【手の届く範囲で暮らす】第1話:小さな5坪の家物語。建築家の東端桐子さんを訪ねました

ライター 藤沢あかり

「手の届く」という表現があります。そこには物理的な手との距離だけでなく、「じゅうぶんに目を配りながら、自分の力で無理なくできる」というニュアンスも含まれている気がします。

自身の住まいを「手の届く範囲の暮らし」と話してくれたのは、建築家の東端桐子(ひがしばた きりこ)さんです。

「手の届く範囲で暮らす」と聞いたとき、自分サイズの、無理のない安心感を想像しました。もちろんそこには、コックピットのように使い勝手がいいとか、掃除がしやすいコンパクトさとか、そんな良さもありそうですが、それだけでもなさそうです。

実は東端さんの家は、約5坪。ワンフロアあたり、たった16㎡しかありません。その小さな家のなかに、暮らしを自分たちの手元に引き寄せて快適に過ごすヒントがたくさん詰まっています。そんな様子を、じっくり拝見してみましょう。

それでは、おじゃまします。

 

5坪(約16㎡)の一軒家、どんなことができる?

のびのび育つオリーブの木に、ちらりとのぞく赤いポスト。その向こう側に、三角屋根の小さなおうちがあります。

「シンプルな箱を3つ重ねたような家」という一軒家が、東端さんと、夫である家具・プロダクトデザイナー・大原温(おおはら  あつし)さんのご自宅です。

▲玄関から見た1階の様子。三和土(たたき)を設けず、ドアを開けるとモルタルの土間になっています。

1階は大原さんの仕事部屋とバス・トイレなどの水回り、2階はキッチンとダイニング、そして半地下には寝室。それぞれのフロアに仕切りはなく、小さなワンルームを3段に重ねたつくりをしています。冒頭で紹介した通り、ひとつのフロアの広さは16㎡です。

この小さな家は、どうやって誕生したのでしょう。

東端さん:
「15年前、夫の実家の敷地内に家を建てることになったんです。でも使えるスペースは5坪ほど(約16㎡)。それならとことんシンプルに、ここでできる範囲のことをやってみようと、いまの暮らしが生まれました。1日で図面が仕上がったくらい、作り込みの少ない家です」

乗用車一台分の駐車場の広さが一般的に15㎡弱ですから、16㎡は、ふたり暮らしとはいえ決してじゅうぶんとはいえません。しかし、だからこそ東端さんは興味をかき立てられました。

70㎡のマンション暮らしを手放し、限られた空間へのダウンサイジング。「どんなふうに暮らせるだろう」という試行錯誤が始まりました。

 

できあがったのは、リビングのない一軒家

壁付けのキッチンに、ダイニングテーブルと食器棚。圧迫感が出やすい縦型冷蔵庫は置かずに、作業台としても使える業務用冷蔵庫を間仕切りにしています。毎日の食事はもちろんのこと、東端さんが仕事をしたりお客さんを招いたりと、住まいのメインとなるのがこの2階です。

設計時、まっ先にあきらめたのはリビングでした。

▲2階をキッチン側から見たところ。大原さんが設計したスチールシェルフには、仕事の書類や資料を収納。その向こうが1階へ続く階段です。

東端さん:
「ひとつのフロアは小さなワンルームマンションくらい。このスペースにリビングはまず無理だと思いました。キッチンもダイニングもソファも、すべてをぎゅっとコンパクトにして入れることもできなくはありませんが、そもそも当時は仕事が忙しくて、リビングのソファでゆったりくつろぐような時間を過ごすことはほとんどありませんでした。

ソファで休むより、仕事の合間にキッチンに立つ時間のほうが、わたしにとっては気分転換になる大切なひとときです。それならストレスなく料理ができるようキッチンのスペースを優先し、ダイニングには大きなテーブルを置くことにしました」

▲吊り下げ収納をメインに、日常的に使う道具はすべて見えるところに。

▲シンク周りがスッキリ見えるよう、ダブルシンクを取り入れ水切りカゴの定位置に。

 

自分の暮らしに「いらないもの」ってなんだろう

リビングに加え、もうひとつ削減したのは、1階の水回りスペースです。

コンパクトなシャワールームに、その並びには洗濯機、トイレ、洗面台と水回りを一ヶ所にまとめました。いわゆる脱衣所や洗面室といった区切りはありません。

東端さん:
「ふたりともお風呂にゆっくり浸かる習慣がなかったので、一般的な浴室と脱衣所というスタイルではなく、シャワールームだけにしたんです。必要に応じてカーテンを取りつけて、それでいまのところは不便もなく過ごしています」

▲1階で使っている照明は、旅先のベルリンで見つけたLBL社のインダストリアルランプ。「旅の序盤だったのにひとめぼれし、残りの行程を抱えて回った思い出の品です」

東端さん:
「家が変わっても、その人の行動や生活パターンはそんなに変わらない気がしています。ソファも広いお風呂も、これまでの自分の生活を振り返って、必要か、そうでないかを考えました。

週末はソファでくつろぐのが好きな人もいれば、広いお風呂にのんびり浸かるのが憧れだという人もいて、一方でわたしのような人もいます。

普段どういうふうに過ごしているのか、どんなことをストレスに感じているのか、まずは自分の生活にじっくりフォーカスして考えました。そのうえで取捨選択をすることで、生活はより豊かになっていくのではと思います」

▲実験用シンクのシンプルな洗面所は、1階の奥に。壁につけた収納つきミラーやボトルのホルダーなどは、すべて夫婦でつくるプロダクトブランド『SAT.product』。

続く2話目では、70㎡のマンションからいまの住まいへとダウンサイジングをした東端さんの、ものの手放し方、そして選び方についてお聞きします。

 

【写真】吉田周平

 

もくじ

 

東端桐子

建築家。「straight design lab」代表。主に住宅を中心とした建築の設計・監理、戸建てやマンションのリノベーション、店舗やオフィスのデザインなども手がける。2015年にから家具デザイン製作の大原 温 / campと共同で、プロダクトのブランド「 SAT. PRODUCTS」(www.satproducts.net)も運営している。Instagramは@straightdesignlab。www.straightdesign.net


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