【連載エッセー『たゆたゆ – くまがや日記』】第九回:スローガン
山本 ふみこ
「ほうれんそう。にんじん。もやし。卵。牛乳。肉。サカナ。油揚げ。豆腐」
台所のひきだしのなかに、買いものリストがあります。
「柿酢 → 瓶詰め。古新聞出す → △日」
台所の細長い黒板に、家事の予定がチョークの文字でならびます。
紙や黒板の上に坐っているこうしたことばたちは、暮らしのなかの、ものの名前です。
エッセーを書くとき、手紙やはがきを書くときには、ものの名前だけでは足らなくなります。ネタを探して、ことばと合わせ、ものがたりとして、思想として、編んでゆきます。
ネタを探しあて、編めそうだと思った瞬間、「みつけた!」と小さく叫んで、わたしは急いで手帖に書きとめるのです。
「ほんれんそう」とか「柿酢 → 瓶詰め」という書き方ではなく、「ひとは誰も安心を求めている」「感謝すること+褒めること」なんて具合に書きとめます。
手帖や紙類も、ペンや鉛筆も持っていないときは、編みかけた記憶に刷りこんでおきますが、これは消えてしまいがち。すぐ忘れます、わたしは。こうなると、もがいても、頭をかきむしってもだめです。……落ちこみます。
机に坐って今し方手帖を見たら、「たゆたゆ → スローガン」と書いてありました。これでエッセーが書けそうです。
では、短いのを書いてみるとしましょう。
わたしが自分を励ますスローガン=標語を書いて、仕事場の書架にピンで留めるはなしです。
小さな日めくりの裏面に書いています。いま留めてあるのは、「止まれ!」。忙しい日がつづいて、焦っているのに気がついて、こう書いたのでした。
ひとつのスローガンは、3日から1週間留めておき、また変えます。
最近では「笑っちゃおう」「とにかく、聞く」「辞めておく」「歩く」「忘れる」「本日休業」なんて書いて、留めました。
小さなスローガンは、わたしと目が合うとウィンクします。
どんなことばも、書いておくことが大事。
文/山本ふみこ
1958年北海道小樽市生まれ。随筆家。ふみ虫舎エッセイ講座主宰。東京で半世紀暮らし、2021年5月、埼玉県熊谷市に移住。暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。最新刊『あさってより先は、見ない。』(清流出版)、ほか著書多数。
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/
https://www.fumimushi.com/うんたったラジオ/
写真/丸尾和穂
岡山県生まれ。シグマラボ、代官山スタジオ勤務を経て2010年独立。インスタグラムは @kazuho_maruo
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