【スタッフコラム】母のコーヒーカップが特別だった頃
編集スタッフ 糸井
GW前のある日。ふと、九州の母からLINEが届きました。
「あなた、うちの食器棚にある『ARABIA』のカップ欲しがっていたでしょう。GWに帰ってきた時にあげようね」
えっ、あの青い『ARABIA』のカップを?
「うん。お父さんもお母さんも、もうコーヒーを飲まなくなったから。持ってても使う機会がないからねぇ」
でもそれは、実家にある器のなかで最も特別なもので、しかも両親が結婚記念の節目に揃えたものだったような……。正直いつかは欲しいと目論んでいたアイテムだけれど、もっと遠い未来でと思っていたから。
なので嬉しい反面、実際にもらうまで、何か裏があるんじゃないかと思っていた(ごめんねお母さん)。
GWに帰省して、カップを受け取りながら、キッチンにある大きな6段構えの食器棚の前に立っていると、幼い頃の記憶を思い出した。
母は料理好きだけど、あまり器に頓着のない人。家にあるのはほとんど、テカテカした白いお皿で、きっとスーパーで買ってきたそれらを何十年も使っている。死ぬまで使うのだろう。グラスは割れない業務用のものを一種類だけ。
正直見栄えのしない食器がならぶ食器棚の、たしか4段目かな。背の届かなかったところに、ハート型の瓶が置いてあって、そこに角砂糖が昔入っていた。ひとりでトイレに行けたらご褒美として、角砂糖を一粒もらえていたこと。姉はそのルールを守っていたけれど、私は椅子に登って、たまにズルをして普通に食べていたこと。
背が伸びて、角砂糖ルールはなくなって、食器棚の一番上の棚まで見渡せるようになったのは小学5年生でしょうか。はじめて覗いた棚の最上段に、鎮座していたのが、ARABIAのコーヒーカップでした。幼い目でみてもわかる、唯一高級そうな深く美しい青色。これだけは触っちゃダメだと、幼いながらに思ったんだったなぁ。
今はもう、大きいと思っていた食器棚は、手を伸ばせば私の方が高い。でもまだ、このカップは自分の身に余る気がする。
それでも少しずつ、生活に馴染むように、大切に迎え入れよう。
帰省の最終日。トランクのなかでカップが割れないようにと、大事に緩衝材を巻きつける母の姿をみてそう思った。
余談ながら、帰省で苦手なことがふたつあります。
ひとつは、帰りのフライトで、手荷物検査の列に並ぶ瞬間。振り返れば、母がいつまでも見送っているのがわかるから。
もうひとつ苦手なのが、長旅を終えたあと、自分の家のドアを抜ける瞬間です。しばらく誰にも使われていなかった家にただよう、あの特有の匂いに、独りを思い知らされるから。
だけどね、お母さん。今回はちょっと違っていて、家に入れば、このコーヒーカップをトランクから取り出して、戸棚に加えることができる。そう思うと、ドアノブがいつもより軽かったんだよ。
コーヒーを飲むために使わずとも、このカップから既にパワーをもらったことを、母はきっと知らないままでいます。
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