【スタッフコラム】ひとり旅に行かなくちゃ!
編集スタッフ 齋藤
「うそ!ひとりで行くの?」というセリフを、今まで何度言われたことでしょう。
年に数回、ひとり旅に出ます。わたしにとっては「旅」といえばひとり。友人や恋人と行く方がめずらしいことなのです。
はじめてひとりで旅に出たときは、まさか自分がこんなにもひとりであっちこっち行くようになるとは少しも考えませんでした。
でもかれこれ10年以上続いているのだから、ひとり旅はわたしの人生にとって芯の部分を成す、重要なことなのだろうと思います。
まるで家出のようだった、はじめてのひとり旅
はじめてひとり旅に出たのは、17歳の時。
「14歳ではじめて旅に出た」と言われれば「なんて早熟!」と驚きもありますが、17歳なら「自分を探したい年頃だよね」なんて、納得してもらいやすい年齢かもしれません。
けれどこれが、わたしにとっては忘れられない出来事になりました。理由は、母となんとも気まずい雰囲気になってしまったから。
わたしが旅に出ると決めてからというもの、心配とさびしさが相まった母はどうにもこのことを消化しきれなかったようで、家の中はしばらくの間ピリッとした空気に。
たかがひとり旅なのに、と、若さもあって譲ることができなかった当時のわたし。でも今思えば、この出来事はそれ以上の意味があると、母は理解していたのだと思います。
あとあとこの頃を思い返してみてわかったのですが、この旅はどうやら、わたしの自立を象徴する出来事だったようです。
家族だけど、わたしはわたし。そう確かめたくて
まだわたしが母の腰くらいの背しかなかった頃、人と接するのが苦手だったわたしはずっと母の後ろに隠れ、一言も喋らない子どもだったといいます。
そんな我が子がいつの間にか「ひとり旅に出る」と言い出したら……。
自分で決めたことだから後悔はないけれど、母を裏切ってしまったのではないかと感じ、つらくて何度か泣きそうになりました。
いま思うと、たかだかひとり旅に出るだけでなんでこんなにも肩に力が入っているのだろうと笑ってしまうのですが、そのときはお互いに必死。結局母には納得してもらえないまま、それでも旅立ちました。
決してもう家に戻らないわけではないけれど、戻すことのできない何かがある。
成長することの痛みとでもいうのでしょうか。
当時のわたしは進むことに夢中で気づきもしなかったけれど、母の眼差しのなかに、それはたしかに写っていたのだろうと思います。
あるのは、自分の判断だけ
何度か旅に出たあとで、旅は人生の縮図のようだなと思ったことがあります。
旅という限られた時間のなかで浮き彫りになるのは、自分が一体何を選択し、どう全体像を作り上げるのかということ。
旅に出る前はとにかく「楽しそう!」という明るく浮かれたあこがれしかなかったのに、いざ出てみると、これが案外難しい。
最初の頃は見知らぬ土地のあらゆるものに気を取られ、あっちにふらふらこっちにふらふらし、いつの間にか時間がなくなってしまったこともしばしばでした。
数分待てばすぐ電車がくる東京と違い、地方となれば1時間に1本が普通のこと。でも、そんな当たり前のことすら考えてもいなかったのです。ふらふらした挙句電車に乗り損ね、宿に辿りつけなかった、なんて大失敗をおかしたこともありました。
食べるものに困ったらすぐレストランがあって、お金に困ったらATMだってあちこちにある。急な思いつきで計画を変えても、困ることなんてない。今日辿りつけなくても、また明日行けばいい。それがわたしが生きてきた環境で、そしてそれとは別のルールでまわっている世界がいくつものあるのだということ。そのことに気がついたのは、何度か旅に出た後でした。
自分は母をはじめ、どれだけ多くの人たちにすべてを用意してもらった環境にいたのだろう。何度かの大失敗の末に痛いほどの実感が湧いてきて、自分の情けなさと恥ずかしさで体が熱くなりました。
そしてさらに「わたしが一番優先させたいものはなに?」ということを、強く突きつけられたのです。
本当に、それが見たかったの?
そんなわたしに旅の仕方のひとつを教えてくれたのが、学生時代の上級生たち。
大学時代は建築を学んでいたのですが、先輩たちはとにかくみんなあちこちに旅に出ていました。その目的はたったひとつ、建築について考え抜くこと。
どんなに図面を見ようと写真を眺めようと、そこにある光、住む人、質感、スケール、その他多くの大切な情報は、実際に赴き自ら感じてみないとわかりようもないことでした。
課題とバイトに追われ時間もお金もないけれど、だからこそ自分が本当に見たいもの、感じたいもの、学びたいものは何かを考えて旅に出る。そんな彼らを見ていて、素直に「かっこいいな」と思ってしまったんです。
おすすめされているスポットは山ほどあるけれど、まずは「わたしも自分が見たいものをしっかり選び取ってみよう!」、そう決意し、少しずつ旅の仕方を変えていきました。
誰かが先に見てきてくれた保証付きの場所ばかりに行くわけではないため、「思ってたのと違う」「欲しかった情報がなかった」なんてこともしょっちゅうです。
でもその失敗の連続の中に、ときたま、これは自分の人生にとって一生の宝ものになるなと感じられる瞬間があります。そしてその体験が、わたしの根のようなものを、しっかり作ってくれていると感じるのです。
それでもきっと、旅に出る。
旅に出て、心の底から見たいと感じたものに出会うこと。それはわたしの頭の中にあった可能性の姿形をひとつひとつ点検していく作業でもあり、楽しい反面、確実に人生を進めているのだという感覚がずっと心の奥にあります。それはときに、わたしにとってたいへん覚悟のいることで、ちょっとした恐怖です。
でも、母の元にいることを選ぶことができなかったあの時から、意識をするかしないかの違いだけで、わたしはわたしの人生を進めているのだろうと思います。
旅に出た後は、母がその繊細さで感じ取ってくれたように、わたし自身もまた自らの変化を感じ、旅先に何かを置いてきてしまったようでさびしい気持ちにおそわれることも。
けれどそれでも、わたしはやっぱり、旅に出るのだろうと思います。
ずっと、この先も。
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