【本屋の本棚から】後編:夜はひとり、心を深く休めて。夜の時間に寄り添う4冊(東京・Title)

編集スタッフ 松田

ふらりと本屋さんに立ち寄って、本棚を眺める時間。

それは、とてもしあわせで、豊かな時間のひとつだと感じます。

心の奥にしまい込んでいた興味や記憶が呼び起こされたり、たまたま目にとまった言葉に思わずドキッとしたり、美しい装丁の本に癒やされたり。ふと気づくと店内には、同じようにじっくり本棚を眺めている人がいて、それがまた居心地よく感じたり。

それでも、仕事や子育てなど、忙しい日々に追われて、なかなか本屋に立ち寄る時間がつくれないという方も多いのではないでしょうか。

本屋に訪れ、本棚をゆっくり眺める時間そのものをお届けできたなら。そんな思いで企画した特集。前編に続き、Titile店主の辻山さんに、今こそ届けたいテーマで本を選書いただき、特別な本棚をつくっていただきました。

それでは本屋さんでの時間を、ゆっくりお楽しみください。

後編の本棚のテーマは「夜の時間」です。

 


今日の本棚
「夜の時間」



夜の訪れが
いつもより楽しみに
愛おしく感じる季節。
夜はひとり、ひっそりと
自分自身に帰れる時間でもあります。
わたしたちの心を深く休め、
リラックスさせてくれるような。
そっと枕元に置きたくなる、
そんな本たちを選書いただきました。

 

【本棚リスト】
『みみをすますように 酒井駒子』酒井駒子 ブル―シープ
『おやすみなさいおつきさま』マーガレット・ワイズ・ブラウン クレメント・ハード 評論社
『悲しみの秘義』若松英輔 文春文庫
『暗がりで本を読む』徳永圭子 本の雑誌社
『ひとりの夜にあなたと話したい10のこと』カシワイ 大和書房
『くらやみに、馬といる』河田桟 kadi books
『火を焚きなさい』山尾三省 野草社
『あおのじかん』イザベル・シムレール 石津ちひろ訳 岩波書店
『ぼくがふえをふいたら』阿部海太 岩波書店
『インド夜想曲』アントニオ・タブッキ 須賀敦子訳 白水社
『てがみがきたな きししし』網代幸介 ミシマ社

この本棚の中から、特に辻山さんが今オススメしたい本についてコメントいただきました。

 

夜の闇は、自分自身に帰れる時間。静かにそっと寄り添ってくれる書評集

辻山さん:
「まず最初にご紹介するのは、福岡の書店員・徳永圭子さんの書評集です。ここで紹介される本は、夜ひとりで静かに読むのがふさわしいものが多く、一冊目に選ばせていただきました。

私たちはそれぞれ、さまざまなシチュエーションで読書をすると思いますが、なかでも夜の時間というのは、昼間の仕事や育児でだれかと接する社会的な自分や親という立場の自分から離れて、本来の自分自身にひっそりと帰れるようなときだと思うんです。

徳永さんは、そんな静かな時間に響き合うような本を、決して大きな声ではなく、寄り添うような声で語ってくれています。ひとつひとつの言葉に、やさしさとあたたかさが込められています。

本を読むことのよろこびも改めて感じられるはず。最近、忙しくて読書から離れていたという方にも、おすすめしたい一冊です」

『暗がりで本を読む』徳永圭子 本の雑誌社

 

インドの奥底へと夢心地で旅をするように。12の夜の物語

辻山さん:
「失踪した友人を探して、インドのあちこちを旅する主人公の、12の夜の物語が綴られた小説です。

旅する中で、次々と不思議な出来事が主人公に起きて、インドの奥底へとだんだんといざなわれていく。読んでいる間は、その不思議さや奇妙さに驚くのですが、本をとじてみると、一瞬のあいだに起こった出来事に『あれはいったいなんだったんだろう』と、すっかり小説の世界に引き込まれて、まるで自分も夢をみていたかのような感覚に。

実際、夜って、昼間の平坦な時間と違って、ふだんでは考えられないようなことが今にも起こりそうな不思議さがありますよね。この世のものではないものと出会える時間というか。

そんな夜の奥深さを感じる本です」

『インド夜想曲』アントニオ・タブッキ 須賀敦子訳 白水社

 

刻々と深まる、青と漆黒の美しさ。モノの見方を豊かにしてくれる絵本

辻山さん:
「最後は絵本を2冊ご紹介します。

『あおのじかん』は、太陽が沈んで夜の闇が訪れるまでの間、刻々と変化していく青色の景色とそこに暮らす生き物たちを美しく表現した、フランスの作家の絵本です。

『おやすみなさい、おつきさま』は、ページをめくるごとに、部屋にある一つずつのものに向かって”おやすみなさい”と呼びかけるシンプルなお話なのですが、個人的に好きな絵本で。”おやすみなさい”の声と月がのぼっていくのとともに、いろんなものが昼間の動いていた時間を止めていって、最後は漆黒の闇になり眠りにつく。そんな様子に、自然と心が落ち着きます。

どちらの絵本にも共通しているのは、夜の青や闇の色の中のグラデーションの変化を、目で見て追体験できること。

夕暮れから日が沈むまでの、景色のささいな変化を感じられること、それはとても豊かなことですよね。自然やモノの見方、感じ方に気づきを与えてくれる本です。子どもはもちろん、大人の方もぜひ」

『おやすみなさいおつきさま』マーガレット・ワイズ・ブラウン クレメント・ハード 評論社
『あおのじかん』イザベル・シムレール 石津ちひろ訳 岩波書店

 

***

つかの間の本屋さんでの時間、いかがでしたでしょうか?

本との出会いにワクワクしたり、癒やされたり。まるで本当に本屋さんにいるような、居心地のよい時間を少しでもお届けできていたら、とても嬉しいです。

 

【写真】平本泰淳


 

もくじ

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辻山 良雄

本屋「Title」店主。書店「リブロ」勤務を経て、2016年1月、東京・荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店Titleをオープン。新聞や雑誌などでの書評、カフェや美術館のブックセレクションも手がける。著書に『本屋、はじめました 増補版』(ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)など。新著は『小さな声、光る棚』(幻冬舎)。
title-books.com


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