【連載エッセー『たゆたゆ – くまがや日記』】第十四回:風変わり
ここ数日、休む前に『風にのってきたメアリー・ポピンズ』を読んでいます。
亡き父が残した書きつけをみつけて読んでいたら、それがあまりにもおもしろくて、父に会いたくなったのです。
メアリー・ポピンズと父に、どんなつながりがあるのかですって?
1960年代(わたし小学校低学年)、東京の自宅に家族を残し、名古屋や大阪に出向していた父は、週末に新幹線に乗って帰宅し、月曜日の早朝また赴任先にもどる暮らしをしていました。単身赴任の先駆けのころのこと、父は家族のために何ができるか、考えたのかもしれません。
自宅の小さな応接間のソファに坐って、本を読んで聞かせてくれました。
「メアリー・ポピンズ」のみならず、「ドリトル先生」のシリーズも、わたしのなかには父の語りとして残っています。
自分で読めるんだけどな……と、わたしは思っていました。
が、そんなことを告げる
メアリー・ポピンズも、ドリトル先生も、そうして父も、思えばどこか風変わりなひとでした。ひとがどう思うかなんてことは、ほとんど考えず、自分のやり方を貫きとおすのです。
身なりもそう。メアリー・ポピンズは自分の姿を写す窓ガラスや水辺をうっとり眺めずにいられませんでしたし、ドリトル先生は外出時欠かさずシルクハットをかぶりました。父はといえば、家に帰るなりスーツとワイシャツから、きものに着替えるのでした。
さて、久しぶりに『風にのってきたメアリー・ポピンズ』を読んで、あらためて驚かされています。こんなに長い物語を、よく読んで聞かせてくれたものだと。
メアリー・ポピンズの持つ、どこかこわいような、それでいて、ひどくひとを惹きつける雰囲気は、いまもわたしのなかに生きつづけていて、魅力というものはじつに、じつに大切だとおしえます。
魅力には、なんとなくいい感じ、という領域を超えて、おもしろみおかしみ、切実さが必要みたいです。
それをきゅっと縮めて云うとしたら、「風変わり」になるのではないでしょうかね。わたしにはそう思えます。
文/山本ふみこ
1958年北海道小樽市生まれ。随筆家。ふみ虫舎エッセイ講座主宰。東京で半世紀暮らし、2021年5月、埼玉県熊谷市に移住。暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。最新刊『あさってより先は、見ない。』(清流出版)、ほか著書多数。
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写真/丸尾和穂
岡山県生まれ。シグマラボ、代官山スタジオ勤務を経て2010年独立。インスタグラムは @kazuho_maruo
https://067.jp
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