【憧れの、大人に会いに】ファーマーズテーブル店主 前編:「今」に、足りないものは何だろう。

ライター 本城さつき

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子どもの頃「大きくなったら◯◯になりたい」と思っていたように、大人になった今だって、未来に思いをはせていたい。子育てや仕事で多忙な時期だからこそ、時には心を自由にして「少し先の日々」を思い描くのは楽しいことです。

このシリーズでは、ある程度年齢を重ねた「大人」になってから、新しいスタートを切った方々を訪ねてお話を伺います。

彼女たちが素敵な理由のひとつは、きっと、年齢にこだわらず自分のやりたいことに素直だから。そんな姿に私たちもまた、自分らしい未来を見つけるための、ヒントやわくわく、時にはちょっぴり苦い教訓を見出せるかもしれません。

オリーブ少女の憧れ。ファーマーズテーブル店主・石川博子さんを訪ねました。

atari_ft__DSC0907 のコピー▲笑顔が素敵な石川さん。モノの話になると止まりません。

東京・原宿で長年親しまれた雑貨店「ファーマーズテーブル」は、かつて、雑誌『オリーブ』でもおなじみだったお店。愛読者だった人は、きっとわくわくしながら記事を読んだ記憶があるのではないでしょうか。

オーナーは元スタイリストの石川博子(いしかわ ひろこ)さん。独特の審美眼を生かして、自らの目で選んだ生活雑貨を扱っています。そのジャンルは、作家ものの器、国内外の衣類や布もの、海外の蚤の市で見つけた古いもの………と、じつに様々。お店に一歩入ると、まるで石川さんの宝箱の中をのぞいたような、楽しい気分に包まれます。

そんな「ファーマーズテーブル」が2010年に恵比寿へ移転してから、今年で早や8年目。「引っ越し」という変化を経て、お店は、そして石川さんの暮らしは、どう変わったのでしょう? お話を伺うために、お店を訪ねました。

やめたいなら、やめてもいいんだよ。でも、できることをやり切ったの?

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今ではすっかり恵比寿に根を下ろした「ファーマーズテーブル」ですが、そもそも、ここに至るまでの石川さんの道のりは、どのようなものだったのでしょう。まずはそこからお話を伺います。

今はなき表参道・同潤会アパートで石川さんがお店を開いたのは、26歳の時のこと。スタイリストからの転身でした。

石川さん:
「短大を出た後、文化服装学院に通い、卒業後はスタイリストとして広告の仕事などをしていました。

でも、ある時、なんだか違う気がして……。他にもっとやりたいことがあるのでは? そうだ、モノが好きだからお店がいい! と、軽い気持ちで始めてしまいました」

1703_ft_DSC0936▲海外の蚤の市で買い付けた、古いものたち。古いものは昔から大好き。

ところが、お店をはじめて数ヶ月後、石川さんはまた「何か違う」と感じ始めます。

石川さん:
「楽しそうと思って始めたのに、なかなか自分の思うようには売れませんでした。そこで、今後どうしていこうかと夫に相談したんです。すると『やめたいならやめてもいいんだよ。でも、自分のやれることをやり切ったの?』と返されて……」

放り出すのでなく「何が足りないか」を考えて。

1703_ft_DSC0928▲作家さんの器、古いもの、洋服、と幅広いジャンルの商品が並びます。

思えば子供の頃から、ピアノもお習字も、嫌になってはやめてきたという石川さん。

服が大好きで服飾系の学校へ進み、意中のアパレル会社への就職こそかなわなかったものの、スタイリストという仕事を得ました。それも数年で嫌になってお店を開いたというのに、ここでまたやめたら、この先はどうなるんだろう。

石川さん:
「彼の言葉にハッとして、いや、やり切ってない、と気づきました。

数年でやめたスタイリストですが、やってみて気が付いたのは、私は、モノを集めて並べ、世界を作るのが好きだということ。

だから、お店を始めたこと自体は間違ってはいないはず。ここで放り出すのではなく、何が足りないか考えてみよう、やり切ろう、と思ったのです」

1703_ft_DSC0938▲古い箱を集めたコーナー。この裏はストックになっています。

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このお店には、何が足りないんだろう。自分でもあれこれと考えながら、お店に来てくれたお客様の会話をさりげなく聞いていた石川さん。

そのうち「プレゼントになるような、気軽で小さなもの」や「1日中街をぶらぶらしても負担にならない、軽いもの」などが求められていることに気づきます。

石川さん:
「なるほどー、と思いました。そこで、クロスやコースターをはじめとする布雑貨など、小さなものを増やしていったんです」

モノを集めて売る以上、自分の「好き」はもちろん大事。でもそれだけではなく、仕事としてのお店のありように気付いた石川さん。ただ好きなものを並べていた状態から、お客様の求めるものについても考えるように、少しずつ変わっていきました。

気付けば50代。現れたのは引っ越しという新たな扉

1703_ft_DSC0954▲窓からは、のんびりとした恵比寿の街並みがよく見えます。

そんな「ファーマーズテーブル」が、恵比寿へ引っ越すことになったのは2010年。オープンから25年目のことでした。新しい土地での再スタートにあたって、どんなことが変わり、どんなことが変わらなかったのでしょうか。

石川さん:
「私も気がつけば50代に入り、家から歩いて行ける場所にお店があったらいいな、と思うようになりました。そこで、原宿のお店の契約満了をきっかけに、恵比寿、代官山、中目黒などを中心に物件探しをすることにしました。

ところが、いざ探し始めると、なかなか『これだ』というところに出会えなくて……。物件探しは楽しかったけれど、そうこうするうち、あっという間に数ヶ月が経っていました」

1703_ft_DSC0986▲手前にカウンター、奥にストック。最初に考えた通りの配置。

そうして見つけたのは、恵比寿駅から歩いて5分ほど、築50年近いビルの一室。内見でドアを開けた瞬間、石川さんの頭には「こうしたい」というビジョンがパッと広がったそう。

石川さん:
「入った途端、ここにカウンターを作って、こっちはストックを置いて……という絵が浮かびました。古びた様子がひと目で気に入ったんです。まだ借りられると決まったわけでもないのに、頭の中ではどんどんインテリア計画が進み始めました(笑)」

これが、新天地での「ファーマーズテーブル」の、はじめの一歩でした。

ひとつのことを、こんなに長く続けているのは初めて。

1703_ft_DSC1147▲4階まで階段を上り、このドアを開けると素敵な眺めが広がります。

今年でオープンから32年、恵比寿へ移って7年。かつての原宿の名店は、今ではすっかり恵比寿の名店として定着しました。

石川さん:
「ひとつのことを、こんなに長く続けているのは初めて。足を運んでくださるお客様のおかげだと思います」

恵比寿に移って、変わったのはお店の立地。変わらなかったのは、その他のことすべて。お客様の層も、特に変わることはなかったそう。

それが、石川さんのモノ選びへの信頼感や、これまでに積み上げてきたお客様との絆の証であることは、もちろん言うまでもありません。

後編では、石川さんのセンスを育んできた背景や、お店のインテリア、ずっと好きなモノなどについてお伺いします。

(つづく)

【写真】 千葉充


もくじ

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石川博子

「ファーマーズテーブル」店主。スタイリストとして活躍の後、1985年に生活雑貨の店を立ち上げる。表参道の同潤会アパート、原宿キャットストリート脇の路面店を経て、2010年に恵比寿へと移転。2017年6月に著書が発売になる予定。http://www.farmerstable.com

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ライター 本城さつき

出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。雑誌と書籍でライフスタイル系の記事を手がける。得意なテーマは雑貨、手仕事、旅、食(特にパンと焼き菓子、冷たい甘いもの)。最近は園芸も修行中。いろいろな人に会って話を聞くのが好き。


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