【手の届く範囲で暮らす】第2話:収納スペースがない家の、ものの手放し方と取り入れ方

ライター 藤沢あかり

「手の届く範囲」という言葉には、手との物理的な距離だけでなく、じゅうぶんに目を配り、自分の力で無理なくできるようなニュアンスを感じます。

今回訪ねているのは、5坪(約16㎡)の一軒家に暮らす、建築家の東端桐子(ひがしばた きりこ)さん。限られた空間をめいっぱい活用し、自由に、変化を繰り返していくその様子は、まさに手の届く範囲の暮らしという言葉がぴったりです。

家を建てた背景を伺った前回に続き、2話目となる今回は、もの選びについてのお話をお届けします。
1話からよむ

 

どんどん増える本やCDとの付き合い方

70㎡、2LDKのマンションから、ワンフロアが16㎡、3フロア合わせても49㎡という一軒家へのお引越し。以前の住まいでは今よりずっとものが多く、「ひと部屋を物置のように使っていた」と東端さんは話します。

東端さんは建築家、夫は家具やプロダクトのデザイナー。夫婦ともに職住一体の暮らしのなかで、どのようにものを減らしたのでしょうか。

▲寝室の様子。半地下なので、窓からの光が差し込みます。

東端さん:
「物置がわりの部屋には、仕事の古いカタログ、壊れて使えなくなった冷蔵庫、とりあえずなんでも置いていました。本棚からあふれた本も、いつもタワー状態。そこで引っ越しにあたり、持ち物を3分の2くらいに絞る必要がありました。

いちばん減らしたのは本です。それまでは雑誌もとってありましたが、たくさん読み込んだし見返す機会もあまりなかったんですよね。たまにめくると楽しいけれど、あくまでもその時代の雰囲気を味わうもの。それなら、バックナンバーが揃っている図書館に行けばいいと切り替えました」

▲ベッドの足元側の壁一面を本棚に。本とCDが所狭しと並んでいます。

東端さん:
「手元に残したのは、仕事の資料となる写真集や専門書といった発行部数が少ないもの、絶版になっているものです。読書が趣味なので、図書館をうまく使い本棚からあふれない量を気をつけながら楽しんでいます。

もともと物欲が少ない方なんです。でもミニマリストではないし、やっぱり15年も経てば暮らしているうちに少しずつ増えていきます。反対に夫は趣味が多く、音楽をはじめ好きなものが多岐に渡ってあるタイプ。CDやレコードの量もすごいです。でも、そういう好きなものはあっていいと思っています。わたしの場合は本や食器ですね」

 

増える器をほどよい量でキープするために

器は、古道具屋で見つけた医療棚に「収まるだけ」と決めています。

東端さん:
「22歳で上京し、ひとり暮らしを始めたときに最初に買った家具です。気に入るものが見つからず、引っ越しの段ボールに器をしまったままで過ごしていた頃に、たまたま通りがかったお店で見つけました。まだガラスも入っておらずメンテナンス前のボロボロ状態でしたが、これだ!って。5000円くらいだったと思います」

途中、白から黒に塗り直し、さらにスチールの脚も付け足しました。気分や使い勝手に合わせて少しずつ変化させながら長く使い続けているそうです。

器を見直すタイミングは、新しいものを購入したり、取り出しづらさを感じたりしたとき。使わなくなったものは、市のリサイクル制度や友人らとのフリーマーケットなどの機会を活用し、循環させています。

東端さん:
「器って、たくさん持っていても、日常使いするのは同じものばかりだったりしますよね。ふたり暮らしですが、年に数回は10人くらいお客さまが集まることもあるので、その人数に対応できるくらいの量を収めています」

 

収納スペースがない家の、「見えてもいい」もの選び

▲食器棚の奥に見えるシルバーのダクトは、屋根の上で温まった空気を室内に循環させるエコシステム。

「この家に収納と呼べるスペースはほとんどありません」

そう聞いて、驚きました。しかし確かに、いわゆる扉つきの収納といった場所は見当たりません。キッチンツールや鍋、フライパンなどの調理器具も、ほとんどが吊り下げ収納。すぐ手に取れて、とても使いやすそうです。

しかし、しまいこむ収納棚がほとんどないということは、持ち物がいつも目に触れるということでもあります。

東端さん:
「買い物のときも、それは少し意識しているかもしれません。そもそも、しまいこんで見えていないと存在を忘れてしまうし、捨てることも苦手。だから買うなら一生付き合うくらいの気持ちで選びます。食器棚もそうですが、わたしはこれと決めたらずっと同じものを使うタイプです。どちらかというと夫はいろいろ試してみて、どんどん回転させるのが好きなようですから、きっとこれは性格なのかな」

でも、「選ぶ」って大変です。探して、選んで、決断する。「これがいい」の大切さを理解はしていても、その大変さに疲れ果て、「これでいい」と思ってしまうことが、生活の中にはどれだけ多いことか!

東端さん:
「わかります、ほんとうに大変。でも家づくりって、壁紙ひとつ、フックひとつ、色はどれか、形はどうするかと探して決断しての連続です。だから仕事柄、少しは慣れているのかも。

ひとつ基準があるとしたら、選ぶときに、古くから愛され続けてきたデザインや、メンテナンスをしながら長く使える素材から探すこと。ただ、何もかもをこだわって選ぶわけでもなくて、ほらこのキッチンバサミなんて、ずいぶん前にカニをお取り寄せしたときのオマケ(笑)。なんだかちょうどよくて、そのまま使い続けています」

その気負いのない言葉に、少しホッとしました。生活って、そういうもの。全部をぎゅっと決め込まなくてもいいし、最初から完璧じゃなくてもだいじょうぶ。そう言ってもらえたような気がしたからです。

▲老舗店のおろし金や、使い込まれた木べらに混じって、「カニの」キッチンバサミが並んでいます。

東端さん:
「生活スタイルはどんどん変わりますから、住みながら考えていけばいいと思います。

キッチン下の収納も、設計時はすべてオープンにしていました。どんなふうに使っていくか、実際に暮らしはじめてみないとわからないと思ったんです。コンロ下のワゴンは、ここに調味料や食材などを入れたら便利だと感じて、あとから作ったものです」

▲コンロ下のワゴンには、夫がカレーを作るためのスパイスをはじめ、調味料がたくさん。ラタンバスケットがぴったりのサイズ感です

住みながら決めていく。そして暮らしの変化に合わせて、家を更新していく。

最終回となる3話目では、そうやって、そのときどきの自分たちに合わせてきた15年の変化を詳しくお聞きします。

 

【写真】吉田周平

 

もくじ

 

東端桐子

建築家。「straight design lab」代表。主に住宅を中心とした建築の設計・監理、戸建てやマンションのリノベーション、店舗やオフィスのデザインなども手がける。2015年にから家具デザイン製作の大原 温 / campと共同で、プロダクトのブランド「 SAT. PRODUCTS」(www.satproducts.net)も運営している。Instagramは@straightdesignlab。www.straightdesign.net


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