【紅茶はいかが】前編:気取らずたっぷりマグカップで。毎日飲みたいミルクティー
ライター 藤沢あかり
『おちゃのじかんにきたとら』という絵本があります。お茶の時間に、おなかを空かせた大きなトラがやってきて、ミルクポットの牛乳も、ティーポットのお茶も、ビスケットもケーキも、ぜんぶ平らげてしまう愉快なお話です。
海外の物語には、お茶の時間がよく登場します。大きなポットから注がれるあつあつ、なみなみの紅茶。「お茶はいかが?」その言葉に、どれほど憧れたことか!
でも自分で紅茶をいれることは、そう多くありません。コーヒーに比べて、お店で味わう機会もうんと少ない気がします。コーヒー派、紅茶派、と分けるのではなく、どっちも日常的に、絵本の中みたいに楽しめたらいいのになあと思うのです。
黄色い缶がトレードマークの紅茶『キャンベルズ・パーフェクト・ティー』のサイトは、こんな言葉からはじまります。
「お茶は、どう?」
紅茶の国の人たちが、毎日ごくごく、気取らずに飲むエブリデイティー。そのスタイルを日本に伝えるのが、「TEA & TREATS(ティー&トリーツ)」の店主、奥田香里(おくだ・かおり)さんです。
「紅茶はいつもマグカップで」という奥田さんの、飾らない紅茶とのつき合いかたや、おいしくいれるコツをお聞きしました。
毎朝の習慣は、わたし好みのミルクティー
奥田さんの朝は、たっぷりのミルクティーからはじまります。茶葉も、いれかたも、使うマグカップも、毎日ずっと変わらない定番の朝の風景です。
奥田さん:
「起きたら、まずいちばんに濃いめのミルクティーをいれます。飲みながら、今日の予定を立てたり、頭のなかを整理したり。集中したい午前中の準備のための、大切な時間です。
茶色のマグカップを選ぶのは、ミルクティーの色がこっくりおいしそうに見えるから。
スコーンのように、ちょっともそもそしたものとの相性は抜群で、口の中の水分をぜんぶ持っていかれそうなところをミルクティーでぐっと流し込む。この感じがたまらなく好きなんです。
パンやいただきもののお菓子など日によっていろいろですが、ミルクティーには何か粉物を添えたくなりますね」
奥田さん:
「茶葉の量も特にきっちりではなく、いつもの匙がなければ目分量だし、抽出時間もしっかり計りません。自分が飲むものですから、濃ければミルクを多めにいれたらいいやというくらいの気楽さです」
家で楽しむ紅茶は、こんなラフな付き合いがちょうどいいのかも。朝、眠い目をこすりながらでもできるくらい簡単だけれど、ちゃんとおいしい。奥田さんが実践している、おいしさのポイントを教えてもらいました。
唯一のコツはしっかり熱く
奥田さん流「濃いめ」のミルクティー・レシピ
STEP 01
お湯を沸かし、ティーポットを温める
奥田さん:
「最初にティーポットを温めておくのがポイントです。このときは沸騰していなくて良いので、沸かしている途中のお湯をちょっと拝借して。
カップは温めても、温めなくても、どちらでも。ただしティーポットは『おいしく抽出するため』なので必ず温めてくださいね。
紅茶をおいしくいれるお湯の温度は、97度以上だと言われています。冷たいティーポットにお湯を注ぐと一気に温度が下がり、おいしさの成分よりも、えぐみや渋みだけが抽出されてしまうことに。ここはおいしさのために、ぜひ」
▲お湯を少し注いだら、くるりと回して全体を温めます。
STEP 02
茶葉を大さじ山盛り1杯入れる
奥田さん:
「茶葉は濃いめのミルクティーなら山盛り1杯(約10g)、ストレートティーのときはすりきり1杯(約7g)が目安です。今回は茶こしつきのティーポットを使います。そうでないときは、注ぐときに茶こしを使ってくださいね」
STEP 03
しっかり沸騰したお湯を、口いっぱいまで注ぐ
奥田さん:
「しっかり沸騰させたお湯を、空気を含ませるように高めの位置からティーポットの口いっぱいまで注ぎます。その後は、すぐ蓋をして3分以上おきましょう。
飲みたい量だけ作ろうとせず、ティーポットの口まで満量を注いでください。お湯が少ないと蒸らしている間に温度が下がってしまい、茶葉のおいしさをうまく抽出できません。飲む量に合わせた大きさのティーポットを選ぶのも大事です」
*11/25 編集部追記:
茶葉は2カップ用のティーポット(容量は500〜600ml前後)で口いっぱいまでお湯を入れる場合の目安です。4カップ用などの大きいサイズのティーポットに、2カップ用と同じ量の茶葉や湯を入れても、ティーポット内に空洞部分ができてお湯が冷めやすく、茶葉の味を引き出しづらいです。口いっぱいまで注ぐようにしてください。
STEP 04
ミルクを加えて、あつあつをどうぞ
奥田さん:
「カップに好みの量のミルクを入れて、紅茶を注げばできあがり。わたしは3割くらいミルクを入れるバランスが好きです」
ところで、イギリスでは論争にもなったという、ミルクが先か、紅茶が先か問題。奥田さんは、ミルク・イン・ファースト。つまり「ミルクが先」派です。
奥田さん:
「熱い紅茶の上からミルクを注ぐとタンパク質が固まりやすく、舌触りや風味が変わるので、ミルクが先の方がさっぱり飲めると言われているそうです。でも、後からミルクを注ぐと好みの割合に調整しやすいですし、それぞれにいいところがあります。
わたしは先にミルクが定着しましたが、飲みながら継ぎ足しているうちに、先も後もなくなってきちゃいます(笑)。気が向いたら、いつもと逆を試してみると、思わぬ発見があるかもしれません。わたしにとっては、自分好みにおいしく飲む、おまじないみたいなものです」
ピッチャーのひと手間で、ミルクティーをもっとおいしく
奥田さんはひとりで飲むときも、ミルクをかならずピッチャーに入れて添えているそうです。そこには見た目のかわいさだけでなく、ちゃんと理由がありました。
奥田さん:
「ミルクを温めるかどうかも好みですが、わたしはそのまま。あつあつの紅茶が、ミルクのおかげでちょうど飲みやすい温度になりますし。
お湯を沸かしはじめるタイミングで冷蔵庫から出してピッチャーに入れておくと、冷えた状態からほどよく落ち着いています。だからピッチャーがあると便利なんです。ティーポットに残った紅茶とミルクを、好きな割合で継ぎ足しながら自分のペースで飲めるのも、おうちで飲む良さだと思います」
カップ一杯だけ飲みたい日は、ティーストレーナー
一杯分だけいれたいときは、こんなティーストレーナーが便利です。
奥田さん:
「直接、ストレーナーで茶葉をすくって、お湯を注ぐだけ。このとき、茶葉のほうにお湯を当てるように注ぐと、風味が出やすいです。職場や、パッと飲みたいときにはこんなアイテムもありますし、自分に合う方法で楽しんでみてくださいね」
急いでいる日もおいしく飲める、日常にぴったりのCTC茶葉
「キャンベルズ・パーフェクト・ティー」は、もともとミルクティー向きの茶葉として知られています。よく見ると粒のような、ころんと丸い独特の形状をしているのがわかりますか?
奥田さん:
「ケニア産の紅茶に多い、CTC製法と呼ばれるタイプです。crush(つぶす)、tear(引き裂く)、curl(丸める)の略で、このかたちのおかげで短時間でしっかり味が出ているのに渋くない、そしてミルクを入れても味がぼやけない紅茶になるんです。
もともと濃いめのミルクティーが好きで、はじめてこの紅茶を知ったとき、わたし好みのタイプの紅茶だ!とうれしくなったのを覚えています。パッケージに表記があるので、選ぶときはチェックしてみてください」
お湯の温度と保ちかた、そして茶葉の選びかた。どれも小さなポイントですが、実践すれば、いつものお茶の時間がぐんと変わるのを感じていただけると思います。
後編では、ひとつの茶葉を気分やシーンでいろいろに楽しむアイデアをうかがいます。
(つづく)
【写真】清水奈緒
もくじ
奥田香里(おくだ・かおり)
1970年生まれ。「TEA & TREATS」代表。フリーの編集やライターを経て、2013年からアイルランドの紅茶の輸入をスタート。紅茶やジャムの輸入代理をつとめる傍ら、2021年、世田谷線・松原駅そばに店舗をオープン。店内のキッチンで焼くスコーンやイギリス菓子の販売、イートインのほか、不定期でティーレッスンなども行う。
WEBサイト : https://www.tea-treats.com/
Instagram : @tea_and_treats_
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