【はたらきかたシリーズ】フォトグラファー 鍵岡龍門さん編 第1話:「自分らしさ」を伝える、鍵岡さんの働きかた。
編集スタッフ 塩川
写真 木村文平
働くことは、人生で大きな時間を占めるだけでなく、暮らしのかたちを決めるもの。
自分が望むあり方を見つめるために、特集シリーズ『その「働きかた」が知りたい』では、さまざまな方の仕事や働き方をお聞きし、ヒントを受けとってきました。
今回ご登場いただくのは、当店の読み物やリトルプレスの撮影でおなじみのフォトグラファー、鍵岡 龍門(かぎおか りゅうもん)さん。
私たちも大好きな雑誌『暮らしのおへそ』(主婦と生活社)、『天然生活』(地球丸)や、広告写真でも活躍されています。
一目で見ただけで鍵岡さんが撮ったものだなとわかる、その場の空気をまるごと収めたような写真。そこでは、人も物も自然な表情をしています。
どうやったら、そんなにナチュラルな写真が撮れるのだろう?と思うと同時に、鍵岡さんと一緒に取材に行った先輩スタッフたちは、みんな楽しそうに会社に戻ってきます。
私は写真にも人柄にも興味がわき、働き方を伺うことに決めました。
鍵岡さんと私は今回が初対面。インタビューをする前は、自分らしさをはっきりと持ちながら、楽しそうに働いている方なのかなと想像していました。
ですが「まだまだこれからですし、落ち込むこともありますよ」と話し、過去には「自分らしい写真ってなんだろう?」と壁にぶつかり、悩んでいた時期があったそう。
インタビューを進めていくうちに、私も過去の苦しんだ経験を思い出しました。
前職のデザイナー時代では、悪いわけではないけれど、無難なものしか作れない。自分自身が心からいいと思えず、仕事に対する面白みを失ってしまい、それがクラシコムへの転職理由の一つでもありました。
転職し仕事内容が変わった今も「自分らしさ」に答えが出ているかといえば、まだまだ模索中といったところです。
鍵岡さんはその時をどう乗り越えて自分らしさの軸を作り、今の仕事に生かしているのかを全3話で紐解いていきたいと思います。
▲取材は、鍵岡さんのご自宅で行いました。3人のお子さんの無邪気な声をBGMに、先輩スタッフ津田とともにお話を伺いました。
もくじ
第1話:「自分らしさ」を伝える、鍵岡さんの働きかた。
やりたいことが沢山あって、迷走していた20代前半。
鍵岡さんは現在40歳、奥様と3人のお子さんの5人家族です。フォトグラファーをずっと目指してきたのかと思いきや、その道のりまでは紆余曲折がありました。
鍵岡さん:
「父が美術関係の仕事をしていたこともあり、幼い頃から作ることに寛容な環境で育ちました。周りの大人には作家活動をしていた人がいたので、そういった働き方がある事を子供の頃に知れたのもよかったです。
写真を撮り始めたきっかけは大学3年か4年の頃、父からカメラを譲り受けたんです。友人からも『写真うまいね』なんて言われたりして、大志を抱いていたわけではなかったですが、写真はシンプルに楽しかったので続けていました」
大学では地理学を専攻し、卒業後はキッチンメーカーの営業として就職するも数ヶ月で退職。その後2〜3ヶ月は国内外を問わず旅をしていたそう。
旅から戻った鍵岡さんは、写真スタジオのアルバイトや、雑誌の求人で見つけた様々なフォトグラファーのアシスタントをしながらお金を貯め、映画の仕事を志しロンドンのアートスクールへ進学します。
そんな当時を「我ながらドラ息子だった」と笑いながら振り返っていました。
▲「ミルクいりますか?」と気にかけてくれる鍵岡さん。淹れていただいた紅茶は、とても美味しかったです。
「これでいいの?」と問われ続けた20代後半が、自分らしさを作るきっかけに。
鍵岡さん:
「ロンドンの学校では、映像や写真・彫刻などの立体を使って、空間に自分のアイデアを表現するインスタレーションについて学んでいました。その時の授業がとっても面白かったんです。
先生は良いも悪いも言わない、そのかわり『これでいいの?』とずっと問われ続ける。今思えばプロになるための思考を育てるというか……、自分自身を判断する訓練になりました」
基礎コースの1年半で帰ってくるつもりが、気がついたら5年近くロンドンで過ごすことに。学生生活と並行しながら、ロンドンでも写真スタジオで働き、時々は日本から来るフォトグラファーのアシスタントもしていたそうです。
大学卒業が迫る頃、ロンドンでの暮らしは刺激的でしたがビザの難しさもあり「ここで働き続けるのは難しいなぁ」と感じていた鍵岡さん。
その当時の日本では『クウネル』(マガジンハウス)などの雑誌で、雰囲気や質感のある写真が出始めていました。ロンドンで数年を過ごしていた鍵岡さんの目には、それがとても刺激的に映り、こういった写真で仕事をしたいと考えるきっかけになりました。
これまでの経験を踏まえ、日本に戻って働くならば「写真しかないな」と、自然に道が絞り込まれていきます。
▲卒業制作に選んだ表現方法は写真。ロンドンで当時住んでいた部屋を定点観測し、作品にしました。
▲鍵岡家の食器棚には、ロンドン時代から愛用している、きれいなグリーンの片手鍋が置いてありました。
自分自身が納得して作ったものが、結果を出した。
29歳で日本に帰国した鍵岡さんは、売り込みをしながらフリーランスで写真の仕事をはじめていきます。
その頃に写真家の登竜門と呼ばれているコンテストに応募し、賞をとりました。
鍵岡さん:
「いろんなコンテストに作品を作っては出していましたが、この時は応募した時に自分自身が納得していたのを覚えています。
自分がいいと思ったものがきちんと結果を残せたのは、とても嬉しいことでした。
そしてさらに、このコンテストに出してよかったなと思えたのは、賞をとった作品の展示ができ、それを見たお客さんから感想を頂けるんです。
感想の中には、写真を見ただけで僕という人間を言い当てられていたり、その時の心情を見つけてもらっているようなメッセージもありました。
写真を通じた人とのコミュニケーションの面白さを知れたのも、いい経験です」
▲賞をとった作品「春風接人」は、日本に帰国してからの日々を収めたもの。今の作風に通じるものを感じます。
「自信って欲しいじゃないですか」と続ける鍵岡さん。この時に賞をとった、印象に寄り添う写真が「自分らしさ」だと思える後押しになったそうです。
少しの自信を得た鍵岡さんは、出版社などに写真を売り込みにいきます。いい縁にも恵まれ少しずつ仕事を増やしていく中で「仕事の写真」と「自分らしい写真」に少しずつスキマが生まれてきてしまったそう。
仕事ですから求められていることに応えるのは大切です。でも、相手の意向に寄り過ぎて、自分と仕事が離れてしまいどこか他人事になってしまう……。
少しわがままな気もしますが、そのスキマを苦しいと感じてしまう気持ちはよくわかります。だから私たちは転職をしたり起業をしたり、仕事に対して理想を求めようとしているのではないでしょうか。
2話目では、鍵岡さんがどうやって仕事を「自分らしさ」に近づけ、自分が望む仕事を増やしていったのかを伺いました。
(つづく)
もくじ
フォトグラファー 鍵岡龍門
2006年よりフリーフォトグラファー活動を開始し、2007年 Canon写真新世紀「春風接人」で佳作を受賞。印象に寄り添うような写真を得意とし、雑誌や広告をはじめ、当店の特集など多数の媒体で活躍している。プライベートでは3児の父として、楽しみながら子育てに奮闘中。
▽鍵岡龍門さんが撮影した書籍は、こちらからご覧いただけます
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