【紅茶はいかが】後編:ひとつのお気に入り茶葉で、3時のおやつも仕事のひと息も

ライター 藤沢あかり

あったかい飲み物がおいしくなる季節です。

自分のためにおいしくいれる、そんな気取らないカジュアルな紅茶のことをもっと知りたくて、「TEA & TREATS(ティー&トリーツ)」の店主、奥田香里(おくだ・かおり)さんをたずねています。

奥田さんが毎朝かならず飲むのは、マグカップにたっぷり入ったミルクティー。前編ではそのレシピをお届けしました。後編は、同じお気に入りの茶葉ひとつを、いろいろに楽しむアイデアをうかがいます。

前編から読む

 

毎日飲む紅茶は、お気に入りの茶葉がひとつあればいい

紅茶というと思い浮かぶひとつが、気分やシーンに合わせて茶葉を選ぶたのしみ。でも奥田さんにとっての紅茶は、定番の飲み物。ずっと同じ茶葉を、毎日変わらず飲み続けています。

奥田さん:
「紅茶が好きだというと、いろいろな茶葉を飲み比べているように思われますが、意外とそんなことはないんです。紅茶の国、イギリスでも定番が決まっている人が多いようです。向こうでは500個入りなど大容量のティーバッグがたくさん売られていて、みんな日常的に飲むんだなあと感じます。

わたしが扱っている『キャンベルズ・パーフェクト・ティー』も、大きな缶にどっさり入っているのが特徴。茶葉なのでティーバッグに比べて少し手間はありますが、たとえるならば実家のテーブルに置いてある、急須とお茶のセットみたいな存在です」

奥田さん:
「日常のお茶は、茶葉の量や蒸らし時間を気にせず、目分量でざっくり入れて、濃ければお湯を足して……って飲みますよね。若い人はティーバッグだけれど、ちょっとオールドファッションな家にはある。そのくらいの気軽な紅茶です」

奥田さんがずっと変わらず好きな、定番の味。茶葉を変えるかわりに、奥田さんが加えているのは、ちいさな変化です。日に何度も紅茶をいれたくなる、そのアイデアを教えてもらいました。

 

ストレートティーを飲むときは

ガラスのうつわで、水色(すいしょく)を楽しむ

奥田さん:
「朝はかならずミルクティーですが、日中はストレートが多いです。特にお店では紅茶を何度もいれますし、ガラスのコップでスタッフと一緒にサクッと飲むことも。

ストレートは、紅茶らしい琥珀色が見えるよう、デュラレックスの耐熱ガラスのコップやマグを使います。ゆっくり味わうというよりは、仕事の合間にひと息つくように飲む紅茶ですね」

 

ちょっとひと休みしたいときは

スプーンひとさじ、ほんのり甘く、ほんのりスパイシーに

仕事中、気持ちや作業の切り替えどき。おやつ未満のちいさなひと休みにぴったりなのは、甘さを添えた一杯の紅茶です。奥田さんは、メープルシロップにバニラビーンズを漬け込んだ「メープルバニラ」を用意しています。

奥田さん:
「メープルの甘さが紅茶によく合うし、ほんのりとした甘さで満足感も。これはパンケーキやスコーンに垂らしてもおいしいですよ。

コーヒーシュガーをブランデーに浸した『ブランデーシュガー』も香りがよく、寒い季節にはあったまります。

シナモンやカルダモンなどが入ったミックススパイスは、茶葉といっしょにポットに入れて使います。ストレートで飲むのはもちろん、ミルクティーにするとあっさりしたチャイのような風味です」

 

おやつタイムにも紅茶!

あんこと一緒に3時のミルクティー

ミルクティーとスコーンはゴールデンコンビですが、「実は和菓子とも相性がいい」と奥田さん。

奥田さん:
「和菓子といっても、上生菓子や羊羹だと、やっぱり日本茶が欲しくなりますが、たい焼きやどら焼きなどの粉ものはミルクティーによく合います。鹿児島銘菓の“かるかん”も好きです。

ちょっともそもそしたような食感をミルクティーで流し込むおいしさというのが、スコーンやビスケットを合わせるのに似ているのかもしれません」

▲頂き物の甘いものも、ミルクティーと。「意外だったのは、台湾のお土産でときどき頂く『花生酥』というピーナツのお菓子。ミルクティーにすごく合います」

 

とっておきのカップがあれば

たまにはカップを変えて、ちいさな気分転換

自宅での作業中、気分転換をかねて紅茶をいれるときは、カップにもちょっと変化をつけて、いつもと違うものを選ぶそうです。

奥田さん:
「ふだんはマグカップだけれど、たまにはカップ&ソーサーを使うと、また違った雰囲気が味わえますよね。イギリスの戴冠記念につくられるコロネーションマグやブルーウィローのカップ&ソーサー、どれもアンティークショップで見つけた、イギリスの古いものです」

 

紅茶は気分の飲みものだから、いれる時間も楽しんで

奥田さん:
「わたしが楽しんでいるのは、仕事と仕事の合間に、『あー疲れた〜』ってひと息ついたり、編み物や読書の手を休めるお供にちょうどいい、日常の紅茶です。

イギリスの紅茶というと、アフタヌーンティーのようなイメージを持つ方も多いかもしれませんが、向こうでは働く人たちが生活の中で紅茶を飲む姿がおなじみの風景。

ガソリンスタンドの一角で、トラックの運転手さんや立ち寄った警察官があつあつの紅茶でちょっと休んで、また仕事に戻っていく……そんな感じです。日本だとコーヒーのイメージが強いですが、それが紅茶なんですね」

奥田さん:
「だから紅茶といっても、茶葉をグラムで計ったり、砂時計をひっくり返すような厳密なお作法をいつも気にしなくてだいじょうぶ。ただその中にも、最低限のおいしく飲むためのポイントがあって、わたしの場合はお湯の温度を保つこと。そこさえ抑えられたらと思っています。

ティーポットを使うことも、そんなに気負わずに。一日に何度もいれるなら、毎回、洗剤をつけてスポンジで中までゴシゴシ洗う必要はありませんし、自分の続けやすい方法で。

紅茶は気分の飲みものです。飲む瞬間だけでなく、ミルクを入れようか、どのうつわがいいかなと考えながらお湯を沸かす。そこからもう、お茶の時間ははじまっているのだと思います」

だんだん、空気が冷たくなってきました。「寒い」と口にするたびに、あったかい紅茶のおいしさが増すような気がします。またひとつ、この季節を好きになりました。

今日は紅茶をいれてみませんか。気軽に、気楽に、自分のために。ミルクはどうぞ、お好みで。

(おわり)

 

【写真】清水奈緒


もくじ

 

奥田香里(おくだ・かおり)

1970年生まれ。「TEA & TREATS」代表。フリーの編集やライターを経て、2013年からアイルランドの紅茶の輸入をスタート。紅茶やジャムの輸入代理をつとめる傍ら、2021年、世田谷線・松原駅そばに店舗をオープン。店内のキッチンで焼くスコーンやイギリス菓子の販売、イートインのほか、不定期でティーレッスンなども行う。

WEBサイト :  https://www.tea-treats.com/
Instagram : @tea_and_treats_

 


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