【民藝から考える】第1話:人の「いい」が、自分の「いい」とは限らない。

編集スタッフ 松浦

「今よりもっと、いい暮らしを」
約100年前、そんな想いを持った人たちにより生まれたと言われる「民藝」。

彼らは、誰も目に留めることのなかった、日常の生活道具こそ美しいと語り、それらを「民衆的工芸」=「民藝」と名付けました。

うんと昔の話なのに、なぜか近くに感じる。約一世紀も前に生まれた「民藝」に、今あらためて惹きつけられるのは、どうしてなのでしょうか。

「美しい」ってだけじゃない。「昔のものっていいよね」と懐かしむものとも違う。気になってはいるものの、その定義も境界線もよくわからず、なんだかもどかしい…… 一体、民藝って何なんだ。

わかるようでわからない民藝。でも、当時の人たちが「もっと、いい暮らし」を求めて行き着いたなら、そんな「民藝」を考えることは、私たちの暮らしのヒントにも繋がるかもしれない……

特集「民藝から考える」では、民藝を通して、「これからの暮らし」のヒントを4話に渡って探っていきます。取材班は、民藝好きのわたし松浦と、その熱意を受けて少し興味を持ち始めた、民藝初心者のスタッフ二本柳です。

 

今回、私たちが助けを求めたのは、魚を丸ごと買ってみるの特集でもお世話になった、「みんげい おくむら」の奥村忍(おくむらしのぶ)さん。世界中から集めた手仕事の道具を現代の暮らしに合わせて、ECサイトで紹介しています。

お店のページには「今の時代、今の生活に合った『みんげい』を探し、提案していくお店です」の言葉。この一言を見て、奥村さんなら私たちのモヤモヤにヒントをくれるかもしれないと思ったのでした。

また、一児のパパでもある奥村さん。今回は、子供が生まれて暮らしも大きく変わったという、千葉のご自宅にお邪魔しました。

 

スタッフ松浦:
「前の家とだいぶ変わりましたね。ものがうんと少ない気がします。もしかして、お子さんのためですか?」

奥村さん:
「そうなんです。民藝の器などの割れ物は手の届かないところに隠したり、自分の部屋に並べたりしています。ちょうど歩き始めたくらいなので、床も転んでも痛くないようコルク製のマットに変えました。その時々で暮らしってすごい変わりますからね」

スタッフ松浦:
「そうですね。また、数年後にどうなるのか楽しみです。奥村さんがそもそも民藝に出会ったきっかけは何ですか?昔から好きだったんですか?」

奥村さん:
「民藝という言葉は、20代半ばくらいで意識し始めました。私、元々サラリーマンだったんです。大学卒業後は、食品関係の商社に就職しました。今では考えられないくらい、忙しい日々で、自分の暮らしを考えることなんてなかった。

20代後半、仕事の都合で大阪に引っ越すことになりました。当時住んでいたのは、会社が契約していた家具つきのマンスリーマンションで、テーブルから、食器、布団まですべてが備え付け。

正直、ものすごく居心地が悪かったです。どれも自分の気に入らないものばかりで、仕事を終えて、疲れて家に帰ってきても、まったく落ち着かなかったです」

奥村さん:
「このままじゃまずい!と思って、まず、身の回りのものを少しずつ自分の好きなものに変えていきました。

例えば、グラス。朝起きて一番に飲む水がお気に入りのグラスだったらなんだか気持ちがよかったんです。帰宅して、ビールを飲むのも同じ。ふ〜って力が抜けていくというか。心地よさってこれだなって。

その時身の回りに自然と集まっていったのが民藝でした。そこから手当たり次第に本を読み漁りましたね」

▲ 奥村さんが特に影響されたという、外村吉之介さんの『少年民藝館』

奥村さん:
「仕事をやめない限り、どうしたって忙しい生活は変わらない。その中で、少しでも心地よく暮らすには、どうしたらいいかって真剣に考えてました。そんな頃に民藝を意識し、このことが私に大きなヒントを与えてくれた気がします」

 

スタッフ二本柳:
「民藝の一歩目って何がいいんでしょう?」

奥村さん:
「やはり、日常で自分が一番よく使ってるものを変えてみるのが一番ですよ!コーヒー好きな人は、まずはマグカップから。朝はパンより米!という人は、茶碗でもいいですね。

自分がよく使うものじゃないと、そのものの良さって分からないんですよ。買ってみたはいいけど、何がいいんだろう?って結局本当の良さが理解できないまま終わってしまったら悲しいですよね」

スタッフ松浦:
「分かります…… 奥村さんもそういうことありましたか?」

奥村さん:
「私もよくあります。特に自分の信頼してる人がいいっていうと、つい買ってみたくなってしまう。でも結局思い通りに使えなくて、その良さが分からないことがストレスになったりね。“自分の”暮らしには合っていなかったんです。だから人のいいが、自分のいいとは限らない

 

▲ 奥様と、最近歩き始めたばかりだという長男の文七(ぶんしち)くん

奥村さん:
「例えば、包丁。うちのお店で扱っているものは鋼(はがね)ではないんです。でも、包丁は職人ものの打ち鋼のものの方が、切れ味が良く、いい包丁と言われています。

もともと、包丁は職人ものの打ち鋼のものが良い、と言われているけれど、サビが出やすいし、欠けやすい。プロには良いけど、忙しい家庭には向かない。

でも、その『いい』って誰にとって『いい』んでしょうか?これは、おそらくプロの料理人です。実際、打ち鋼の方が切れ味はいい。ただ、サビが出やすいし、欠けやすい。だから、使うたびに研がないといけないんです。プロには良いけど、これだと忙しい家庭には向きませんね。

家庭で日々使われることを考えたら、100点の切れ味ではないけれど、半年に一回ほど研げばいいものの方が、いいのかもしれません。

大切なのは、なんでいいのか?を考えることです。それって自分の暮らしにもいいのかな?って。いい理由が分かると、もの選びも暮らしもぐっと楽になる気がするんです」

自分は何が心地いいのか? 自分はどうありたいのか? 奥村さんは、ものの美しさだけではなく、暮らしのあり方のヒントを民藝に見つけたのかもしれません。

次回は、そんな民藝を考えるための第一歩。民藝とはそもそも何なのかを奥村さんにお聞きします。

(つづく)

【写真】原田教正

もくじ

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奥村忍

日本や世界各地から集めた手しごとを中心とした生活雑貨を商う「みんげい おくむら」店主。今の時代、今の生活に合った「みんげい」を探し、日々提案している。千葉県生まれ、千葉県在住。http://www.mingei-okumura.com


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