【おおらかに暮らす小さな家】第1話:家族5人、32平米。建築家の考える「許せる暮らし」をのぞいてみました

ライター 藤沢あかり

いまの住まいの広さに満足しているというひとは、はたしてどのくらいいるでしょう。

時間の経過は、暮らしをどんどん変えていきます。いつしかものが増え、家族が増え、またものが増え。だからでしょうか、そのたびに「ああ、もっと広かったら」と思うのです。

これからご紹介するのは、建坪9坪、32平米の小さな平屋です。建築家の加藤直樹(かとう・なおき)さんは、ここに妻と3人の子どもたち、家族5人で暮らしています。ちなみに、一般的な単身向けのワンルームが25平米ほどですから、そのコンパクトさはイメージしていただけたでしょうか。

「暮らしは生活の場であり、変わっていくもの」と話す加藤さん。この小さな家も、そんな思いから生まれています。背景には、生活に起こるさまざまなことを「許せる暮らし」にしたいという、オリジナルな視点がありました。

「許せる暮らし」ってなんだろう? そこに込められた工夫やアイデアを、全3話でお届けします。きっと読み終えたあとは、それぞれのわが家の可能性にわくわくしてくるはずです。

 

32平米、720万円。こうして生まれた、5人家族の「小さな家」

この家に加藤さん一家が住みはじめてちょうど5年が過ぎました。子どもたちはそれぞれ9歳、7歳、3歳、いずれも育ち盛りの男の子です。

実は、もともと「仮住まい」のつもりで建てた小さな家。しかし、だんだんとそのおもしろさや可能性に気づいていったのだといいます。

そもそも、なぜ小さな家を建てることになったのでしょう。

加藤さん:
「結婚当初から、いつかは妻の実家の敷地内に家を建てることがほぼ決まっていました。それまでは近くのアパートに暮らしていましたが、子どもたちの学区を考える必要も出てくるし、そろそろいいタイミングだよね、と。そこで長男の小学校入学に合わせ、家づくりを決めました。

ただその時点では子どもたちは小さいし、自分と妻の人生設計も、まだまだ不確定なことだらけ。必要な広さや間取りも予想がつきませんでした。それなら、ひとまず10年くらい住むことを想定した『仮住まい』を、最低限のお金で建てようと考えたんです」

加藤さん:
「一生暮らしていく家を、予測して建てるのは難しいものです。実際、この家に引っ越してから三男が生まれましたし、10年経てばいまより変わっていることも増えているはず。だったらそのときの確定事項に合わせて、じっくり練った『本邸』を建て、ここは仕事場にしようと」

そうはいっても資金は限られています。この先の学費や生活資金も必要です。そこで加藤さんは住宅ローンを組むことを避け、貯金からまかなえる必要最低限の予算内での家づくりを目指しました。

▲左手のシャワー室の奥がトイレ。脱衣所を兼ねたスペースで、洗面台はなし。

加藤さん:
「自分たちが出せる無理のない予算額に、広さを合わせる必要がありました。そこでまず、ひとが暮らすうえでの最低限の必要なスペースを割り出し、それを足し算していきました。

たとえば家族で囲むテーブルのサイズ、スムーズに通れる通路幅、セミダブルマットレスを2個並べてちょうどの広さの寝室……。お風呂は、すぐそばの実家で済ませることも多いので、思い切ってバスタブをなくしました。ただし、立ってではなく座ってシャワーを浴びられる広さを計算しています」

資金も広さも、必要最低限で。一つひとつ足し算しながら図面にし、コストを計算。予算オーバーしそうなものは、そのつど調整していきました。

こうして生まれたのが、「32平米、総工費約720万円の小さな家」だったのです。

 

限られたスペースでも、のびのび。狭さを感じさせない工夫

小さな家だからこそ、できるだけ開放感たっぷりに。ここには、加藤さんの建築家ならではの視点と工夫があちこちに光っています。

加藤さん:
「通常、住宅の天井は2400mmですが、この家では2200mmに抑えています。これは既製品のなかでいちばん大きい掃き出しサッシ窓と同じ高さです。

狭い家では天井が高いほうがいいと思われるかもしれませんが、窓との高さを揃えることで景色がたれ壁(天井から窓の上辺までの壁)に分断されないし、視線が自然と外へ向かいます。天井が低いぶん外壁の建材も減り、コスト削減にもなりました」

さらに、室内の床と同じ高さにウッドデッキを設けたことも、広がりを生んでいます。ひと続きのような空間は、家族でバーベキューをしたり、集まった友人らにくつろいでもらったり。取材中も、子どもたちが出たり入ったり、部屋の一部のようにして自由に遊んでいました。

 

狭いからこそ「要素」を増やして見せる収納に

部屋を窮屈に感じさせないテクニックは、内装やインテリアにもあります。

加藤さん:
「収納はすべてオープンなつくりにしました。このくらいの広さでは、扉や間仕切りが多いと、逆に閉塞感が出てしまうんです。この家も、もし両側の収納を扉で覆っていたら、圧迫感が出て、いま以上に狭く感じていたと思います。

収納扉をなくし、寝室や脱衣所以外には間仕切りをつくらずワンルームに。結果的に、これもコストダウンにつながりました」

▲寝室スペースは、セミダブルマットレスがちょうど2つ並ぶ大きさ。ロフトベッドは、三男が生まれてからつくり足しました。

しかしながら、ものがすべて見えた状態は、ともすれば「ごちゃつき」の原因になりそう。でも、それがこの家では、むしろ「生活感のある味わい」になっているのを感じます。

加藤さん:
「壁や床、天井、収納の棚板など、すべてに構造用合板を使いました。下地に使うものなので節や木目の主張が強く、1枚ずつ表情も色もさまざま。棚板は、切りっぱなしで合板の重なりも見えたままです。

そういった視覚的に雑多な『要素』をあえて最初から取り入れておくことで、あとから加わる生活感が、家にすっとなじむようになるんです」

▲節や木目、合板の積層などがあるおかげで、落書きも味わい深い。「節の模様をなにかに見立てて落書きしたりね、子どもっておもしろいんですよ」

うーん、わかったような、まだわからないような。つい「白や無地=シンプル、すっきり」みたいな図式を描いてしまうわたしに、加藤さんはこんなふうに説明してくれました。

加藤さん:
「たとえば真っ白な壁と、節や木目がある板壁。シミがついたとき、目立つのはどちらかというと……圧倒的に白い壁ですよね。それと同じ原理です。この家がもし一般的な白い壁紙だったら、ものの多さが悪目立ちしちゃうんじゃないかな。それに、もともと『要素』の多い素材を内装に使うことで、傷や少々の汚れも気にならないし、むしろ味わいになるんです」

加藤さん:
「住宅は暮らしの場、生活する場です。だから生活感が出て当たり前だし、子どもがいれば傷も落書きも生じます。なんといってもうちは、男の子3人ですから。でも住宅って、そういうものですよね。落書きだって、子どものうちだけの衝動みたいなものだろうし。そういう状況を『許せる』ほうが、住宅らしいと思えるんです」

ものが増えていく生活感も、子どもの落書きも「許せる暮らし」。家は、おおらかで安心できる場所であってほしいという願いを、あきらめや妥協ではなく、こんなふうにかたちにできるのかと驚きました。

続く2話目では、壁面の収納をはじめとした家のなかの工夫やアイデアを拝見します。家族の成長とともに変わっていく暮らし。そこにも「許せる」視点がありました。

(つづく)

【写真】上原朋也


もくじ

 

加藤直樹(かとう・なおき)

建築士。「N.A.O」ナオ 一級建築士事務所主宰。「許せる暮らし」をモットーに、生活感や経年変化、家族の変化などを豊かさに変えるアプローチの家づくりを得意とする。神奈川県秦野市在住。
https://www.n-archi-o.com

 


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