【連載エッセー『たゆたゆ – くまがや日記』】第十五回:よんじゅうろく歳
山本 ふみこ
ちょっと先ゆく先輩たちの多くが、畳みかけるように云うのです。
「60歳台も後半にさしかかると、がくんと年をとる気がするわ」
「なんと云ったって、高齢者ですからね」
「とうとう70歳になったの。気持ち的におおいに変化があるのよね。60歳台のあなたには、まだわからないでしょうね」
けれど、こんな先輩もあります。
児童文学者の山花郁子せんせいです。
郁子せんせいを、わたしよりちょっぴり歳上と思いこんで、仕事をご一緒していました。こころのやわらかさ、フットワークの軽やかさは、憧れずにはいられません。
「あのね、このあいだうちの猫が気持ちよさそうにお腹を上にしてひっくり返ってくつろいでいたのね。それを見ていて、真似してひっくり返っちゃおう、と思ったの。わたしがひっくり返れば29歳! 青春真っ盛りです」
郁子せんせいの戸籍の年齢92歳にも驚き、ひっくり返れば29歳! にも驚いて、ぴょんぴょん跳ねましたよ。
そのとき、わたしもひっくり返ったんです。
46歳!
自分の脳に向かって、云い聞かせました。
「わたしは、よんじゅうろく歳! です」
年齢を理由に「これはできない」「そんな格好はしないほうがいい」なんて云いますまい。年をとることをたのしみにしたいじゃありませんか。
後輩たちにも「いまがいちばん! 人生はどこまでもおもしろい!」とささやきたいじゃありませんか。
若く見えることが目標ではありません。いつまでも何かを探していたい、おもしろがりたい、したいこと、しなければならないことに対して心身を動かしたいのです。
しっかり脳に云い聞かせましたから、わたしはしばらく46歳のままでゆくことにします。
文/山本ふみこ
1958年北海道小樽市生まれ。随筆家。ふみ虫舎エッセイ講座主宰。東京で半世紀暮らし、2021年5月、埼玉県熊谷市に移住。暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。最新刊『あさってより先は、見ない。』(清流出版)、ほか著書多数。
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写真/丸尾和穂
岡山県生まれ。シグマラボ、代官山スタジオ勤務を経て2010年独立。インスタグラムは @kazuho_maruo
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