【短編小説 |金曜日に花束を】第四話:花びらの記憶

kim(UHNELLYS)× 花屋 ŒUVRE


第四話:花びらの記憶

Written by kim(UHNELLYS)/ Bouquet by ŒUVRE


花屋を始めて2年。従業員は私しかいないし、建物もとても古いけど、私はここが気に入っている。そして私の人生の全てだ。

ここには色んな人が花を買いに来てくれる。彼女にプロポーズするためだったり、誰かを思い出すためだったり、元気のない自分のためだったり、普段は照れくさい感謝を伝えるためだったり。本当に色々なきっかけで花たちが旅立っていく。

お客さんの好みやエピソードを聞き出しながら、私はいつも、わが子をお嫁に出すような気持ちで花を束ねている。

ある日のこと。「お花を切らないで!そんなに短く切ったら可哀想だよ」。

突然の声に振り返ると、小学校1年生くらいの女の子が私をまっすぐ見上げていた。

「おっと、なんだか面白いことになってきたぞ」と、店に活けてある花たちが一斉に聞き耳を立てる。

私はその言葉を聞いて、胸の奥から大事な記憶が溢れてきた。花が好きになった頃の私も、おばあちゃんに同じことを言ったことがあるから。

おばあちゃんは、私が遊びに行く度に、見たことのないようなお花を庭から摘んできては、小さな花束を作ってくれた。私はその小さな花束が大好きで、いつも大事に自宅に持って帰って花瓶に飾っていた。

でもいつのことだろう。急に花が可哀想に思えた。花壇から無理に連れてこられたんじゃないか、まだお庭でみんなと居たかったんじゃないかって。

だから私はおばあちゃんに言った。「もうお花を切らないで」と。

おばあちゃんはそれを聞いて、なぜだか嬉しそうな顔をした。そして花束を持った私を、鏡の前に立たせた。

「鏡を見てごらん。今、鏡を見ているのは、おばあちゃんとカスミだけじゃないの。お花も見ているの。花束となって綺麗に飾られた自分がとっても誇らしいの。カスミが可愛いドレスを着た時、とっても嬉しいのと同じこと」

私はわかったような、わからないような気持ちになって、手の中の花束をじっと見つめた。

「今はまだわからないかもね。でもお花のことをそんなに思ってくれるなら、すぐにお花の気持ちがわかるようになるわ」

おじいちゃんもそうだったのよ。と、最後は小さく言った。外の花壇を見つめながら。

花たちからの視線に気づいたのかも知れない。私の話を聞いているうちに、女の子の目がどんどん輝いてきた。

「みんなが君に『こんにちは』って言ってるよ」と話すと、キョロキョロしながら素直に大きく頷いてくれた。

「そうだちょっと待ってて」この女の子に花束をプレゼントしたいと思った。野原で咲いているような花を集めた、とてもシンプルな花束を。

私は今、間違いなく嬉しそうな顔をしている。そう、いつかのおばあちゃんのように。

(おわり)

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