【食器棚ものがたり】:洋服と一緒で、器も自由でいいんだなと思いました(vol.1 横溝賢史さん)
編集スタッフ 津田
きょうは、どの器で食べようか? 食器棚を覗いて、自分のための器を選ぶのは愉しい時間。
たとえ同じような形と大きさでも、ちょっとした模様や色合いで食卓のムードはガラリと変わる。マンネリのおかずでも、気分は新鮮。だから、器はいくつあってもいい、と思うようになりました。とはいえ収納も気になって……。
この読み物は、食器棚と器を訪ね歩く連載です。どんな家にもあるけど、一つとして同じものはない。そんな食器棚と器と収納を見せてもらいながら、おしゃべりしたことを、小さなコラムにしてお届けします。
インテリアと料理とお酒が好きな、横溝さんちの食器棚
第一回で訪ねたのは、横溝賢史(よこみぞ・けんじ)さんのお宅。築50年のマンションをリノベーションで2LDKにした、夫婦と、ホシガメのほしくん、保護猫のれみくんの賑やかな四人家族です。
家具は北欧ヴィンテージやミッドセンチュリーのもあれば、アフリカのスツールも。世界中からやってきたものが楽しげに飾られていて、どこを眺めても絵になります。聞けば、洋服が大好きで、前職はBEAMS(ビームス)でビジュアルマーチャンダイザーとして店舗の内装やディスプレイに携わった経験もあるとのこと。
横溝さん:
「夫婦ふたりとも大阪で働いてたのですが、東京に転勤になり、しばらくしてからこの部屋を買いました。築年数が経っていたので、内装は自分たち好みにリノベーションすることにしたんです。
作りつけの収納や家具は無しにして、好きなものを自由に配置できる空間にしたいなって。長く使えそうな家具は、前から少しずつ揃えていたので、新しく買ったのはダイニングテーブルくらい。最初から完成させすぎないようにしていましたね」
インテリア好きの横溝さんが、器を意識するようになったのは、20年ほど前。
BEAMSのレーベル〈fennica(フェニカ)〉のディレクターだったテリー・エリス氏が、日本や北欧を中心とした世界中の民藝や伝統文化に魅了されて、お店でそれらを日常的な生活やファッションに取り入れる提案をしており、20代だった横溝さんは大きく影響を受けました。
横溝さん:
「まだ一人暮らしで、家具も器もたくさん置ける家ではないけれど、だからこそ『いつか買えるようになったら!』と憧れていました。
その後結婚して、妻と旅行のついでに窯元を訪れるように。沖縄に行ったときにやちむん、福岡に泊まったら足を伸ばして小鹿田へ。料理とお酒が好きで、人を招くのも好きだから、そういうシーンで集めたものを使えるのが、すごくうれしいんです」
やちむんが大好き。フリーハンドで描かれた柄に惹かれます
▲お気に入りのうつわやグラス。やちむん(読谷山焼 北窯・松田共司)、小鹿田焼、スリップウェア(益子焼・伊藤丈浩)、オアハカの土器など
はじめのうちは嬉しくて、窯元で10点以上をまとめ買いすることもあったそう。
けれど今は、だいたいのものは揃っており、器を買おうとなるのは「魚をのせるのがないな」「もうすこし浅いボウルみたいなのがあったらな」など、しっくりくるものが食器棚に見当たらないとき。
横溝さん:
「器はやっぱり実用性が大事。自分たちの料理に合うものを選びたいですし、夫婦で話しながら決めることがほとんどです。
僕はシンプルなものよりも柄が入っているものが好きで、やちむんとかスリップウェアが大好き。人がフリーハンドで描いたものに惹かれます。なにげない線にも思いがあったりして、その奥深さやインスピレーションがすごいな〜と。
シンプルなお刺身や炒め物は、白い器だと緊張するけど、こういう器なら釉薬や柄のおかげで盛り付けやすいという利点もありますよね」
組み合わせにルールがあるのかな?と思ったけれど
そんな器は、ダイニングに置かれた食器棚に収納されています。
テーブルも椅子もナチュラルだから「引き締めるために黒にしたかった」と、仙台の古道具屋で見つけた水屋箪笥は、今年買い替えたばかり。硝子戸越しに器たちが見えるのがうれしいところです。
やちむんやスリップウェアのなかに、地中海のカラッとした風を感じるスペインのタパス皿、元気がもらえそうな赤色のメキシコのボウル、日本の古着屋さんで見つけたという北欧の器、妻がちょっとずつ集めている〈アスティエ・ド・ヴィラット〉の器などが交じっています。
横溝さん:
「いろんな国からやってきたものがあって、けっこうバラバラです。
はじめは、器を組み合わせるのにもルールがあるのかなと構えていたけど、いろんな窯元や民芸品の店に足を運ぶうち、たとえば米国のリーバイスにドイツ生まれのアディダスのスニーカーを合わせてもいいように、洋服と一緒で、自由でいいんだなと感じるようになりました。
前職時代の師匠から『同じことばかりやっているなよ。当たり前が当たり前じゃなくなる瞬間がくるから、それを見逃すな』と口すっぱく言われていて。服もそう、インテリアや器もそうだと教わったのも大きいです」
収納は、洋服屋さんの陳列のように
たっぷり収納力がある上に、硝子戸で中が見えてしまうため、収納は「なるべくごちゃごちゃしすぎないように」と「よく使うものを取り出しやすく」がモットーです。
横溝さん:
「ガラスはガラスで。角皿は角皿で。素材や色、かたちでまとめるようにしています。
あとは、そこまで意識的ではなかったんですが、目線に合わせていて。目線と同じになる上段にグラスや湯呑みを、やや見下ろす中段に平皿を、さらにその下を大皿としています」
横溝さん:
「こうすることで、全体を見渡しやすくなり、どの器もまんべんなく使えるようになります。平皿だと、上から見たほうが柄がわかるし、足つきのグラスや湯呑みは、横から見たほうがデザインがわかるでしょう?
じつはこれ、洋服を陳列するときのメソッドと同じで、自然と目がいく高さにあるものは埋もれにくくなるんです。そんなふうに工夫しています」
▲マグカップは棚に並べると場所をとるから食器棚が小さかったときはこんなふうにかごに収納して布をかけていた。「入りきらない器があるときおすすめです」
尺越えの大皿と、ラム肉の麻婆豆腐
ダイニングとリビングをゆるく仕切っているベンチにも、大きなお皿がありました。食器棚に収まらない尺を越えるサイズはここが定位置。来客時にカルパッチョや麻婆豆腐を盛りつけるといいます。
横溝さん:
「一番上のは、職場の先輩から引越し祝いにもらいました。その先輩に倣って、自分たちも人を呼ぶのが好きになったんだと思います。
よく作るものですか? なんだろう。僕、子供の頃からお刺身が大好きで、毎日夕飯にしているんです。柵で買って薄造りにして、柑橘を添えたり、おかひじきを出汁醤油であえたのや、パクチーや茗荷を刻んでどっさり盛るのが定番です。
あ、でも一番よく作るのは麻婆豆腐かな。うちのは辛いんです。ラム肉を包丁で叩いて、合挽肉も加えて、木綿豆腐をちょっと大きい賽の目にカットして、下茹でして合わせる。なんていうか、豆腐が、辛さの余白地帯みたいな感じです」
どんどん出てくる料理のエピソード。かつては、来客がある前夜に夫婦二人でせっせと餃子の皮を仕込んで、水餃子を作ったりもしていたそう。
「あまりに大変すぎて『あれはやめよう』となり、今は市販のものです(笑)。でも、せっかく来てくれるんだから、毎回ちがうメニューとお皿でもてなしたいじゃないですか。どの器になにを盛りつけようって考えるのは、すごく楽しいことですよね」
夜に明かりが灯って、ダイニングテーブルにグラスや器が並んで、お客さんとワイワイ楽しく過ごしている様子は、とても素敵だろうな。温かくほかほかした気持ちで、横溝さんのお宅を後にしました。
第二回はどんな食器棚に出会えるでしょう。不定期にのんびり更新していきます。どうぞお楽しみに。
【写真】木村文平
横溝 賢史
1998年にBEAMS(ビームス)入社。店舗スタッフ経験後、VMDとして店舗の内装やディスプレイ、ピルグリム サーフ+サプライのMDなどを担当。現在は転職してNEPENTHES(ネペンテス)が北海道・美瑛を拠点に独自の発信を行うプロジェクト「花、太陽、雨」に携わる。プライベートでは、アパレルブランドで働く妻と亀と猫の四人暮らし。好きなものは、インテリアと料理とお酒。趣味で釣りもする。
https://www.instagram.com/yokoken/
https://hanataiyoame.com/
※記事に登場したアイテムは、全て私物です。過去に購入したものを紹介しているので、現在手に入らないものもございます。どうぞご理解、ご了承いただけると幸いです。
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