【金曜エッセイ】ストレスの逃しかた、いろいろ

文筆家 大平一枝

 たとえばどうしても合わない人がいたとき、なんとか折り合いをつけて仲良くしようと誰しも努力する。
 我が子がそのような人間関係に悩んでいたら、「自分にも問題があるかもしれないし、お互い様。相手のいいところをみるようにしよう」などと助言しがちだ。

 心理カウンセラーの方だったか、サイトで「どうしても合わない人がいたら、信じている神様が違うと思ったら楽になれますよ」というメッセージを読んだ。「人間は違って当然と言われても、言葉では理解できても気持ちがついていかない。でも、信仰がちがうといわれれば、価値観も異なるのは当然だし、自分のそれを一方的に押し付けるべきではないとすんなり思えます」。
 なるほどと、妙に肩の力が抜けた。

 おとなになればなるほど、仕事など利害関係が絡んで人間関係は複雑になる。
 そんなとき、「あの人とは信じている神様が違うのだ」と思ったら、「その神様のことはよく理解できないからあの人も嫌い」とはならない。相手の人格を徹底的に嫌いにならずにすむところがいい。

 そう感心していたら、本連載担当スタッフの津田サンがメールでラジオの話をしてくれた。なんでも在宅ワークでラジオを聴くことが増えたそうで、あるパーソナリティがリスナーからの便りに独特の対処をする番組の一コーナーが、お気に入りなんだそう。

「リスナーのうまくいかないことやストレスを感じたことを、“低気圧のせいですね”“月曜日のせいですね”などとお焚き上げするコーナーがありまして、これが結構おもしろいんですよね~。私たちって“うまくいかないのを何かのせいにしてはいけない”って、思いがちだなあと。でも、月曜日だもんね~、低気圧だからね~って言い合えたら、なんだか笑って済ませられるような気がして。それって平和でいいなって思いませんか」

 思いつめたからといって、いい結果になるとは限らない。むしろその逆のほうが多い。
 自分の怒りやストレスやこだわりをうまく逃す。上手に手放したり、自分を上手になだめる事ができるおとなに憧れる。私はもういい年であるが、まだまだ人間ができていない。修行中である。

 いや、修行なんて思うから息苦しくなるのだ。自分や誰かを責めるのではなく、気圧や月曜日や、信じている神様のせいにするくらいが楽ちん。そういうなだめ方を一つで多く持っている人が実は一番強いと最近わかってきたところなのである。

 

長野県生まれ。編集プロダクションを経て1995年独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)ほか。『東京の台所』(朝日新聞デジタル&w),『そこに定食屋があるかぎり。』(ケイクス)連載中。一男(24歳)一女(20歳)の母。

大平さんのHP「暮らしの柄」
https://kurashi-no-gara.com

photo:安部まゆみ

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