【愛しのワンルーム】1話:36平米、背の低い家具で揃えた自由な部屋。ソファもダイニングテーブルもなくていい
ライター 大野麻里
桜が満開になり、ようやく春らしい季節になりました。この春、たくさんの人が新しい生活を始めていることでしょう。
引っ越しをしたり、生活サイクルが変わったり……。暮らしの変化に少しの不安を抱えつつも、わくわくした期待感に気持ちが高まるこの時季。「どんな部屋で過ごそう?」と、自分の家を見直してみるのもいいかもしれません。
今回訪ねたのは、都内のマンションで一人暮らしをしている、スタイリストの細沼ちえ(ほそぬま・ちえ)さんの自宅です。
限られたスペースで、自分の「好き」と、「なくていい」をバランスよく構成させた約36平米のワンルーム。その絶妙なさじ加減は、無造作のようでいて、細沼さんの哲学を感じるものでした。
いい部屋との出合いは、条件を絞りすぎないこと
「引っ越しの回数は多いほうだと思います」と、話す細沼さん。これまで、さまざまな物件に住み、その部屋ごとのスタイルを楽しんできました。
現在の住まいは、築47年の建物をリノベーションした賃貸マンションの一室。無垢のフローリングと白い壁が印象的なシンプルな空間になっています。
間取りは、キッチン・リビング・ベッドのスペースをゆるく分けたワンルーム。この物件を選んだ決め手は何だったのでしょう?
細沼さん:
「大きな窓と、フローリングです。賃貸で無垢床の物件はなかなかないので、直感で気に入って。裸足で歩いていても気持ちいいですし、冬は寒くなく、夏は暑くなく。インテリアとの相性もいい感じです。
部屋探しの条件は、自分にとって最低限の広さ、日当たりのよさ、大きなクローゼットがあることの3つでした」
細沼さん:
「それ以外は条件を指定していません。私は特に住みたい街というのもなくて、物件ありきで探します。実際に住み始めてから、その街を知っていくのも楽しくて好きです。
というのも、以前は立地など含めて細かく条件を絞って探していたんです。それで満足できない部屋に住んだという失敗もあり、考えすぎもよくないなぁ、と反省して。
それ以来、間口は広げておいて、いいなと思う物件に出合ったらタイミングを逃さないうちに即決です。検索条件で『間取りは1LDK(または1DK)』にチェックを入れていたら、この部屋にも出合えていなかったですからね」
部屋の主役は「窓」にしたかったから
▲手織りの赤いラグは、旅先のチュニジアで購入したもの
玄関を入ると、正面に見えるのは住む決め手になったという大きな窓。窓ぎわには背の低い本棚を並べ、中央にはローテーブルを置いて明るいリビングスペースに。ソファやダイニングテーブルといった大きな家具は置いていません。
細沼さん:
「洋服のスタイリングと同じで、インテリアもまずはひとつ主役を決めて、次にそのまわりをどうするか考えます。この部屋は、窓を主役にしたくて。キッチンから見たときのバランスを考えて、窓を邪魔しない低い家具で揃えました。
当初はダイニングテーブルを置こうかと迷ったのですが、シミュレーションをしてみたら窓がさえぎられてしまい、なんだかもったいなくて。ダイニングテーブルの購入は見送り、ローテーブルを自作しました」
▲再利用の板とスツールを組み合わせてつくった90cm角のローテーブル
細沼さん:
「それに賃貸物件だと、一般的に天井が低いですよね。高さのある家具を置くと圧迫感が出るので、このほうが部屋が広く見えるかな、と。
テーブルの天板は、前の家ではウォークインクローゼットの棚として使っていた板。それを切ってつなげて正方形にした簡単なものです。
土台部分は昔IKEAで買った籐のスツール。天板とスツールのあいだに板をかませてネジでとめているだけなのでたまにグラつきますが、不便はありません(笑)」
引っ越しは、いつもワインの木箱と一緒に
ローテーブルと同じように、本棚も既製品ではありません。よく見ると、いくつものワインの木箱を90度立てて使っています。
細沼さん:
「引っ越して間取りが変わると、家具を捨てたり手放したりしますよね。私は家具を処分することにすごく抵抗があって、それなら組み替えられるものがいいなと思って。
それでよく使うようになったのがワイン木箱です。テーブルの脚として使ったり、組み合わせて壁収納にしたり。部屋によって使い方を変えてきました。箱のサイズがある程度決まっているので、必要なときに買い足すことができるのもいいんです」
▲キッチンでは浅めのワイン木箱に野菜やこまごましたものを収納
細沼さん:
「何事に対しても、『これがなくちゃだめ』とは思いません。ソファもダイニングテーブルもテレビも、なければないでどうにかなる。ないことに慣れれば、困ることもないんですよね。
もしこれから新生活を始める人に何かお伝えするなら、『最初から全部を揃える必要はない』ということでしょうか。はじめに全部を揃えすぎない方が、部屋の個性が出ると思います。部屋の主役は何なのか? を考えてみるのもおすすめです」
▲DIYで作ったウォールラックにもワイン木箱を置いて、立体的にディスプレイ
細沼さん:
「仕事柄、どうしてもものは増えるので、こまめに譲ったり、フリマをしたりしています。誰かが欲しいと言ってくれたタイミングで、すぐにあげてしまうことも。捨てるのではなく、循環させるようにしています」
昨年から、二拠点生活にも挑戦中
昨年から、東京と香川の二拠点生活をスタートさせた細沼さん。香川でも20数平米ほどのワンルームマンションを借りていて、1ヶ月のうち1週間程度はそちらで地方暮らしを楽しんでいるのだとか。
細沼さん:
「瀬戸内国際芸術祭で訪れたのをきっかけに、食材の豊かさと、穏やかな瀬戸内海にすっかり魅了されてしまって。はじめは定期的に通っていたのですが、縁あって建築家が手がけた面白い物件の一室を借りられることになり、二拠点生活を始めました」
細沼さん:
「もちろん、香川で部屋を借りるのは地元でもないので悩みました。
でも、試しに始めてみたら、観光では体験できないことがたくさんできて、視野がすごく広がりました。向こうに友達もできたので、更新までの2年間は借りようと思っています。その後どうしようかは、ゆっくり決めていきたいです」
「賃貸だから」「お金がかかるから」と言い訳をせずに、「まずはやってみよう」と挑戦する姿勢が印象的だった細沼さん。自分次第で、暮らしはもっと豊かにすることができるという学びもありました。
続く2話では、キッチンの工夫やお気に入りのポイントについて伺います。
(つづく)
【写真】北原 千恵美
もくじ
細沼ちえ
1980年生まれ。スタイリスト。会社員、アシスタントを経て、2009年に独立。雑誌や広告など、幅広く活躍している。国内外の手しごとや民族衣装、建築などにも興味を広げ、そのエッセンスを生かした唯一無二のスタイリングが持ち味。Instagram:@chienuma
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