【金曜エッセイ】師走に気づくこと(文筆家・大平一枝)
文筆家 大平一枝
第三十話:慌ただしい師走に気づくこと
この時期は、宴会や集まりが多い。フリーランスなので、おおげさに言うと仕事の数だけ、打ち上げや忘年会がある。それ以外に、子ども二人の学校関連のコミュニティやご近所仲間もいる。
ライターを始めた頃は特に、いろんな会に顔を出さねばと頑張った。保護者の集まりも、普段あまり参加できないだけに年末くらいはと、スケジュールを空けて臨んだ。そんな具合で、いつも師走は慌ただしく、肝臓が休まる暇(いとま)はなかったのである。
しかし、最近は断ることが少々増えた。別にえらくなったのでも、人が嫌いになったのでも何でもない。歳を重ねて気づいたのだ。
人生の残り時間には限りがある。明日終わるかもしれないのだから、晩餐を共にする時間をもっと大事に考えよう。疲れきるなら、むりはやめよう。参加するかしないかで変わるような人間関係があるとしたら、それはとても薄っぺらいものだ。
絆の本質は、そんな表面的なもので左右されるものではない。
好きな曲に「歳をとるほどに透き通っていく場所がある」という意味のことを歌ったものがある。それを聴いたとき、ああそうだよなあとしびれた。
荷物を少しおろして身軽になったとき、きっとみえるものがある。
歳をとるほど何事もシンプルに、透き通っていく。そんな生き方ができたら素敵だなあ、と。
まだまだ旅の途中で、とても上手にシンプルには生きられないけれど、目指すゴールはそこに定め、少しずつ整えていきたい。
難しいけれど、まずは持ち物や新年のスケジュールを見直すところから始めてみようか。
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ほぼ隔週で更新される金曜エッセイ『あ、それ忘れてました(汗)』が30回を迎え、開始から1年が過ぎました。ご愛読ありがとうございます。寄せられた感想はすべて拝読し、励みとともに執筆のヒントをいただいております。
見過ごしがちだったり、忘れかけていた大事な宝物を、これからも丁寧にすくい取っていけたらと思います。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。『天然生活』『dancyu』『幻冬舎PLUS』等に執筆。近著に『届かなかった手紙』(角川書店)、『男と女の台所』(平凡社)など。朝日新聞デジタル&Wで『東京の台所』連載中。プライベートでは長男(22歳)と長女(18歳)の母。
▼当店で連載中の大平一枝さんのエッセイが本になりました。
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