【しなやかな家】01:自然とつながる暮らしを叶えたくて。L字型の “平屋風” ハウスを訪ねました

編集スタッフ 藤波

土地選びや間取り、キッチンのタイルまで。ぜんぶを自分好みに設えられる「家づくり」はいつか叶えたい憧れのひとつです。

けれど暮らしはうつろうもの。家族構成やインテリアの好み……あらゆる変化を柔軟に受け止めてくれるのはどんな家だろうと、ずっと興味がありました。

ギャラリーマネージャーの関田四季(せきた しき)さんが家族で暮らすのは、まさにそんなフレキシブルさを感じる住まいだったんです。

インテリアショップ〈IDÉE〉、アパレルのVMDを経てギャラリーマネージャーとして活躍する関田さんと、長年アートディレクターをしている夫の森彦さん。

夫婦のこだわりが詰まった、豊かな自然をたっぷりと感じる開放的な住まいは、竣工から8年経った今もしなやかに変化し続けていました。

「家づくりに終わりはないです」と笑う関田さんに、土地探しからインテリアの工夫までじっくりとお話を伺います。

 

暮らしと仕事をリセットして始まった家づくり

都心から電車で1時間ほど。海と山に囲まれた葉山町の山腹に建つ家には、気持ちの良い日差しが燦々とふりそそぎます。

夫婦と14歳の息子、10歳の娘、ネコのセルくんの5人暮らし。東京・世田谷から8年前に越してきました。

関田さん:
「引っ越す前は8時から19時まで子どもを保育園に預け、会社員としてバリバリと働いていました。それはそれで充実した毎日だったけれど、このままでいいんだろうかという葛藤もあって。

娘が生まれたタイミングでもっと広くて自然の多い場所で子育てをしたい気持ちが強まり、思い切って仕事も辞めて新しい場所で新しいことをやってみようと決めたんです」

関田さん:
「当時は一戸建てをリノベーションして暮らしていましたが、住んでいた5年の間、毎年どこかしらに手を加えていました。

大掛かりな床の張り替えから細かなDIYまで、やりたいことをやり尽くした!と思えるほど大切に育てた家ですが、やっぱり改築だけだと限界も……。

今度は土地探しから、更地から家を建ててみたいというのも、引越しと家づくりを決めた大きな理由のひとつです」

関田さん:
「葉山に決めたのは、若い頃から夫婦でサーフィンが好きで元々馴染みがあったから。山と海に囲まれたこの地形にも唯一無二の魅力を感じていました。

知り合いも多く住んでいたし、無理なく都内に通勤できる距離で自然豊かな場所を考えていくとやっぱり葉山しかないね、と案外すんなり決まった気がします」

 

– 関田さんのL字型の “平屋風” ハウス –

▲間取りは平屋を基本としたL字型。庭を囲むスタイルです

 

どこにいても自然を感じる間取りって?

関田さん:
「実はこの土地も隣に住んでいた知り合いが『空いたよ!』と教えてくれたんです。海までの距離も理想的でしたし、何より眺望に惚れ込んで、まずは土地を購入。

そこから急いで前の家を売って、子どもの保育園問題があったので近くに仮暮らしを始めて……と、今思えば家づくりは怒涛の勢いで始まりましたね。

でも結局そこから建築に1年半、構想から数えると住むまでに2年ほど時間がかかってしまったんです」

そんな家づくりは、アートディレクターの森彦さんと関田さんの元同僚の設計士さんとの3人4脚で進めたそう。

特徴的なL字型の間取りはどのようにして決まったのでしょうか。

関田さん:
「以前の家が3階建てでとにかく動線が大変だったこともあり、ワンフロアで生活が完結する平屋での暮らしに惹かれていました。

家づくりにあたって参考にした資料はたくさんあるのですが、特に影響を受けたのが、学生時代からずっと憧れていたフィン・ユールやアルヴァ・アアルトの自邸です。

L字型の間取りや窓際のベンチのアイデアはここから来ています。どこにいても自然を感じられる家にしたかったので、庭を囲むL字はぴったりだなと」

関田さん:
「ただ、実際に設計してもらうとどうにも住居スペースが足りなさそうなことが判明しました。それで住居の半分は2階を作ることになり、結局平屋 “風” に仕上がったんです。

敷地いっぱい使って箱のような住居にする選択肢もあったけれど、それだと今のように自然を間近に感じるのは難しかったはず。

家のどこからでも庭と空を望めて、プライベート空間も確保できるL字型にして本当に良かったなと思っています」

 

水回りとクローゼット以外は「扉はなし」。

そんな平屋 “風” ハウスの住居部分の延床面積は148㎡。4人家族には十分な広さですが、もっと広い印象があったので意外に感じました。

関田さん:
「限られた空間をできるだけ大きく感じられるように、水回りとウォークインクローゼット以外は部屋を仕切る扉や壁のない間取りにしたんです.

特にリビングは家の中でも1日に何度も人が通る場所、通り道の空間でもあります。なので家具もなるべく目線が低いものを選び、あえて部屋に余白を残しました。

そうすることで実際の面積よりも空間が広々感じられ、家族みんながゆったりと過ごせるスペースになった気がします」

▲リビングから玄関につながる空間を2階から見たようす

言われてみると、確かに。空間を隔てるものが最低限の壁しかないのでそれぞれの部屋がシームレスに繋がっていて、床や壁も余白が多い印象です。

お邪魔した際、玄関という玄関がなくすぐに住居空間が始まるのにも驚きました。

関田さん:
「元々家の入り口にはいろんな用途で使える土間が欲しかったんです。ここでもなるべく広く空間を使いたいと思ったら、玄関ってなくてもいいんじゃ……?という話になって。

一応ドアを入って1m四方くらいが玄関=土足スペースということにはしていますが、厳密には決めていなくて、適当です。

余裕を持って空間を残したおかげで家全体にメリハリが出たのかもしれませんね」

 

「君はテレビじゃないよね」と言い聞かせてます

▲寝室。手前の飾り棚や壁側の棚はオーダーメイド。ベッドは夫がDIYしたもの

家中を見渡してもう一つ気になるのが、家具のこと。初めて見るような個性的な佇まいのものが多くあります。

関田さん:
「家具は間取りと同じくらいこだわった部分。既製品で素敵なものもたくさんあるけれど、それだけだと自分たちらしさが出ないので、多くを家づくりの段階でオーダーメイドで作ってもらったんです。

異素材を組み合わせたり、オブジェのような佇まいにしてもらったり、それぞれの家具にちょっとした工夫を散りばめてもらったことで、家全体を見たときに私たちらしい個性が生まれた気がしています」

▲リビングにさりげなく置かれたテレビ(ディスプレイ)

関田さん:
「電化製品をどう扱うかも悩みました。暮らしていくのに絶対に必要なんですが、どうしても存在感が強く出てしまうので。

引っ越してきた当初、リビングに前の家から持ってきた大画面のテレビを置いたら、せっかくの居心地のいい空間が『テレビの部屋』になってしまう感覚があったんです。

それで色々考えた結果、テレビは手放してPC用の小さなモニターだけ置くことに。スケボーのウィールで専用のフレームも作ってもらい、オブジェのように存在感があって、インテリアに溶け込むものを目指しました。

テレビの役割だけど『君はテレビじゃないよね』って言い聞かせています(笑)」

一歩入った瞬間からため息が出るほど開放感のある住まい。空間づくりから細部まで、並々ならぬこだわりの積み重ねによって作られたことが分かってきました。

続く2話では、キッチンとダイニングについて詳しくお伺いします。お楽しみに。

 

【写真】土田凌


もくじ

 

関田四季

東京都出身。大学で建築を学んだ後、インテリアショップ〈IDÉE〉、アパレルのVMDを経て、現在は都内のギャラリーでマネジメント業に携わる。キッチン用固形洗剤の名品「ミスターQ」正規代理店の代表も。Instagram:@shikikuma


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