【スタッフコラム】10年ぶりの、おばあちゃんとの時間。

編集スタッフ 奥村

先日、夫の祖母が88歳になりました。

米寿の特別な節目なので、おいしいごはんと温泉のある旅館に家族みんなで集まって、ちょっと豪華なお祝いをすることに。

お正月ぶりに会ったおばあちゃんは、花模様がすてきな若草色の上着に身を包み、変わらず元気そう。「また太っちゃうわね〜」とニコニコしながら、フルコースのお料理も残さずぺろりと食べていて、そんなお茶目な姿にもほっとしました。

実はわたしにとって、「おばあちゃん」と接するのは10年ぶりのこと。

10代の頃に祖父母を亡くしたため、義理の祖母とはいっても「孫とおばあちゃん」のような関係になったのは本当に久しぶりで。はじめて夫の実家にお邪魔したとき、ご両親に会う以上に、おばあちゃんに会うことにドキドキしたものです。

そんな風に知り合ってから、もうすぐ2年を迎えます。

夜寝る前に小さな缶ビールをひとつ開けるのが、おばあちゃんの小さな楽しみ。

だからわたしも帰省するたび、お風呂上がりに缶ビールを手に彼女の部屋へおじゃまするように。コツンと乾杯をして、お酒を少しずつ飲みながら、いろんな話を聞かせてもらいます。

昔、小学校の先生として働いていた頃のこと。旅に出るのが好きで、仕事を退職してからおじいさんと2人で世界中を旅したこと。飼っていた猫のことや、孫が生まれてから出かけたあちこちのこと。

ささやかなエピソードだけれど、ちょうど60年分、わたしより歳月を重ねてきた大先輩の「暮らし」の話はおもしろくて、聞かせてもらった思い出話をおみやげのように大事に持ち帰っています。

まだ祖父母が元気だった頃、わたしは思春期真っ只中で、今より華やかなものに惹かれていました。

流行の音楽や洋服、好きな人のこと。そんなものに夢中だったから、会うたびおばあちゃんやおじいちゃんがしてくれていただろう沢山の昔話に、ちゃんと耳を傾けられていなかったことに、大人になってから気づきました。

おばあちゃんの得意料理はなんだったのだろう。どんな仕事をして、なにに悩んで、人生を過ごしてきたんだろう。

面影は覚えているけれど、彼女が送ってきた暮らしや、ひとりの女性としての彼女のことを知らないまま今になってしまったことは、少しの心残りでもあります。

だから10年を経た今、思いがけずもらった「おばあちゃんとの時間」は、ちょっとだけぎこちなく、照れくさくも嬉しくて、プレゼントのようなひとときだなと感じるのです。

 

1泊2日のお祝い旅行が終わり、東京へ帰る朝。別れ際におばあちゃんと握手をしました。

一緒に過ごせる時間は誰とだって限りがあると、今はわかるから。ふっくら柔らかくて、わたしより少し温かいおばあちゃんの手の感触は、これからもずっと忘れたくないと思うのです。


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