【食器棚ものがたり】: “ヘンなの” って大好きな言葉。そういう自分が選ぶものを大切にしたいです(vol.2 髙はしこごうさん)

編集スタッフ 津田

きょうは、どの器で食べようか? 食器棚を覗いて、自分のための器を選ぶのは愉しい時間。

この読み物は、食器棚と器を訪ね歩く連載です。どんな家にもあるけど、一つとして同じものはない。そんな食器棚と器と収納を見せてもらいながら、おしゃべりしたことを、小さなコラムにしてお届けします。

今回は、東京・代々木八幡で「黄魚(きお)」という器の店と、その姉妹店でありアンティークを扱うギャラリー「kiva(キバ)」を営む、髙はしこごうさんにお会いしてきました。

 

その日の気分で、その日に食べたいものを

駅前の商店街を抜けて、静かな住宅街を歩く。気のいい街だなあとあたりを見回すと、道の向こうに団地。その8階に、こごうさんの住まいがあります。

60平米ほどの3DKに中学1年生の娘と二人暮らし。晴れた日は、窓の向こうに富士山が見えるそう。

こごうさん:
「お客さんに教えてもらった物件なんです。築50年くらいでしょうか。

それで4階に入居していたんですけど、最上階の角部屋が空いたと聞いて、すぐに申し込みました。前の部屋で7〜8年、ここに越して2年くらい。眺めがいいからうれしくて。私、不動産運だけはあるみたいなんです。11年前に黄魚を始めようと思った時も、とんとんとん、と物件が決まって話が進んだんですよ、ふふふ」

夕飯は、こごうさんが仕事から帰って準備します。「その日の気分で、その日に食べたいものを、ちゃっちゃっちゃっと」作ったものが並び、盛り付ける器を選ぶのと、洗い終わったものを棚へ戻すのが娘さんの役割です。

二人で食卓を準備した後は、大事な一日の報告タイム。学校であったことや、部活のこと、それぞれの恋の話を聞いたり、相談に乗りあったり。

こごうさん:
「なかなかゆっくり一緒にいられないですからね。

娘はちょっと内弁慶で、外では口数が少ないけど、家だとよくしゃべる子でした。4、5歳から、私が夕飯を作るときはいつも台所にきておしゃべりしていたと思います。今ではもう、私よりずっとしっかりしてますよ(笑)

器選びもその流れで。最初は箸置きから選んでもらいました。夏にたい焼きの箸置きはダメ、おかずに合わないお皿もダメ。季節感を大事にすること、食べやすいものを選ぶこと。そういうところはハッキリ伝えていました」

 

家もお店も、自分が「使いやすい」と思う器だけ

▲ダイニングに置かれた食器棚。福岡のアンティーク家具屋「krank(クランク)」で見つけた

そんなこごうさんちの食器棚を覗かせていただきました。銘々皿や小皿、中鉢など、小さなサイズのものが多そうです。

こごうさん:
「店を始めたとき、娘は2歳でまだ食も細かったので、自宅で使うのは小さなお皿ばかり。だから黄魚で紹介するのも、小ぶりなものがほとんどでした。

当時よくお客さんから『大皿はないの?』と聞かれて。我ながら『確かになんでないんだろう』と思うんだけど、私が使わないから、なんですよねぇ。結局、自分がいいと思ったものだけなんです。そこは11年ずっと変わっていない部分かもしれません」

▲店で扱うものは、必ず家でも使ってみる。後藤睦さんのパン皿(上)、角田淳さんの器(下2枚)は黄魚をはじめた頃からの愛用品。

 

100年前の器も、遠い国の器も、みんな同じように食卓へ

どの器も、佇まいに統一感はあるものの、よく使っているものをいくつか見せてもらうと、きっぱり清潔な白磁、ざらついた焼き締め、ぽってり厚みがあるもの、つややかなもの、川原の小石のようにすべすべしたものもあれば、作家さんのもの、100年以上前の骨董品、ヨーロッパやモロッコのもの、などなど……。

ちょっと意外だったのは、黄魚で扱っている作家さんのものだけではなく、海外で買い付けたものやアンティーク品などが、ほんとうにジャンルレスに仕舞われていたこと。

▲よく使う器。左上から時計回りに、十場あすかさんの「化石マグ」、モロッコで買い付けた「モロッココップ」、その隣と下の鉢はモロッコのアンティークで150年前のもの、渡辺隆之さんの楕円皿

▲ペルーの器(左)と、阿南維也さんの金彩の器(右)。遠い国で作られたものだけど、どこか通じているよう。他にもルーマニアやパキスタンなど「いろんな国と時代のものを、自分で使ってみることが大事」

こごうさん:
「私が日々作るような煮物、炒め物、スープ、カレーなどのかんたんな食事でも、こういう “いい器” に盛るだけで格好がつくんですよね。

渡辺隆之さんの楕円皿は、めちゃくちゃ使いやすくて、私も娘も大好き。工房にも一緒に行きました。おかずの取り皿にもするし、お漬物をのせても似合うし、あとはなんだろう、卵とトマトを炒めたのとか、すごく収まりがいいんです。

今は、アンティークも好きで、オランダやドイツで買い付けてきたものを、こういう作家ものに合わせる提案をしたいなって。国や時代がぜんぜんちがうけど、どこかで通じているような気がして、面白いんです。答えがあるわけじゃないけど、娘とも食卓を囲みながら、どうしてだろうね?って器を見てあれこれ話します」

 

余白を作るために、ただいま器を見直し中

こごうさんは長野県戸隠出身。画家であった父の「表現者になってほしい」という言葉に導かれるように、さまざまな模索と紆余曲折を経て、2012年に始めたのが器の店『黄魚』でした。

気づけば10年以上の月日が流れ、手持ちの器は食器棚から溢れるほどになっていました。

こごうさん:
「色々使ってみたくて、増えすぎちゃうのが悩みです。キッチンの吊り戸棚にも収納していて、季節外のものや、『もう使わないかな』というものを、なんとなく移動させて、しばらく出番がなければそのまま譲ったりもしています。

私、じつは今度結婚することになったんですよ。フランス人の彼と。あと5年くらいして、娘が大学に入るときに、私が向こうに移住する計画です。娘は早く一人暮らししたいようで『いいね!』と背中を押してくれていて。それもあって、器を大体4分の1くらいの量にまで減らしました」

それは、黄魚の姉妹店として、アンティークを紹介するkivaの準備を始めたときでもあります。

こごうさん:
「きっと転換期だったんですね。アンティークのものも扱おうとしてたけど、作家さんのとミックスするには、手持ちのものが多すぎました。新しいことを始めるときって、余白がないとできないものですねぇ……。でもまた増えてきちゃったので見直さないと、と思ってます」

 

ものを選ぶときの「ものさし」は、自分の中に育まれているはず

大切にしてきた器を半分以上も手放す……。きっと大変な作業だったのでは?と水を向けると、そうでもないような、どこかすがすがしい表情のこごうさん。

こごうさん:
「実家にいた頃、父の友達がたくさん遊びに来てたんですよね。陶芸家、版画家、染色家とか。そういう変わった人たちに、子供のうちに会っていたから、私って今この仕事ができているんだなと思うんです。

ものを選ぶときの “ものさし” っていうんですかね……。先日フランスで買い付けていたら『君、年代わかるの?』と聞かれて『いや、わかんない』と言うと『君はアンティークしか選んでない』と。それって父の影響なのかなと思いました。

ずっとヘンなものに囲まれて生きてきたし、生前の父とも、今は私一人でですけど、時間があれば博物館に行って、100年や200年以上前の器を、日がな眺めたりしています。その中で、ふと目に留まるものがあれば、どうして?どこが好きなんだろう?って自分に問うてみるんです。器もそんなふうに見直しました。

黄魚も、kivaも、みんなから『ここにはヘンなものがあるね』って言われるような店になりたいなぁと思います。それは、儲かるかどうかよりも、きっと私自身がどう生きたいかってことですよね。『ヘンなの』って大好きな言葉。私にとっては、最大の褒め言葉かもしれません(笑)」

§

さて次回は、どんな食器棚に出会えるでしょうか。不定期にのんびり更新していきます。どうぞお楽しみに。

 

【写真】木村文平

 

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髙はしこごう

東京・代々木八幡「暮らしの店 黄魚(きお)」と、その姉妹店「kiva(キバ)」の店主。おおらかな気持ちで使えるよう、店に並ぶうつわのほとんどは「レンジや食洗機にかけられ、子どもが安心して使える」という視点で選ばれている。Instagramは@kurashinomisekio

http://www.kio55.com

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