【ドジの哲学】うっかりが続いたときに、見えるもの

文筆家 大平一枝

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ドジのレポート その18
こぼしすぎる人


よくものをこぼす。小さな頃からそうだった。生まれつき視力の左右差がひどく、この子は焦点が合わないせいだねえと両親は言っていたが、ほんとうのところはよくわからない。注意力散漫という方が正しいと思う。

1年ほど前、六本木のコーヒーチェーン店のテーブルで、コーヒーをぶちまけたことがある。折しもその日は白いパンツをはいていて、大きな茶色のしみになった。布巾をもらいにレジに行くと、「大丈夫ですか」と、台ふきのほかパンツを拭く布巾まで沢山くれた。そして床とテーブルを拭いてきれいにしてくれた。……と、さっきと同じ低脂肪のラテを新たに持ってくるではないか。そんなサービスがあるのかと恐縮しつつ、ありがたく受け取った。

ところが。
こともあろうに、袖が引っかかって、一口しか飲んでいないそのカップを派手に倒し、再び床にすべてをこぼしてしまったのである。周囲の客も、同情しつつも「また?」という驚きの表情を隠せない様子だった。
私は急いでレジに行くと、店員さんも驚きの表情。再び、私の衣服を心配し、こぼしたテーブルにバケツとモップを持って駆けつけてくれた。
そして、なんと3杯目のラテを持ってきてくれたのである。さすがに申し訳なくて「お支払いします」と言ったが、笑顔で受け取らない。

気を取り直して、プラスチックカップを見ると、側面にマジックで
「ゆっくりお過ごし下さい」と手描きされていた。2回こぼしたからと気を遣わず、どうかリラックスして飲んでいって欲しいという店員さんの気持ちが、真っ直ぐに伝わった。外国資本のフランチャイズ式の生業(なりわい)のサービスはどこも同じ、と勝手に決めつけていたが、気遣いやホスピタリティの高さに胸を打たれた。六本木の繁華街の真ん中で、東京オリンピックになったらさぞや外人客で賑わうだろうと想像できる立地だった。ああ、このおもてなしの精神なら日本は大丈夫だなあと、二度のドジをすっかり忘れて、温かい気持ちになった。

それにしても続けざまに2回もこぼすとは。いい年した大人が誠に情けない話である。コーヒーの大きなしみを付けたまま、その後、絵本作家の取材に向かった。その方の記憶にはきっと、私は、大きなコーヒーのしみの人として、インプットされているに違いない。

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文筆家 大平一枝

長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。

▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」

 


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