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【金曜エッセイ】ダイエット考

文筆家　大平一枝

第五十二話：10代のダイエット、大人のダイエット

　北欧、暮らしの道具店のドキュメンタリー映像「うんともすんとも日和」で取材を受けたことをきっかけに、ダイエットを思い立った。プロの撮った動画で自分を見るのが初めてで、たくましい二の腕やぶ厚い胴体（！）に愕然としたからである。

　10代の頃から数えると、おそらくチャレンジは100回を越えている。食事、運動器具、エステ、整体、ツボ、サプリ、ジム、ヨガ、酵素。ありとあらゆるものにトライした。恥ずかしながら、それらすべてに共通しているのは“楽して痩せる”だ。

　今回は週1回断食をするダイエットで、現在15週目。運動なしという楽さにとびついた。過去に断食合宿を何度か経験しているので、週1のそれは苦ではない。むしろ体が研ぎ澄まされたような快感もある。
　4ヶ月で6キロ落としたが、なにせ元がけっこうな数字なのでもう少し頑張る所存である。

　このダイエットには、断食以外の細かいルールがいくつかある。そのひとつが、24時までに就寝、である。本当は成長ホルモンが分泌される22時が理想だが、現実的には難しいのでせめて“その日中に寝ましょう”というわけである。じつはこれがなかなか守れない。寝る寸前までスマホを見てしまうからだ。

　朝夕の体重と食べたもの、就寝時間を記録していると、なるほどたしかに早く寝たときほど減量率が高い。たとえば23時就寝だと800グラム減る。遅いと500グラムだ。それはもう見事に比例する。起きる時間は一緒なのでつまり、人は寝るだけで痩せるのだ。こんなに楽なことはない。なのに、なぜできないんだろう。

　寝る寸前まで手放さないスマホで、よく見るのはネットニュースやSNSだ。
　よく考えると皮肉なものだ。断食をして、食べるものを減らしているのに、寝るギリギリまで情報を詰め込んでいる。そんなに知りたいことだろうか。脳や体がフルに活動している昼間でよかないか。寝る間際まで、なにをわたしは必死に溜め込もうとしているんだろう。

　足したいもの、減らしたいもの、情報をインプットするタイミング、心や体を休ませるタイミング。受動的に生きていると、それらは簡単になし崩しになる。おそらくほんの少し、意識するだけで、それらはコントロールできるはずだし、いいことがいっぱいあるだろう。
　まず、痩せるのだし。

　就寝時間と体重グラフとにらめっこした結果、先週ようやく、スマホを23時にリビングに置くという単純な対策を編み出した。そして、なんとかできるだけ23時台に寝室に入る。すると、手持ち無沙汰なのでストレッチをするようになった。血の巡りが良くなると足先が温まる。おかげで、うとうと入眠しやすい。ストレッチは、ひとりだと「今日はいいや」と甘えがちなので、娘と行う。まだ始めたばかりで、ルーティンになるかどうかは心がけ次第だ。

　ダイエットはつきつめると、暮らしの足し引きを考えることになる。若いときのダイエットは、とにかく数値を落とすことだけに必死だったが、歳を重ねたそれは、もう少し複眼で奥が深く、気付きや学びも多い。……なんて、失敗を繰り返してきたから言えるのだが。

　寝るだけで痩せるなんてこんな楽なことはない！というわけで、あと4キロがんばります。

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文筆家　大平一枝

作家、エッセイスト。長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』（平凡社）、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』（誠文堂新光社）､『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』（大和書房）ほか。『東京の台所』（朝日新聞デジタル＆w），『そこに定食屋があるかぎり。』（ケイクス）連載中。一男（24歳）一女(20歳）の母。

大平さんのHP「暮らしの柄」
https://kurashi-no-gara.com

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