【根をはる暮らし】02:体はいっこだから、大切なものだけを周りに置いて、暮らしていたい

ライター 瀬谷薫子

東京から電車で1時間、埼玉県の小川町という町に家族で移り住み、喫茶「PEOPLE」を営む柳瀬菜摘(やなせ なつみ)さん。今回は彼女の住まいを全2話で訪ねています。

前編では移住を決めた経緯と、町をコンセプトにデザインされた、ユニークな家づくりのお話を聞きました。後編では、住まいに流れる心地よさのひけつを伺います。


前編はこちらから

「人が集まるキッチン」が、暮らしのまんなか

今の住まいを作るとき、設計士の友人に伝えたリクエストはごくわずか。そのひとつが「キッチンを真ん中に置くこと」だったといいます。

その希望通り、リビングの真ん中にあるのが、ダイニングテーブルを兼ねた大きなカウンターキッチン。住まいのシンボルのような存在です。

柳瀬さん:
「東京にいる頃から来客は多かったですが、小川町に来てからは特に、都内から友人が遊びに来る機会が増えました。料理を作る人も食べる人も一緒の空間で楽しみたい。それならばカウンターを大きな食卓にしてしまおうと、提案してくれたんです」

カウンターが多角形なのは、人数の制限なく、心地いい距離感で間隔がとれるように。

素材に選んだのは、小川町の伝統工芸品でもある和紙。ここにも、町とのつながりがあります。

▲テーブルの表面に取り入れた和紙は、" 紙すきの村” の小川和紙を、作家・内田久美子さんが鉄媒染液で染めたもの

柳瀬さん:
「料理は主に私が担当しているので、ここは家の中でもいちばん立つ時間の長い場所。だから心地いい場所にしたいという思いがありました。

配管の都合上、キッチンが部屋の中でも一段高いつくりになっていて、ここに立つと家の中が見渡せるところも気に入っています。娘が遊ぶ様子を眺めながら手を動かすのも、好きな時間です」


食器も本も同じ棚に。制約のない、ゆるやかな収納

小川町の自然をモチーフにしたという、爽やかなグリーンが目を惹く収納棚。家の端から端までつながる棚には、片側半分はキッチンの一部として台所道具や食器が、もう半分には本や雑貨と、暮らしにまつわるさまざまなものがおさまっています。

これもまた、町から着想を得たデザイン。都市から山へ、暮らしと自然が、境なくひとつづきにあるようななだらかな小川町の地形をイメージして作られたものだとか。

柳瀬さん:
「オープンキッチンなので、フライパンや鍋など、台所道具はすべて扉つきの戸棚におさめ、できるだけすっきりした外観を維持しています」

食器も引き出しの中に。上から見下ろせる高さに収納することで、奥に入れた食器もひと目で見つけやすくて、便利です。

調理に使うスペースだけは実用性のあるステンレス素材を取り入れ、その他は木とタイル。周囲と同じ素材を使うことで、キッチンも浮くことなく、インテリアの一部になじんでいます。


ワンルームの中で「見せる」と「しまう」のメリハリを大事に

▲娘さん用の机は無印良品、椅子は絵本「どうぞのいす」の組み立てキットで作ったもの。

リビングの一角をキッズスペースに。絵を描くのが好きだという娘さんの作品があちこちに貼られ、目にも愉しい空間。

▲コンクリート素材の壁だから、剥がれを気にせずテープを貼れる

壁はリノベーションの際に出てきた、コンクリートの素地をあえて残したままに。

ラフな雰囲気が、木目調のあたたかいインテリアをほどよく引き締めています。

小さなキャンバスは100円ショップで調達。娘さんが描いた絵をそのままインテリアのディスプレイに。

▲ベンチとして作られた部屋の腰掛けスペースの下は、おもちゃ収納に

レゴブロックや人形など、細かなおもちゃは、視界に入らない足元の引き出しに。

細かな仕切りはなく、娘さんが自分でぽいぽい投げ込み、片付けられるようなおおらかな収納にしました。


体はいっこだから、本当に大切なものだけでいい

暮らしの道具を選ぶ基準もシンプルで、友人や知人が手掛けているもの。その人のものづくりを応援したい気持ちと、心から良いと思う気持ち、どちらも満たした大切なものを使っていると柳瀬さん。

器は特に好きで、昔から少しずつ集めてきたそう。中でもおすすめだと手に取ったのは、小川町にゆかりのある方のもの。

PEOPLEでも取り扱いをしながら、自宅でも日々愛用しています。

▲小川町で作陶をする、「UTSUWA Mu.(ウツワ エムユー)」さんや、小川町にアトリエがある「MISHIM POTTERY CREATION」の器

▲左奥から時計回りに「ALEKOLE」で購入した器、「mont et plume」で購入した器、下村淳さんの器2種。どれも友人や知人が手がけるもので、長く愛用している

柳瀬さん:
「器やかばんを作る人、野菜を作る人。小川町には魅力的なものを作る方が多くいて、豊かな環境だと感じています。

好きな人が作るものは、不思議と自分もいいと思えるもの。そうやって大切に使えるもので暮らしが回るって、幸せなことです」

▲過去にPEOPLEで展示をした作家さんの作品など、身近な友人たちの作る大切なものを集めた棚。眺めているだけで力が湧くような、お気に入りのスペースだとか


柳瀬さん:
「昔はもっといろいろなものを消費するように使っていました。東京にいた頃は今よりも、ものの背景に目を向けることが少なかったような気がします。

でも、体はいっこで使えるものは限られているから、なるべく意味のあるものを使いたいと、だんだんに思うようになりました。

たくさんはいらないから、周りにある縁を大切にしたい。今はシンプルに自分の好きな人が作るものだけで暮らしていきたいと思っています」


暮らしに "根をはる" ということ

小川町へ来てはじめたことのひとつが、畑。農家さんと親しくなり、その一角を借りて、自分たちの手で少しずつ、野菜を作りはじめています。

食材、料理、食器、衣類。ものづくりをする人が多いこの町に暮らすうち、作れないものなんてないんじゃないかと思うようになったのは、大きな価値観の変化でした。

▲農家さんの畑で主催された土器作りのワークショップで作ったランプシェード。食卓を、やさしい光が照らす

東京に暮らしていた頃は、昼夜問わず仕事ひと筋の暮らしで、衣食住でいうなら、外に出るための『衣』がいちばん。食や住まいに気持ちを割けることはなかなかありませんでした。

でも、今やその優先順位はすっかり逆に。食と、住まい。暮らしに目を向けることが、今の柳瀬さんにとっては大切なことだと話します。

柳瀬さん:
「昨年、知人が主宰するワークショップで教わってクッションを編んだんです。時間のかかる作業でしたが、ひと冬の間、日々のすきま時間を見つけて、こつこつと。

出来上がってみたら妙に達成感があって、こうやって手をかけることって楽しいんだなって思ったんです」

▲寝室のラグも、ほつれた部分を手直しして、より愛着のある存在に

もっかの目標は、このクッションを大きくしたようなラグを編むこと。今年の冬までに編めるかな、と話す柳瀬さんはなんだか愉しそうに見えました。

根をはる場所を探して、小川町に来たという柳瀬さん。話を聞くうち、それは ”暮らしに足をつける" ということなのではないかと思いました。

好きな人が作るもので暮らすこと。自分の手を動かし、暮らしに関わること。

身近にあるはずなのに、遠くばかり見ていると見落としてしまう、暮らしの楽しみ。そこに目を向けるきっかけのひとつが、柳瀬さんにとっては移住だったのかもしれません。

それなら自分は、どう根をはろう。改めて見下ろす足元の暮らしには、大切な人やものが詰まっているように見えました。


もくじ

柳瀬菜摘

料理家・デザイナー。広告制作会社、アパレルブランドなどを経て、カフェとプロダクトを展開するオーストラリア・メルボルンの会社でデザインを担当。東京から埼玉県小川町に移住し、夫と共同で喫茶店「PEOPLE」を営む。Instagram @people.jp


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