【ドジの哲学|最終話】だめで、ドジで、よれよれだった日々も。
文筆家 大平一枝
ドジの哲学
おわりに
あらためていうまでもないが、私の人生はドジの連続だ。つい先日も、荻窪駅で待ち合わせするところを、西荻窪駅で待っていた。中央線とはどうも折り合いが悪く、高円寺、東高円寺、新高円寺を間違えたり、中野、新中野、東中野を降り間違える。
そんなわけで、中央線を利用するときはいつもより少し緊張するのだが、まだまだ注意力が足りない。人に迷惑をかけるドジは、どうしたって直さねばならない。
ひとたび、今は21歳と17歳になった我が子の育児のドジを振り返ってみる。これはもう、枚挙にいとまが無い。開き直るつもりはないが、迷惑をかけるのが身内だと思うと、どうしても反省の度合いが甘くなる。ドジな親を持つと、子どもはしっかりせざるをえない。自慢にもならないが。
私が寝坊して遅刻させたり、運動会延期の連絡を見落として登校させてしまったりするたび、心の中で詫びつつ、呪文のように「昔の子は」と考える。私の両親の世代は、どの家も子だくさんで、親は子にかまう時間もなく、そのため子ども自身が自立していた。だから “やりすぎない” “かまいすぎない” くらいがちょうどいいのではなかろうか、と。
言い訳するようだが、子育てに関してだけは、ちょっとばかり駄目なお母さんのほうがうまくいくような気がする。きっと子どもも楽だし、親子関係も具合がいい。
これは21年間子育てをしてきた私の、ドジの連続の末に掴んだ実感である。
先日、仕事先のアメリカで、交換留学中の息子と合流したとき、私が受け取ったレジの釣り銭を「ちょっと待って」と、確認していた。ろくに見もせずに、いつもじゃらっと財布に釣りを放り込む私は、「外国ではとくにきちんと確認したほうがいい」と、彼に諭された。
また別の日、娘に「今日は外で食べようか」と提案すると、「いいけど7時半までに食べ終えられるところでね。いま、夕食時間が予定より30分遅れていて、これ以上後ろにずらすと計画が崩れるから」と言われた。テスト期間で、食後の勉強時間を、私の夕食準備ののろのろ具合まで見込んで計画していたらしい。そこから30分がずれても、修正がきくように、幅を持たせていたのだ。
娘は小学生の頃、時間にルーズなところがあったが、成長するものだなあと、もはや祖父母のような、自分が育てたのではないような遠い感覚に包まれた。それは悪くない感覚である。
本連載はこれで終了する。
書きながら、毎日が精一杯だったバタバタの日々を懐かしく思い出していた。いいことを書き綴る日記も楽しいだろうが、だめでドジでよれよれだった日々も、かけがえのない記憶の財産だと気づいた。
貴重な機会をいただき、感謝している。ご愛読ありがとうございました。
文筆家 大平一枝
長野県生まれ。編集プロダクションを経て、1995年ライターとして独立。大量生産・大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに、女性誌、書籍を中心に各紙に執筆。『天然生活』『暮しの手帖別冊 暮らしのヒント集』等。近著に『東京の台所』(平凡社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)などがある。
プライベートでは長男(21歳)と長女(17歳)の、ふたりの子を持つ母。
▼大平さんの週末エッセイvol.1
「新米母は各駅停車で、だんだん本物の母になっていく。」
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