【雑貨のはなしをしよう】いつもそこに、ずっとそばに。〈iittala〉のグラス
渡辺平日
〈iittala〉のカルティオを使いはじめて今年で6年目になります。6年前……。そのころ僕はインテリアショップで働いていて、やっと商品の知識が身につきはじめたという時期でした。
出会ったのはほんの偶然で、たしか、お祝いでもらったギフトカタログに載っていて。「ちょうどこういうのが欲しかったんだ」と注文したのがきっかけだったと記憶しています。
届いたのは「ふつう」のグラスでした
「なんというか、ふつうだな」
正直に告白すると、実物を見たとき僕はこう感じました。よく言えばシンプル。悪く言えば無個性。
まあ丈夫そうだしいいかと、箱のまま食器棚にしまいこみました。それにしても……。いまほど雑貨が好きではなかったとはいえ、過去の自分を叱りたくなります。
それから数週間後。ふいに「グラスが届いてたんだっけ」と思い出し、何気なく箱から取り出したとき、その持ちやすさに驚いてしまいました。おおげさに聞こえるかもですが、自分の手に合わせて作ったのではないかと錯覚するほどでしたね。
水を注いだ瞬間、ふたたびビックリ。無個性だったグラスが急に表情豊かになり、僕になにかを語りかけているような気分になったのです。
しばらくしてこう思いました。「なるほど。『器』ってそういうことなのか」と。
僕は当時、「単体で絵になるものじゃないとおもしろくない」と考え、柄物のマグやプレートを好んで集めていました(もちろんそれもひとつのスタイルですし、いまでも心惹かれるものがあります)。
食器自体が主役だと思い込んでいた僕に、カルティオは「食べ物や飲み物が主役で、器は引き立て役という考え方もあるんだよ」と教えてくれたのです。
どっちがいいとか悪いとかではなく……単純に好みの問題だと思います。あくまで、自分のスタイルに合うのはシンプルな食器だったということです(こうした考えはそのあと出会ったカップ&ソーサーがさらに深めてくれました)。
なぜこの形になったのでしょうか?
このグラスをぜひお客様にも紹介したいと考え、ブランドやデザイナーについて猛勉強。デザインの意図や環境への配慮など、さまざまなこだわりが詰まっていることを知りました。なかでも「台形を採用した理由」にはすっかり感心してしまいましたね。
フィンランドの巨匠〈カイ・フランク〉。彼がこの作品をデザインしたのは今から60年以上も前のことでした。敗戦の影響もあり、当時のフィンランドの人々の暮らしは実につつましく、けっして豊かとはいえなかったそうです。
そこでカイ・フランクは国民のために、安価で機能的なテーブルウェアを次々と発表。そのなかのひとつがカルティオだったというわけです。諸説ありますが、「狭いキッチンでも収納しやすいように」という意図から、スタッキングしやすい形を採用したと伝わっています。
こんな小さなグラスにそんな想いが込められているとは……。僕は深く感動し、カルティオのことをもっと大事に感じるようになりました。
うーん。どうしよう。
いまではすっかり生活に欠かせない存在になり、朝起きてから眠りにつくまで、ほとんど片時も離さずに愛用しています。
仕事中はうんうん悩むことが多いのですが、そういうときはコーヒーをゆっくりと一服。すると緊張がほぐれてきて、すこしずつアイデアが湧いてきます。
さすがに感動することは減りましたが、かわりに親近感のようなものを抱くようになりました。こういう変化はなんだか人間関係みたいでおもしろいですね。
ところでさいきん、カルティオを使っていて悩むことが増えました。それは「ほかの色も揃えるかどうか?」ということ。
実はこのグラス。カラーバリエーションがとても豊富で、組み合わせる楽しみもあるのです。カフェでシックなグレーやサンドなんかを見ると、ついつい欲しくなってしまいます。
いまのところクリアしか持ってないけど、すこしもったいないかな。……うーん。まあもうちょっと、コーヒーでも飲みながらじっくり考えるとしましょうか。
本日登場したアイテム
【イラスト】イチハラ マコ
【写真】2枚目と5枚目:渡辺平日、その他:クラシコム
渡辺平日
日用品愛好家。海の見える小さな町で生まれ育ちました。毎日が平日のつもりで、日夜せっせと文章を書いています。趣味は町歩きと物件探しと民話収集。そういう話題が耳に入ると、反応して振り返ります。主な寄稿先は『LaLa Begin』『和樂web』『goodroom journal』など。Twitterアカウントは@wtnbhijt。
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