【40歳の、前とあと】桑原紀佐子さん 第1話:無我夢中で過ごした20代があったから、今がある。
ライター 一田憲子
自分が何者なのか、どんな仕事がしたいのか、何が心地いいのか……。正解がわからずに、とにかく目の前のことにがむしゃらにぶつかる20〜30代。
体当たりの経験値が増え、そしてようやく自分が見えてくるのが、40歳という年齢なのかもしれません。
そこで、この企画では、今キラキラ輝いて活躍している女性に、その境目となる「40歳」という年齢をどう迎えたか、40歳以前と、40歳以降に、なにがどう変わったのか、お話を伺ってみることにしました。
第4回でお話を伺ったのは、「かぞくのアトリエ」を運営する桑原紀佐子さんです。
40歳を目前に、人生の再出発。桑原紀佐子さんを訪ねて。
私が初めて桑原さんと会ったのは、とあるショップのパーティーでした。
なんてきれいな方だろうと、同じテーブルでおしゃべりをしているうちに「ちょっと最近、身辺がガラリと変わって」とポツリと語っておられて「なんだろう? でも初めてお会いした人に、あまりあれこれ聞いても失礼だし……」と質問したがりの私をぐっと抑えたことを覚えています。
今から思い返せば、それが桑原さんがちょうど40歳を迎える少し前。人生の岐路に立っていらっしゃる頃だったよう。
それからしばらくして、東京渋谷区から依頼をされて、「かぞくのアトリエ」という親子支援センターを立ち上げられたと知りました。
▲「かぞくのアトリエ」の親子サロンには、小さな子供が遊べる畳スペースも
朝9時半、小さな子供を連れたお母さんたちが集まってきます。
1階の親子サロンにカバンを置くと、子供達はさっそく絵本を読んだり、木のおもちゃで遊んだり。お母さんたちは、お弁当を持ち込んで、互いに子育ての情報交換を。
2階の親子教室では各種プログラムが用意され、アートスクールでは、様々な分野で活躍するクリエーターを講師にした、体操、音楽、写真など多彩なテーマの講座を開催しています。
「私自身が子育てを始めたばかりの頃、右も左もわからなくて、いろんなことを共有できる仲間が欲しかったんです。子育ての相談をしたり、ヒントをもらったり、何よりも、集まってこられる居場所が欲しかった。それがここならできるかなあと思って」と桑原さん。
実は桑原さん、4年前にこのアトリエを立ち上げた頃、結婚生活にピリオドを打ち離婚。3人の子供を一人で育てて行こうと歩き出したばかり。
まさに、40歳を過ぎて人生の再出発と、このアトリエの誕生がちょうど重なっていたというわけです。
▲木のおもちゃの中には、桑原さんが子育て時代に使っていたものも。本棚や家具も知人から譲り受けたり、ご自宅のものを持ってきたそう。
20歳で結婚。何もわからないまま妻になり、母になった。
▲長男彬くんが3歳頃。桑原さんは25歳ぐらいで、まだ仕事をせず子供中心の生活のころ。とにかく子供がかわいかった。
若い頃はファッションに興味があり、静岡県から上京。服飾の専門学校に通っていたそうです。バブル真っ盛りの学生時代、知り合いの紹介で、当時絶大な人気を誇っていたディスコ「ゴールド」系列の料亭でアルバイトをするように。そこで出会ったのが、20歳年上だったという元ご主人。日本を代表する選曲家でありプロデューサーでした。
結婚後すぐに21歳で長女飛向(ひむか)ちゃんを出産。その後長男彬(あきら)くん、次男楽人(がくと)くんが生まれ、専業主婦としての日々が始まりました。
桑原さん:
「もう、子供達がとにかく可愛くて。子育てと家事が生活の全てでした。幸せで楽しい時間でしたね。
でも、私は静岡から上京し、結婚が周りの友達よりも早かったこともあって、気の合うママ友を見つけるのが難しかったんです。ひとりで全てを解決していかなくてはいけなかったので大変でした」
一方、子煩悩で優しいけれど、いわゆる「亭主関白だった」というご主人は、特に食べることに人一倍のこだわりを持つ人。
まずいものは絶対に食べないし、家ではご飯は炊きたて、味噌汁は作りたて、魚は焼きたてでなければ喜ばなかったのだと言います。
桑原さん:
「たとえ3人の子供がいても、夫は、仕事から帰ってきて、お風呂に入り、食卓につくタイミングに合わせて食事を出して欲しい、という人でした。おかげで時間の使い方は、相当鍛えられましたね。
夕方子供達と一緒にご飯を食べ、寝かしつけたらもう一度夫のために10時半ぐらいにご飯を作って……。
何が大変だったかって、ご飯が1回ではすまないってこと。朝も夜も、ご飯作りを2回やらなくてはいけない。できたてがおいしいというのはわかってはいるけれど、それはそれは大変でしたね。週に1度ぐらいは外で食べてきてくれるから、その日は『やった〜!』と子供たちとラーメンを食べてました(笑)」。
なんとなんと!朝食も夕食も2回ずつ作るなんて!でも、桑原さんはこうも語ります。
桑原さん:
「彼は大きな夢を持ったピュアな少年のような人でした。彼と一緒にいたから、他の人とでは経験できないようなことまで、見たり、聞いたり、体験させてもらったんです」
「あなたは何をしている人?」に答えられない、もどかしさ。
▲彬くん7歳 長女飛向ちゃん9歳。桑原さんの誕生日に自宅での一コマ。少し仕事を始めたころ。
ただ、家事と子育てに明け暮れる中で、だんだんと社会からの孤立感を感じるようになります。
桑原さん:
「私は就職もしないまま結婚したので、アルバイト程度の経験しかありませんでした。
母であり妻である以外の『自分』がなかった。『あなた何をしている人?』と聞かれても、答えることができなくて……。
夫は、ある意味有名人ではあったけれど、同時に自由人でもあり、20歳も歳が離れていたので、子育てが落ち着いたら、自分の仕事を見つけなくちゃ、と思っていたんです」
次回は、そんな桑原さんが、主婦から第一歩を踏み出したお話を伺います。
(つづく)
【写真】有賀傑
もくじ
桑原 紀佐子
株式会社マザーディクショナリー代表。お母さん・お父さんたちが、子育ての楽しみや喜び、時には悩みを共有できるコミュニティサロン「かぞくのアトリエ」をはじめ、各分野で活躍するクリエイターが講師を務めるアートスクールなど、世代を超えた交流の場をつくる「代官山ティーンズクリエイティブ」を運営。女性の子育てや、子どもの暮らしについて、企画、イベント、ワークショップ、編集など様々な分野を通じて新しい視点を提案している。http://www.motherdictionary.com/
ライター 一田憲子
編集者、ライター フリーライターとして女性誌や単行本の執筆などで活躍。「暮らしのおへそ」「大人になったら着たい服」(共に主婦と生活社)では企画から編集、執筆までを手がける。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、多くの取材を行っている。ウェブサイト「外の音、内の香」http://ichidanoriko.com/
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