【民藝から考える】第4話:暮らしと向き合い、自分なりの答えをだすこと。これが「民藝」でした

編集スタッフ 松浦

「今よりもっと、いい暮らしを」
約100年前、そんな想いを持った人たちにより生まれたと言われる「民藝」。

彼らは、誰も目に留めることのなかった、日常の生活道具こそ美しいと語り、それらを「民衆的工芸」=「民藝」と名付けました。

「美しい」ってだけじゃない。「昔のものっていいよね」と懐かしむものとも違う。気になってはいるものの、その定義も境界線もよくわからず、なんだかもどかしい…… 一体、民藝って何なんだ。

特集「民藝から考える」では、民藝好きのわたし松浦と、その熱意を受けて少し興味を持ち始めた、民藝初心者のスタッフ二本柳が、民藝を通して、これからの暮らしのヒントを探っていきます。

お話を伺うのは、引き続き「みんげい おくむら」の奥村忍(おくむら しのぶ)さんです。

 

奥村さん:
背景を知るということは、何もプロダクトに限ったことではありません。日々の食事も同じことです。

どこかで、半径◯m以内で採れたものだけで生活しようと試みた人の話を聞いたことがあります。自分でもできるかな?と考えてみましたが、まず普段食べているものがどこで作られているのかすらわかりませんでした。

塩は? 醤油は? 味噌は? 普段何気なく使っている調味料でさえ、探し出すのは一苦労。普通に難しかったです」

スタッフ松浦:
「確かに、自分の生活圏内でどんなものが作られているかなんて考えてみたこともありませんでした」

奥村さん:
「民藝という言葉が生まれた90年以上前は、田舎では身の回りのものを食べるというのが、ある程度当たり前。物流も整っていないから、地元のものを食べるしかなかったんです。でもいまは、輸入だってできる。地球の裏側のものだって簡単に手に入る。ものの背景を知ることは簡単ではなくなっています」

 

スタッフ二本柳:
「具体的に私たちができることって何があるのでしょうか……」

奥村さん:
「私の場合は、できるだけ近くの個人商店で買うことを意識しています。

作っている背景をできるだけ伝えてくれる店。でも全てのものは揃いません。できるところから意識すればいいと思います。

豆腐が好きなら、豆腐だけでも近くの個人商店で買うとか。時間もお金も限られている中で、どこにどれだけ費やすかの優先順位は、自分で決めたいもの。誰かに言われたって、自分は本当にそうしたほうがいいのかな?と考えてみてください」

 

取材も終わりかけた頃、「お腹すきましたよね?」と、奥村さんがさっとキッチンに移動し、お昼ご飯を作ってくれました。あまりの手際の良さに、私たちもびっくり。あっという間に、民藝のうつわが並ぶ素敵な食卓が現れました。

奥村さん:
「この魚、実は今朝近くの市場で買ってきて、仕込んでおいたんです」

スタッフ二本柳:
「わ〜すごい!市場で魚買うなんて、真似できないです」

奥村さん:
「どうか真似しようなんて思わないでください(笑)私はこうやって自分で店をやってるから時間の調整もできる。それに、一ヶ月の2/3は出張しているので外食ばかりです。こうやって家にいるときくらい、ほっとする穏やかなご飯が食べたいなって思って自分で作るようになりました。

つまり、こうやってしっかり料理するのは一ヶ月の1/3だけなんです。これを毎日っていわれたら、私も無理ですから(笑)

手段も大事ですが、手段だけを気にしてしまうと心も疲れてしまいます。大切なのは、なぜそれをしているのか。今の自分に本当に必要であれば、やればいいし、いらないと思えば、やらなくていい。

忙しかったら、おいしいお惣菜を買って帰ってもいいんです。もう何度も言ってしまいましたが、こうしなきゃいけないなんてありません」

 

奥村さん:
「これまでいろんなことを話してきましたが、こうやって暮らしと向き合って、何かをまじめに考えた時、言葉として意識はしたことがなくても、どこかで『民藝』に触れているはずですよ」

奥村さんのそんな一言に、ハッとして箸が止まる私たち。

「今よりも、もっといい暮らしを」私たちがそう思って、日々お届けしている商品や読み物も、カタチは違えど、もしかしたら民藝と繋がっていたのかもしれない。そう考えたら、民藝が身近に、そしてそれ以上に、自分たちの中にあるのを感じたのでした。

4話に渡ってお届けした「民藝から考える」も、これにておしまい。今回の特集を終えて、改めて私たちなりの心地いい暮らし、「フィットする暮らし」を、これからも皆さんと一緒に考えていきたいと思いました。

(おしまい)

【写真】原田教正

もくじ

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奥村忍

日本や世界各地から集めた手しごとを中心とした生活雑貨を商う「みんげい おくむら」店主。今の時代、今の生活に合った「みんげい」を探し、日々提案している。千葉県生まれ、千葉県在住。http://www.mingei-okumura.com


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