谷:
確かにクラシコムで仕事をするのに、必要なことばかりでしたね。

田中:
かといって、澁谷さんを脅すわけじゃないんですけど(笑)、40代になった今も自分としては「まとまった」とは全く思っていないんです。昔は「グラフィックデザイナー」みたいな存在になりたかったのかもしれないけれど、今はそうでもなくて。

「やりたいこと」や「興味のあること」を感じながら、ちょっとずつ得意なことが増えていって、クラシコムで仕事ができている、という感じ。

 

「わからない」から出発するから、模索できる余白もあります

澁谷:
入社してからは順調でしたか?

田中:
ぜんぜんです。できないことばかりで、しんどいときも多かった……。

でも、仕事をするうちに、次から次へと来る「新しい出会い」を楽しまないともったいないなって思うようになったんです。

あとは、「北欧、暮らしの道具店」は自分の表現方法の場ではない、と頭でわかってからの方が、ぐっと仕事がしやすくなりました。大事なのは、伝えたい商品の魅力を、私たちがどうやって広げていけるかなんだなって。

澁谷:
イメージがうまくわかない商品もありませんでしたか?

田中:
まずは撮影や制作に入る前に商品と戯れてみます。「どうやって使ったら楽しいんだろう」と思いながら、1週間くらい一緒に過ごしてみると、自分とのつながりが見えてくるんですよね。

それでも、うまく紹介文が書けなかったり、写真のイメージがずれてしまったりすることはあります。そうやって、お店がお客さまへ届けていきたいイメージと重ね合わせていく。

いつも「わからない」から出発するけれど、そうやって模索できる余地も面白くて、今日も繰り返しているような感じです。

 

「北欧、暮らしの道具店」のプロを目指してみるのもいい

澁谷:
クラシコムで仕事をしてきて、自分の変化を感じますか? 苦手なことができるようになった、とか。

田中:
それで言うと、苦手を乗り越えたわけではなくて、年々と「できないことがわかってくる」という感じ。

あの人は写真が得意で、この人は文章が素敵で、その人は現場の進行が上手で……と見えてくるほどに、自分はどれも敵わないけれど、できないなりに「今の自分ができるところまでは、しっかりとやっていくしかないんだ」と切り替わったとき、すごく楽になりました。

さっき話した、商品と一緒に過ごして自分なりに伝え方を考えるのもそう。あとは、「あえて」しているというよりは、昔から変わらずに「つい」やってしまうのは、みんなが機嫌よく働けるように、掃除をしたりおやつを用意してみたり、社内にいるときは「とにかく元気でいる」とか(笑)。

澁谷:
空気の良さって、仕事をするのにも大事ですものね。

田中:
以前まで当店で配布していた『暮らしノオト』というリトルプレスの編集を担当していたとき、社外のフリーランスの方と話してみると、みなさんが「自分の得意技」を持っていて、それを掛け合わせて「苦手」を補ったりしながら現場を作っていることを知ったんです。

会社員でもフリーランスでも、自分の「得意」と「苦手」を捉えることで、健やかに生きていくことにつながるのかもしれないです。

澁谷:
さきほどは「何も肩書きはついてないけれど」と話していましたが、そういう人たちと関わることで「肩書きが欲しい」とは思いませんか?

田中:
「何者かになりたい欲」はあるものの、今はこのまま生きていこう、みたいな感じに収まってますね。

私は、通販のプロでもないし、文章も写真もプロかと言われたら自信はないです。でも、「何ができますか?」と聞かれたら、「北欧、暮らしの道具店にいるからこそできること」のプロを目指せばいいのかな、って時々思うんです。

この11年間は、本当に何が起こるかわからない日々だったけれど、私はそこをしっかり担えたらいいのかなと。今は自分の仕事に専念しようという気持ちですね。

 

みんなで作っているからこそ、一人ひとりのことが知りたいです

澁谷:
田中さんが入社した頃からすると、クラシコムのメンバーも増えましたよね。

田中:
育休から復帰したら「はじめまして」のメンバーも多かったです。だから、まずはそれぞれの性格を知ろうとしていました。みんなで「北欧、暮らしの道具店」を作っているからこそ、まずは一人ひとりのことが知りたかったんでしょうね。

澁谷:
たしかに。私も連絡ツールでのさりげない会話から「こういう雰囲気なんだなぁ」と感じていました。

田中:
うんうん。チームでも雰囲気って違いますもんね。他のチームの人たちと、オフィスで会った時にはぜひ、ちょっとでも喋りたくて。だから、出社するたびに、ついつい声を枯らして帰っていくんです(笑)。

他のチームの人と商品の話をすると新しい発見がもらえるんですよ。商品を手にオフィスを歩いてると「それ、今度売るものですか?」なんて声をかけられて、おしゃべりが始まる。それは私自身も、そういう話す機会を引き寄せるために、あえてやっているところもあるかも。だから、どんどん話しかけてみてほしいです。

澁谷:
こういう機会だと伝えやすくていいかもですね。田中さんが、これからクラシコムでやってみたいことって、ありますか?

田中:
まずは、へこたれない心を持つこと。「北欧、暮らしの道具店」は、新しい表現方法や商品の見せ方がどんどん出てきますし、それにはしっかり付いていきたい。でも、今は子育てもあって、これまでのようなペースで仕事がしにくいときもあります。

私の年次からすればメンバーを助ける立場になるところが、子どもの都合でお休みをもらったりして、サポートしてもらう側になることも多いんです。でも、「今の自分ができるところまでは、しっかりとやっていくしかない」という気持ちで、担当できる仕事の幅が狭くなっても、お休みが多くても、へこたれない心でもっと取り組んでいきたいですね。

それに、今はそういう「立場」に捉われずにいよう、とも思っています。私は実家暮らしもひとり暮らしも長く、何の運命か40代で子育て真っ最中になった。そういう私だからできることをしたいです。

クラシコムには、いろんなライフスタイルの人が集まっていて、それは見ているお客様も一緒だから、「フェアに気持ちよく仕事するには?」「誰でも心地よく見られるサイトであるためには?」と考えながら仕事をしていきたいです。それはストア編集の仕事に留まらなくても。

誰も傷つけないようにするのはとても難しいけれど、その気持ちを持って挑んでいるというだけでも違うと思うので。やっぱり自分がこの会社を選んだのも、「健やかに、でも一生懸命に仕事をして生きていきたい」と思ったからですしね。

 

(後編へつづく)

【写真】土田凌

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