【連載エッセー『たゆたゆ – くまがや日記』】第六回:プラスα
山本 ふみこ
ときどき無性に食べたくなる
調味は鶏ガラスープの素、塩こしょう、
これを食卓に出して、豚肉や野菜を加えて煮ながら食べようと思って味見をしています。
ん? ん? わるくないけれど、何かが足りません。
料理ばかりでなく、あらゆることに何かが足りない、と感じることがあります。たとえば友人知人にかけたことばに、仕事で出席した会議に……。大事なものが欠けていたと気づかされてはっとするのです。
ついこのあいだ、自分が書いたエッセーを読んでいて、ん? ん? となりました。わるくないけれど、何かが足りません。読み返すうち、わかったのですよ。このエッセー、ニコリともしていないということに。
足りないのは笑顔でした。
まず自分自身の口角をくっと上げ、エッセーに少し手を入れましたら、エッセーがニコッとしました。
気立てのよさ。賢さ。思慮深さ。真面目。
いろいろの美徳がありますが、もしかしたら、これらもそれだけでは足りないのかもしれません。「プラスα」です。ここで「プラスα」のαを「笑顔」と置き換えてみるとして ─── 。
気立てのよさプラス笑顔。
賢さプラス笑顔。
思慮深さプラス笑顔。
真面目プラス笑顔。
ほら、いい感じ。
さてところでわたしの酸辣湯鍋のはなしです。酢を加え損なっていました。あはは、これは「プラスα」というより、ぐっと基本的な要素でした。
それでもともかく、美味しい夕食になりましたとさ。
文/山本ふみこ
1958年北海道小樽市生まれ。随筆家。ふみ虫舎エッセイ講座主宰。東京で半世紀暮らし、2021年5月、埼玉県熊谷市に移住。暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。最新刊『あさってより先は、見ない。』(清流出版)、ほか著書多数。
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写真/丸尾和穂
岡山県生まれ。シグマラボ、代官山スタジオ勤務を経て2010年独立。インスタグラムは @kazuho_maruo
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