【目標って、立てますか?】02:立てないです。達成を目指すのではなく、自由にがんばりたいから(牟田都子さん編)
ライター 片田理恵
小学生の頃、クラス全員で「今年の目標」をテーマに書き初めをしました。なんと書いたかは忘れてしまったけれど、みんなそれぞれ一生懸命に頭をひねって考えたはず。こればかりは「友達と同じ」というわけにはいきませんから。そしてその宣言は、3学期の間中、廊下に貼られていたように記憶しています。
当時は必須だった「目標を立てること」を、大人になった今は自分で選択できるようになりました。立ててもいいし、立てなくてもいい。目標との距離感が自由になった今だからこそ「目標って、立てますか?」と尋ねてみたいと思います。
特集に登場くださるのは、編集者・ライターの一田憲子(いちだ・のりこ)さん、校正者の牟田都子(むた・さとこ)さんです。
目標を設定するのは……得意じゃないです
後編でお話を伺うのは、フリーランスの校正者として活動される牟田さん。本になる前の試し刷りを読んで、内容の誤りを正したり、不足な点を補ったりする校正の仕事を、小説、エッセイ、ノンフィクションといった書籍を中心に手がけておられます。
また「読む人」だからこその言葉を「書く人」として発信する執筆活動も行っており、現在は、校正者がどのように本と向き合っているかをつづった著書『文にあたる』の続編を執筆中とのこと。
さて牟田さん。目標って、立てますか?
牟田さん:
「立てないです。って、そんな答えでいいんでしょうか(笑)? 目標を設定するのは得意じゃないんです。趣味でマラソンをするんですけど、週に何回走ろうとか、何分以内で走ろうとか、そういうことも全く気にしません。走れる時に走る。その日の気分やコンディションによって距離もペースも違います」
そうなんですか! 日常的に運動をされている方は特に、目標達成がモチベーションでもあるのかと思っていました。私はそれができないから運動も続かないのかなと……。
目標とは違うがんばり方がしたい
牟田さん:
「もちろん、目標を決めて走るランナーもいると思います。達成に向かって努力できる人はすごいし、その人にあったやり方だからそれでいい。でも私には向いてないなぁ。小さい頃は立てていたかもしれないけれど、大人になってから自発的にはしなくなりました。
たとえば遠くの山の上に旗が立っていて、そこを目指しているとするじゃないですか。目標を立てる人は地図を見てコースを決め、所要時間を計算してその通りに進んでいくことが醍醐味だと思うんです。
でも私にとっての優先順位はそうじゃない。近道じゃなくていい、舗装されている道じゃなくてもいいという感じで、進みたい方に進んでしまう。一歩でも旗に近づくためにできる限り前に進むぞ!というがんばり方なんですよね」
興味深いです。がんばり方のベクトルが違うんですね。『広辞苑』で「目標」を引くと「目的を達成するために設けた、めあて」とありました。そういう具体的なめあてはなくてもいい、と。
牟田さん:
「そうです。私は校正の仕事をしていますが、最初からこの職業を目指していたわけではありません。図書館をやめて再就職活動をし、出版社の校閲部に業務委託で入ったのがきっかけです。
その後、人との出会いやさまざまなご縁が重なってフリーランスになりました。だから目標に向かって進んできたというより、なんとかして自分の人生を生きていこうと一生懸命歩いてきて、振り返ったらうしろに道ができていた。そんな感覚なんです」
今、かつて思い描いていた未来にいます
「目標は立てないけれど妄想はしますよ」と牟田さんが見せてくれたのは、数冊のノートと万年筆。ノートは好みのものを見つけるとつい買ってしまうそうで、どれもさりげなく入ったピンクが素敵です。万年筆も淡いピンク。
牟田さん:
「私の妄想用ノートです。お気に入りの文具を使うのは、妄想がより楽しくなるから(笑)。このノートに『これから私はこうなります』と宣言を書くんです。こうなりたい、なれるといいなではなく『こうなる』と断言する。
アファメーションといわれる方法で、知人のすすめで興味を持ったのをきっかけに始めました。定期的にでなくてもいいから、継続してやることが大事みたい。私は10年以上続けています。
やり方は簡単で、好きな時に、好きな場所で、好きなようにノートを書くだけ。なにしろ妄想を具体化していく作業なので、すごく楽しいんですよ。私はカフェや公園に行って、お茶やお菓子を楽しみながら書くのが好きですね」
牟田さん:
「10年前は、理想の住まいについてよく妄想していました。『パートナーを見つけて、駅から徒歩3分のところに住まいを持って、日当たりがよく風が通る部屋で、気のいい猫を飼う』といった内容を、毎回のように書いていたんです。
当時の私にとって、それははるか遠い理想の未来でした。だけど今、その妄想が現実の暮らしになっている。気づいたら思い描いていた未来にいる。それは奇跡が起こったのではなくて、まわりの人たちに支えてもらいながら一歩ずつ歩んでこられたからだと思うんです」
妄想は目標のはるか上をいく
妄想が現実になる。これだけ聞くと確かに奇跡か魔法のように聞こえるかもしれません。
「風が通る部屋」や「気のいい猫」という牟田さんの言葉からわかるのは、それが条件ではなく価値観や指針だということ。どんなふうに暮らしたいか。どんなふうに働きたいか。妄想の中に確かな実感があったからこそ、それが現実に結びついていったのではないでしょうか。
牟田さん:
「目標って上限が決まっちゃうでしょう? だからたとえ叶っても想像の範疇を出ないんですよ。妄想はそのはるか上をいく。その方がおもしろいし、わくわくするんです」
目標という枠にとらわれない。それは前編の一田さんのお話とも繋がっているように感じました。大事なのは目標を立てて達成することではなく、新しいビジョンを持つことを、私の心が喜んでいるかどうか。昨日の感動や感謝を、思い描く希望や未来を、喜びと感じられる私であるかどうか。
一田さんと牟田さんが実践されていたのは、ノートを通じて自分自身と対話をすることなのだと思います。そしてそこに書きつづった言葉は、ほかの誰でもない、私から私へのメッセージ。これからの自分に送るエールなのだから。
さぁ、新しい一年。あなたは目標を立てますか?
(おわり)
【写真】井手勇貴
もくじ
牟田 都子
1977年、東京都生まれ。図書館員を経て出版社の校閲部に勤務。2018年より個人で書籍・雑誌の校正を行う。これまで関わった本は150冊以上。共著に『本を贈る』(三輪舎)など。2022年に単著『文にあたる』(亜紀書房)を出版。朝日新聞で「牟田都子の落ち穂拾い」を連載中。
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