【57577の宝箱】「こっち見てわたしこんなのできるのよ」 幼な子がねだるまなざしは愛

文筆家 土門蘭


友人に、二人目の赤ちゃんが生まれたので会いに行った。

まだ3か月の赤ちゃんは、穏やかな顔で眠っている。常に寝そべっている赤ちゃん特有の、重力に逆らったふわふわの髪の毛。もっちりとした白い頬。そして、ふくふくとした小さな手と足。たくさんミルクを飲んでいるのだろうか、全体的にむっちりとしていて、非常に愛らしい。

起こさないように、赤ちゃんが眠っているところに近づいて腰を下ろす。すると、彼はうすく両目を開けた。「起こしてしまっただろうか」と思っていたら、彼は顔をしかめたあと、すぐにまた穏やかな顔になり、すやすやと寝息を立てた。まぶたに生えそろったまつ毛も、小さな唇もとてもかわいい。「赤ちゃんってずっと見ていられるね」と話す。

一緒に来ていたうちの息子たちは、もう10歳と5歳。赤ちゃんに比べるとずいぶん大きいが、つい数年前まではこの子たちもこれくらいの大きさだったことがあるんだよなと思うと、なんだか不思議な気持ちだった。子供はどんどん成長して変化していく。自分の成長がストップしたからなのか、そのスピードに時々圧倒されてしまう。

この子も、数ヶ月後に会ったときには、別人みたいに大きくなっているのだろう。
今の彼は今日しか見られないのだなと思うと、気の引き締まる思いだった。

§

赤ちゃんには3つ上のお姉ちゃんがいて、この日、私たちを笑顔で出迎えてくれた。
彼女はマイメロディのワンピースを着ていて、マイメロディのぬいぐるみを持っていた。私がサンリオ好きであることを知っている次男が、
「お母ちゃんの好きなやつやで」
とこっそり教えてくれる。
「マイメロ、好きなの?」と彼女に聞くと「うん」とうなずいた。「かわいいよね」と返すと、彼女はまた「うん」と言って、両手を広げて爪を見せてくれた。

覗き込むと、爪がピンク色に塗られている。
「マニュキュア、塗ったの?」
と聞いたら、
「お母さんに塗ってもらった」
と教えてくれた。友人曰く、彼女は今、お化粧やおしゃれにとても興味があるそうだ。

息子たちはまったくおしゃれやかわいいものに興味がないので、彼女とのやりとりは新鮮だった。持っているおもちゃも全然違う。うちは車や怪獣のおもちゃが多いけれど、彼女はおままごとセットが多いようだ。

あまり女の子と接したことがない私は、どんなふうに話しかけたり遊んだりしたらいいのかわからなくて、ちょっとまごまごしていた。すると子供たちが自然と一緒に遊び始めたので、その場を任せることにしてテーブルについた。

そのあとは、大人たちでお茶を飲みながらおしゃべりをした。二人目の育児はどうかとか、育休はいつ頃終わるのかとか。赤ちゃんが眠っている横で、子供たちは夢中で遊んでいる。

§

そうしていると、赤ちゃんが目を覚ました。
おっとりした性格らしく、知らない人を見ても全然泣かない。私は「あ、起きたよ」と言って、いそいそと赤ちゃんのそばに近づいた。赤ちゃんは珍しそうに、来客者たちの顔をじっと見る。

抱っこをさせてもらうと、赤ちゃんは大人しく腕の中に収まってくれた。首がまだ据わっていないので、ちょっと緊張しながら抱く。私の周りに、息子たちも集まった。

話しかけたり、ぽんぽんと腕を叩いたりすると、ニコニコ笑う。
「わぁ、笑った」
赤ちゃんが笑うたびに、私たちも歓声を上げた。
ただ笑ったり、声をあげたりするだけで、みんなが赤ちゃんに一斉に注目して笑顔になる。赤ちゃんのパワーって本当にすごいなぁと感心した。

そのとき、みんなが赤ちゃんの周りに集まっている横で、お姉ちゃんが
「見て見て!」
と言った。見ると、懸命に背中を反ってブリッジをしている。
友人が「みんな赤ちゃんばかり見ているから、構ってほしいんだと思う」とこっそり言った。

私はそれを聞きハッとして、「そうか、彼女だってまだ3歳なんだよな」と反省した。ついついお姉ちゃんだと思って放っておいてしまっていたけれど、彼女だってまだまだ自分を見てほしいはずなのだ。

「すごいね、ブリッジできるんだね」
そう言うと彼女はその姿勢のままで、やっぱり「うん」と言った。
律儀に返事をしてくれるところが、とてもかわいいと思った。

§

次に予定が入っていたので、早々に友達の家をお暇する。
「それじゃあ、またね」
と玄関で手を振ると、彼女も「バイバイ」と手を振ってくれた。

気丈に見えていた彼女だけど、友人に聞いたところ、私たちが帰った後で大泣きしていたらしい。本当はもっと遊びたかったのだ、と。「家に遊びに来るのを、朝からずっと楽しみにしていたから」と、友人が教えてくれた。

私は、もっと彼女と遊べばよかった、と思った。
どう接したらいいんだろうなんてまごつかずに、サンリオの話でもおままごとでも、なんでもいいから一緒にしたらよかった、と。もっと彼女を見て、声をかけて、一緒に時間を過ごしたら、それできっとよかったのだ。赤ちゃんの一挙一動を、じっと見つめたように。

次に会うときは、姉弟の二人はまた大きくなっているだろう。もしかしたら、好きなものや遊び方も変わっているかもしれない。
だけど今度は、「一緒に遊ぼう」と自分から言ってみようと思う。彼らが何を言い、何をして、どんな表情をするか。それをちゃんを見て、一緒に時間を過ごそうと。

「見て見て!」
そう言っていた彼女を思い出しながら、
「二人ともかわいかったね」
と息子たちに言った。

 

“ 「こっち見てわたしこんなのできるのよ」幼な子がねだるまなざしは愛 ”

 

1985年広島生まれ。文筆家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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