【44歳のじゆう帖】香りと記憶と知識欲
ビューティライターAYANA
香水が、苦手でした
今は香水大好きで、香りの連載など担当させていただいているほどなのですが、かつてはあまり興味の持てないジャンルでした。
香水って、ブランドもたくさんあって、種類もたくさんあって。その割に、どれもなんだか似てない?としか思えない。
私が若い頃は香水の量り売りショップが流行っていました。いろいろテスターを試しては何も決められず頭痛だけ持って帰るという経験も、一度や二度ではなかったと思います。
そんな私が稲妻に打たれたように好きになり、のめり込んだのが「COMME des GARCONS Eau de Parfum」。
たぶん私が大学生か、専門学校生の頃だと思います。ギャルソンが香水を出した!ということで話題になり、横浜そごう(地元のデパート)のちいさなカウンターへ見に行ったのを今でも覚えています。
それまで嗅いだ香水とは全く違う世界がそこにありました。
カルダモン、サンダルウッド、ナツメグ、クローブ、ブラックペッパーなど、ウッディ〜スパイス系の香りをふんだんに使った尖った香り。
花の要素はラブダナムとローズというどこまでも硬派なブレンド。と、今となってはこんな風に書くことができますが、当時はそんな形容もできず、とにかく「この香り好き!」としか思えなかった。
その背景にはインドへの愛があったんです。
私は高校のときインドの文化にハマり、大学ではその学科を専攻するほどでしたが、その影響でサンダルウッドやセージのお香を愛用してました。
ギャルソンの香水は、そのスパイシーな空気がインドを彷彿とさせたのだと思います。もちろんギャルソンらしい洗練も存分にあるのですが。
香りは記憶と直結している
よく言われることですが、嗅覚は物理的に脳と直結しているため、匂いは特定の感情や記憶、感覚を呼び起こしやすいのです。
だからその人の人生模様と、香りの好みというのは当然のことながら深い関係を持っているのだろうと思います。
大好きな父親が煙草を愛用していたら、煙草の香りが好きな人間に育つでしょうし(その逆もしかりですね)、母親が好きな香水の香りが娘に受け継がれることもありそうです。好きなミュージシャンが愛用している香水を使ってるうちに好きになっちゃう!とか。
よく、フランス・グラース出身の調香師が「幼いころ、家族で毎日のように遊んでいたジャスミンの畑の香りが忘れられず…」みたいなエピソードを話していたりします(グラースは香水のメッカで調香師の家系も多く、芳香植物の栽培が盛んなのです)。
ジャニーズのタレントなどが「お姉ちゃんが内緒で履歴書を出していた」と語るエピソードは信じない派ですが、グラースのこれはほぼほぼ本当の話なんだろうなと思っています。
たまに「香水について知りたいのだけど何からはじめたらいいでしょうか?」と相談されるのですが、自分のルーツからとっかかりを探すのが一番早いと思います。
スパイシーなものが好きとか、出汁の香りが好きとか、どうしてもメロンだけは譲れない、などの食の好物であったり。好きなミュージシャンが愛用している香水だとか、いつも行く雑貨屋さんに置かれているポプリのような文化的嗜好に紐づく香りであったり、香りにまつわるエピソードはそこかしこにあります。
私が香水ショップに行っていた時代は、まだ香水のバリエーションって非常に限られていましたが、今は本当にユニークな香りがたくさんあります。
まずは自分の香りの好み(らしきもの)を売り場の方とシェアしてみてください。きっと、好きな香水のひとつやふたつ、すぐみつかってしまうはず。
いつのまにかのめり込む沼要素にご注意を
人の知識欲ってすごいよねとよく考えます。
たとえばアイドルグループ。メンバーいすぎだし顔も全部同じに見えるんですけどー!って思っていた少女時代やAKBにハマった過去があるんですが、ひとりお気に入りの子が見つかると、そこからドミノが倒れるように、すさまじい勢いでいろんなことがわかっていく。
気づけば歌詞をすべて覚え、メンバー全員の関係性まで把握してしまう。そんな経験、ないですか。
これぞ知識欲。私はからきしですが、英語の勉強などもこれに近いのでは? ある日突然明瞭に聞き取れるようになると言いますよね。
香水の世界もまた、同じだと思います。ハマれば沼です。あのころすべて同じに見えていたのはなんだったのか。
香水って(というか化粧品の香りって)ほぼフローラルが好まれるのですが、昔はそんなに好きじゃないのもあって「花の香り」ってざっくり一括りにしていました。解像度の低さ甚だしい。ローズもジャスミンもネロリもそれぞれの個性がこんなにあるじゃないか!みたいに突然早口になったりします。
そして知った次は人にすすめたり語ったりしたくなる。これってこうこうでこんなにいいんだよ!と。オタクが進む道の定石でございます。
いちどアクセル踏んだらその車にはブレーキついてなかった、的な。とんでもなく人生が豊かになりますよねー!(叫び)
なにもジャッジできず香水ショップに佇んでいたかつての私よ、今は香りについて文章書くまでになってるから楽しみにしててね。
【写真】本多康司
AYANA
ビューティライター。コラム、エッセイ、取材執筆、ブランドカタログなど、美容を切り口とした執筆業。過去に携わった化粧品メーカーにおける商品企画開発・店舗開発等の経験を活かし、ブランディング、商品開発などにも関わる。instagram:@tw0lipswithfang http://www.ayana.tokyo/
▼AYANAさんに参加してもらい開発した、オリジナルのメイクアップシリーズ
KURASHI&Trips PUBLISHING
メイクアップシリーズ
▼AYANAさんも立ち会って制作した、スタッフのメイク体験スペシャルムービー
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