【台所でおつかれさま】築50年のキッチンをリノベして。我が家にとっての心地よさを探し続けた2年のこと(スタッフ田中)
編集スタッフ 寿山
台所ではどんな時間が流れているでしょうか。料理はもちろん、ラジオを聴いたりドラマを観たり、椅子を置いて仕事をする人もいるかもしれません。
そこには、無意識のうちに自分をケアする習慣が隠れていることも。台所に立つ自分をちょっと俯瞰して見ると、日々大事にしていることが見えてくる気がします。
この連載ではスタッフ宅にお邪魔し、そんな「台所」にまつわるエピソードをきいていきます。今回訪ねたのは、スタッフ田中宅です。
#10
スタッフ田中の台所
築50年以上というヴィンテージマンションをリノベーションして、夫と2歳の息子と3人で暮らす田中宅の間取りは、2LDK。およそ60平米ほどの空間のまんなかに、シンプルで使いやすそうな台所が位置しています。
台所から南側の窓を眺めると、ベランダ越しに抜けのある景色が広がっていて「なんだか落ち着きます」と無意識に言葉が口をつきました。
田中:
「リビングをなるべく広くとるために、LDKの北側の壁沿いにコンパクトなI型キッチンを置いて、天板だけ好みのものを用意してつけてもらいました。
前の家のキッチンが気に入っていたので、そのイメージをもとにオープンキッチンにして、収納もオープンに。見えない場所に物をしまうと、つい存在を忘れてしまうんです。ただ、細々とした日用品の収納に困ってしまって、シンク横に後から引き出しをつけました」
田中:
「といっても、私の父が趣味のDIYで作ったもの。軽く押すと引き出せるので、お行儀が悪いんですが足で開けることが多いです」
なかには、日々つかう調味料やタッパーが本人の使いやすいように並んでいます。
田中がこのマンションに越してきたのは、2年ちょっと前のこと。里帰り出産から戻り、赤子を抱えてまっさらな台所と対面しました。
田中:
「里帰り中にリノベーションしてもらったので、動線も何も決まっていない真新しい台所にいざ立つと、不安が押し寄せてきて。育児もまだおぼつかないし『ちゃんと家事を回さないと』って、もう毎日必死でした。
台所もなるべくスムーズに回せるように、1つずつ整えてきた感じです。まだまだ気になるところはありますし、これで完成とは言えないけれど、ようやく暮らしに馴染んできた気がします」
カレーと餃子を味方につけて
育休から復帰してしばらくは、仕事と家事・育児の両立にてんてこ舞いの日々。復帰して1年が過ぎたいま、ようやく「これでいいや」と思える程よいバランスが見えてきたのだとか。
田中:
「以前はなるべく毎日違うメニューで、子供が食べられるように工夫するなど献立づくりに奔走していました。ところが、どんなに手をかけても子どもが食べるとは限らないですし、主菜と副菜を毎日きちんと用意するのはしんどいなあと感じたんです。
今は撮影で外出する日は、前日と同じメニューを食べると割り切って鍋いっぱいにカレーを作ったり、野菜の水煮を使った豚汁をたっぷり用意して、あとは冷凍餃子を焼けば良しとしたり。
無理をしないために食卓に並べつづけたカレーと餃子が、いつの間にか家族の好物にもなりました」
自分の暮らしになかったモノと仲良くなるまで
▲義実家から送られてきたメヒカリの天ぷらは、冷凍のまま片栗粉を振って揚げるだけで美味しいのだとか
田中:
「夫の実家が漁港のすぐそばということもあって、義実家からよく魚が送られてくるんです。一人暮らしの頃は魚はほとんど食べなかったのですが、頂き物を無駄にはできないと、義母からのアドバイスをもとに捌いて刺身にしたり、煮たり、焼いたり、フライにしたりと、いろんな調理法を試しています。
先日は名物のメヒカリがたくさん送られてきたので、唐揚げにしたらすごく美味しくて。魚だけでなく、息子が好きな鶏からなどの揚げ物をする機会がぐんと増えたので、専用のフライパンとオイルポットを買いました」
何でもまずは受け入れてみると話す田中からは、暮らしの楽しみが広がった様子すら伺えます。
田中:
「夫はお茶と器も好きなので、煎茶や玄米茶、ほうじ茶にコーヒーと、いろいろなお茶を飲むようになりました。私も北欧の器が好きだから、水屋には和洋さまざまな器が並んでいて、器あわせも楽しいです」
それぞれのペースがあるから。歩み寄ったり、個々の道を進んだり
子どもを産んでみてつくづく、人には人のペースがあることを痛感したといいます。
田中:
「息子といえど私とはまったくの別人格で、当たり前だけど思い通りには動かないですよね。食事もマイペースでなかなか片付かないこともありますし、どんなに早く寝かせようとしても、眠くなければ寝ないです。
前は早く寝かせようと必死で、洗い物を残したままとか、寝る支度が整っていないまま子どもと寝落ちしてしまうことも多く、ずっとモヤモヤしていました。
今はそこも割り切って、子どもが寝ないのであればその間に洗い物をしたり台所を片付けたり、出来ることをやるようになりました」
▲子どもが早く寝ついた夜はベランダでお茶を飲む。「そんな奇跡は年に数えるほどしかないけれど」と笑う
「子育て、仕事、ときどき趣味」をあきらめたくないから
秋には3歳を迎える息子との暮らしもようやく落ち着いてきて、最近また趣味の山登りを再開したのだとか。
田中:
「夫は好きな書道のために休日も稽古に通ったりしています。その姿を見ていたら、私も趣味をあきらめなくてもいいのかもしれない、好きな山登りのための時間を作ろうと思えたんです。
夫が滞りなく台所を回せるように、冷凍食品や多めに作ったおかずのストックを用意したり、温めればすぐ食べられるものを小鍋に入れて冷蔵庫に入れておいたり。なるべく家族の負担が減るよう段取りして、山へ行く日もあります。
とはいえまだまだ息子が風邪をひくことも多いし、私も体調を壊したりするのでタイミングが難しいのですが、あきらめずに計画していこうと思っています」
部屋に通されたときに感じた居心地の良さは、田中がこれまで地道に築きあげた健やかなバランスが、暮らしにも滲み出ているからなのだろうなあと思いました。
さて次は、どのスタッフの台所を訪れましょうか。次回の更新もお楽しみに。
【写真】濱津和貴
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