【フィットする暮らし】第3話:時に転びながら学んでいく。手塚夫妻の子育て方針。(建築家・手塚夫妻)
編集スタッフ 二本柳
写真 鍵岡龍門
自分らしく心地いい暮らしをつくっておられる方を取材し、お客さまにお届けするシリーズ「フィットする暮らしのつくり方」。Vol.10は、建築家の手塚貴晴(たかはる)さん、由比(ゆい)さんにお話を伺っています。
お二人は現在、13歳の長女、10歳の長男と一緒の4人暮らし。
第3話となる本日は手塚さん夫妻の「子育て」をテーマにお話をお聞きしました。
第3話
ありのままの子育て
手塚さんのご自宅でダントツの存在感を示すのが中央に置かれた14人掛けの長テーブル。南から北まで約4mにわたって据えられていました。
実はこの長テーブルに、手塚さんファミリーの「家族のあり方」が隠されていたのです。
テーブルがあるから家族が集う。
貴晴さん:
「この家は全体として昔ながらの平屋のような作りをしているのですが、テーブルだけが日本風ではないんです。
これだけ大きなテーブルがあると、ここで何でもできるじゃないですか。勉強もできる、仕事もできる。その分散らかるんですけれどね…(笑)
たとえば端っこの方では子供が宿題をしていて、その反対側の端では妻が仕事のメールを送ってる…といった具合に。
これだけあると自然と皆が集まってくるんです。そういう場所がほしかった。だから部屋の中央にこんなに存在感のある長テーブルを置きました」
とはいえ、手塚さん夫妻の毎日はオフというオフが無いほどに忙しい日々。
お子さんの習い事を迎えに行くのが仕事のリミットと話す由比さんも、自宅に帰ってから仕事の続きをしなければ間に合わないほどだそうです。
そんななか、家族が集うテーブルの上で一体どのように集中できているのでしょう?
由比さん:
「まるっきり集中、というのはね、できないです(笑)
でも仕事に集中できないことよりも、子どものことが気にかからない状態の方が問題だと思うんですよ。家の中は、いつもお互いのことを気にかける環境でなくっちゃと」
お子さんが小学2年生のときに作ったという家の模型。
「逆の発想で言うと、ある程度の『雑音』はわたしたち人間にとっては不可欠。
赤ん坊は雑音の中でよく眠るように、周囲の音が子どもたちの集中に役立っているという見方もできるんですよ」
雑音がわたしたちを安心させる?
「人って10km離れていても会話ができるって知ってました?」と貴晴さん。
10kmは頑張って集中しなければ聞こえないとしても2〜3kmの距離であれば裕に会話できるのだと言います。例えばやまびこは99.99%の音が山に吸収され、そのほんのわずかな残りが2〜3km旅してわたしたちのもとへ戻ってくるのだそう。
貴晴さん:
「実はね、一般的に言う『静か』な状態は決して静かではないんです。
たとえばこの家の中も静かだと感じるかもしれません。でもよく耳を澄ましてみてください。色々な音が聞こえるでしょう?」
そう言われ、いったん呼吸を止めながらじっと耳を周囲に傾けます。すると、外の木が重なり合うカサカサという音、薪ストーブがパチパチと燃える音、家の中には様々な音が混ざり合っていったのでした。
貴晴さん:
「『静か』という状態は、実はこうした色々な外の音があるからこそ、中の音がそれに紛れてそれほど気にならなくなっているだけなのです。
人間の耳というのはすごくて、本当に音を遮断してしまうと厚さ30cmのコンクリートの壁さえ通り抜けて音を聞き取ってしまう。静かであればあるほど音は気になってくるというわけです。
人間の体の中の音、呼吸や心臓の音すべてを足すと、実は工事現場の音よりも大きいと言われています。水の中に入るとゴオーって音が聞こえるでしょう?あれが体の音です。でも普段聞こえないように感じるのは、体の仕組みでしっかりとノイズキャンセルされているから」
お二人いわく、人間は雑音と共に生きている。ある程度の雑音はわたしたちを落ち着かせているのだと言います。
そしてそんな建築家ならではの視点は「子育て」にも影響を与えていました。
音の例としてバリ島の「ケチャダンス」の動画を見せてくれました。この動画はビーっという雑音でほとんど音楽が聞こえません。でもこの雑音は、その現場では全く聞こえていなかったといいます。雑音の正体は「ジャングルの音」。それは確かにそこでずっと音を鳴らしていたものの、人間のノイズキャンセルの働きにより当事者は全く聞こえていないのだそう。
親が子どもを管理しようとしない。
一般的には、集中をする上で排除すべきと考えられる「雑音」をあえて残す環境をつくり、人の気配がなくなるような仲間はずれの個室を避けてきた手塚さん夫妻。
お二人の子育てには、いわゆる “常識” にまどわされない、建築家としての視点が含まれたユニークな方針があるようでした。
由比さん:
「雑音の話は、ばい菌にも同じことが言えるんです。
子どもって何でもかんでも口に入れようとしますよね。あれは色々な菌を体に入れようという人間の本能です。人間はそもそも菌がなければ消化もできないしエネルギーも作れません。
親であるわたしたちが過剰に神経質になって、子どもを『管理』してしまわないように、というのは常々気をつけている部分だったりします」
雑音のない環境をつくるために個室を設ける。
…でも本当に「雑音」は不要なものなのか?
ばい菌に触れないために除菌する。
…でも本当に「ばい菌」は完全遮断しなければいけないものなのか?
こんな風にして、これまで当たり前のこととして受け入れられてきた常識を根本から見つめ直した子育てを実践する手塚さん夫妻。
お子さんの話をしている時が1番たのしそうでした。
そういえば、第1話で家に仕切りを作らなかった理由をお聞きしたとき、お二人はこんなことを言っていました。
「最初から人に迷惑をかけないのではなくて、迷惑を掛け合いながら周囲に気配りできる人になってほしい」と。
最初から子どもを「守る」のではなく、時には転んでケガもしながら世の中で生きていく術を身につける。
手塚さん夫妻の子育ては、そんな力強さをともなったカタチなのでした。
(つづく)
もくじ
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