【金曜エッセイ】「なんてあたたかで素敵な人なんだろう」

文筆家 大平一枝

 挙式の準備を進めている義娘から興奮気味のメールが届いた。
『Aさん、素敵な人でした!』

 Aさんは私の友達である。息子を幼い頃から知っていて、息子夫婦の挙式の着付けと介添を頼んだのだ。先日式場で打ち合わせがあったそうで、義娘は初めて対面した。その印象を熱く綴ってきたのである。

 母校のキャンバスで挙げるため、電車とバスを乗り継ぎ、遠方まで付き合ってもらった。若いふたりは帰り道、お茶の仕事で忙しいAさんを自分たちのために拘束してしまうのを、だんだん心苦しく思い始めたらしい。
 すると不意にAさんがこう言った。
「結婚式のお手伝いなんて楽しすぎる! 人の幸せを見ると自分も幸せになるの」

『心からそう言ってくださるのがわかって。なんてあたたかで素敵な人なんだろうと……』。
 メールには、素敵の2文字が2回。号泣の絵文字も踊っていた。

 きっとふたりの気持ちを察して言ってくれたのだろう。

 我が身を振り返ってみた。人に何かを頼まれたとき、喜んでやっているだろうか。どこかで、やってあげている、手伝ってあげているという気持ちがありはしないか。Aさんのように言えるだろうか。

 彼女は友人の間でも、子どもの七五三や冠婚葬祭にしょっちゅう着付けを頼まれている。そういえばそのたび、スマホの写真を楽しそうに眺めながらつぶやいていた。
「私、七五三のお手伝い大好き。かわいいんだもん」
「着付けをしているとどんどん着る人が晴れやかな笑顔になっていくから、こっちまで嬉しくなっちゃう」

 心からそう思えないと、あんな嬉しそうな顔はできない。

 喜びを数えるのが上手い人がいる。それは上手くなろうと思うだけでは手に入れられない能力で、ふだんからやわらかでおおらかな気持ちがないと身につかない。
 私は誰かのサポートをするとき、ついどれだけ感謝されたかとか、本当に役に立ったかを図りがちだ。Aさんは心から花嫁の介添を楽しいと思ってくれたのだろう。そう思える、喜びの数え方が上手い人だからみな、大事な家族の記念日を彼女に頼みたくなるのだとわかった。

 私からもそっとお礼を伝えると、返信の一部にこんな言葉があった。
『帰りはバスに揺られて3人でおしゃべりしながら帰ったけど、なんだかほっこりしたわー。
 母親ってこんな感じなのかなぁと、一枝ちゃんが羨ましかった!』

 そうそう、彼女は昔から子どもが大好きだった。私までほっこり、そしてちょっとほろりとした。
 きっとバスの中で義娘が願ったであろうことを私も思った。こういう言い方ができる素敵な大人に私もなりたい。

 

長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)ほか。『東京の台所』(朝日新聞デジタル&w),『そこに定食屋があるかぎり。』(ケイクス)連載中。一男(24歳)一女(20歳)の母。

大平さんのHP「暮らしの柄」
https://kurashi-no-gara.com

 
photo:安部まゆみ

 
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