【自由な賃貸】01:ワンルームにも「間取り」は作れる。58平米、2人暮らしの自由なインテリア(稲数麻子さん)

ライター 瀬谷薫子

もっと収納が欲しいとか、もう一部屋あれば、とか。住まいの理想を挙げればきりがありません。

でも、100点満点ではないからこそ工夫する楽しみがあるのかも。アートディレクターの稲数麻子(いなかず あさこ)さんの住まいを見ていると、そんな風に感じます。

店舗ディスプレイや空間デザインを手がける事務所「KOTO」を主宰する稲数さん。

彼女の自宅は、備え付けの収納がごく少なく、ワンルームに仕事場と暮らしが共存している、一見ハードルの高い住まい。けれどインテリアは、そんな制約を感じさせない自由で楽しいつくり。

今回はそんな住まいの工夫について、全3話で伺っていきます。

 

ガラス張りの窓に白い床。「理想通り」ではなかった、今の住まい

都内の賃貸マンションに、仕事のパートナーでもある夫と愛犬と共に暮らす稲数さん。

自宅は58平米の1LDKで、寝室だけが別室にあり、そのほかの生活スペースはひと続きのワンルーム。玄関を上がるとすぐにふたりの仕事スペースがあり、その奥にリビング兼ダイニング、キッチンが続いていきます。

▲玄関をあがって左手にある、稲数さんの仕事スペース

ここへ越したのは1年前。それまで別々だった仕事場と家を一緒にしたいと考えて、以前より広い住まいを探して決めたそう。けれど話を聞いてみると、この家は決して理想通りではなかったといいます。

▲仕事柄、工具や画材を使った作業からPC作業まで、幅広く行うそう

稲数さん:
「ここに決めた理由は、犬がOKだったこと、駅からのアクセスの良さ、デザイナーズマンションで内装が面白かったこと。どちらかというと利便性を重視して決めたので、理想通りではない部分も多かったです。

そもそもこの部屋は、床も壁も真っ白な長方形の箱状態。どんな空間にしていこうか、考えましたね」

 

動線を考えて、ワンルームの中に作った「間取り」

空間をデザインする仕事柄、部屋のレイアウトを決めることは稲数さんの得意分野。引っ越しが決まった段階で、部屋全体のレイアウトを書き出して、ここに何を置くか、イメージしながらものの置き場を決めていったといいます。

たとえば仕事道具と作業場所は、部屋の一番手前側、玄関を上がってすぐの場所にまとめました。

稲数さん:
「仕事柄、道具が多いので、仕事道具をしまう棚は思い切って玄関に。部屋の中で一番邪魔にならない場所を選びました」

▲DIYで作ったという、仕切りの壁

続いて作ったのは、玄関と仕事机の間に置く壁。

ホームセンターで木材を揃え、天井と床の間には突っ張り棒をかませて板を固定。

壁を作ったことで玄関向きに仕事机が置け、暮らし空間との間にゆるい仕切りが生まれました。

▲リビングに背を向けて作業に没頭できるしつらえに

▲長野のリビルディングセンターで購入したついたて

来客があった時は、仕事スペースとの間にこのついたてを立てて、リビングとの仕切りに。

後付けの壁や可動式の家具をうまく利用し、ワンルームの中に「間取り」を作ることで、限られたスペースでも、仕事と暮らしの棲み分けができるようになったといいます。

 

賃貸の床や壁も、できるだけ理想に近づけて

元々は床も白くて、好みではなかったという稲数さん。なので、床も自分たちで張り替えたそう。

稲数さん:
「木材はホームセンターで、カッターで切れるくらい薄い木の板を購入し、自分たちでカットしたもの。元々あった塩化ビニールの床に粘着力のあるシートを敷いて、その上に板を載せて固定したので、地の床を傷める心配もありません」

入居が決まってから、家具が入る前に、3人がかりで1日半かけて張り替えを。大変な作業だったものの、稲数さん好みのインテリアに近づきました。

同様に、コンクリート素材ですっきりした印象だった壁もアレンジ。ポスターや絵を飾り、余白をできるだけ埋めることで、寂しい印象をなくしました。

片側の壁はすべてガラス張りでしたが、ストールや薄手のブランケットなどアンティークショップで購入した布ものを自由に吊るして、外の目を遮りつつ、華やかさのある壁面に。

小さな工夫を重ねて、理想の空間にすこしずつ近づけているといいます。

 

動線が整えば、ものが多くても心地よい

玄関を上がってすぐ右手には、アクセサリーやかばん、メイク用品など、外出前の身だしなみに使うアイテムを集約。愛犬の散歩グッズもこの付近にまとめられています。

ささやかですが、こんな風に暮らしの動線を考えてものを配置することも、大事なポイントだと稲数さん。

稲数さん:
「わが家はものが多いと思うんですが、暮らしづらさはあまりなくて。それは、ひとつひとつが動線を考えた定位置におさまっているからだと思うんです。

もしも使い勝手を考えず、バラバラな状態で置かれていたら、暮らしづらくてストレスが溜まってしまうはず。ものの置き場所には、特に気を配っています」

 

場所決めは私、戻すのは夫。夫婦の得意分野を活かして

ものを探して行ったり来たりしたりしたときに、ふと感じるストレス。それを見逃さず、置き場所を改善することで、この家を少しずつ整えてきた稲数さん。

けれど、決めた位置にものを戻す作業は苦手だそう。だから、定位置を決めるのは稲数さん、そこに戻すのは夫、と夫婦で分担しているといいます。

稲数さん:
「普段の仕事でも、私がゼロからアイデアを出し、夫がその進行を管理する、そうやって役割分担をしています。この家も同じように、お互いの得意なところ、苦手なところを補い合って作ってきた空間なのかもしれません」

インテリアは、ベースの住まいの形によって左右されるものだと思っていました。けれど稲数さんの考えは、その枠にとらわれずとても自由。

壁がなければ作ればいいし、床だって好みの板を張ればいい。たとえ賃貸であっても、こうしたいという理想に近づけていくことができるんだと知りました。

部屋全体のお話を聞いたところで、第2話は中身について。住まいの「収納」をたっぷり拝見します。

 

【写真】清永 洋


もくじ

 

稲数 麻子

アートディレクター・デザイナーとして、イベントの空間装飾や店舗デザイン、インスタレーションアート制作など幅広く活動する。2018年に空間演出チーム「KOTO」を創設。また、「美しいを哲学する」をテーマとした活動体「PHILOSOPHIA」を主宰し、2022年に創刊したインディペンデントマガジン「ELEPHAS」は、蔦谷銀座書店をはじめ全国30カ所で販売されている。Instagram @asakoinakazu 

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