【すてきな凸凹】後編:「できない」があるから、家族はより “チーム” になる(犬山紙子さん・劔樹人さん夫妻)
商品プランナー 斉木
「できないことは、恥ずかしい」。そう思って隠してきた自分のなかの凹(ボコ)の部分。でも、それって本当に恥ずかしい、隠すべきことなのだろうか?
そう思うきっかけになった夫婦、犬山紙子(いぬやま・かみこ)さんと、劔樹人(つるぎ・みきと)さんに会いに行った今回の特集。
前編では、夫・劔さんの「気持ちを言葉にできない」という凹(ボコ)の部分を、本人の視点と、妻・犬山さんの視点両方から見つめてみました。
続く後編では、犬山さんに話を聞いていきたいと思います。
「怒るって、実は気持ちいいことだと思うんです」
今回のテーマは「できないこととの付き合い方」。犬山さんは自分のできないこと、凹(ボコ)と聞いて何を思い浮かべますか?
犬山さん:
「わたし、もともとは自分さえよければそれでいいという利己的な人間で、怒りっぽいところを直したいと、ずっと思っています。
余裕をなくすと、ひどい口調になってしまうんですよね。命令口調になったり、夫が忙しくて手が回らないとわかっている家事を『どうしてできてないの?』と指摘してしまったり。それで自己嫌悪にも陥ります」
▲2017年に刊行されたふたりの著書には、何気ない日常の1コマも綴られています。
犬山さん:
「怒るって、すごく快感があるなと思っていて。被害妄想もそうですけど、自分の中で問題をどんどん大きくしていくことって、一見苦しいことのようなんですが、それはそれで気持ちいいことだと思うんです。だから、その気持ち良さに負けないようにしたいと思っています」
「自分が正しい」と思っていたけれど
犬山さん:
「想像力を持つことも、まだまだ苦手なことのひとつですね。
結婚当初、スーパーに行く頻度について夫と話し合いをしたことがありました。
彼が1日に何度もスーパーに行くので、1回にまとめなよと言ったんです。わたし、つい自分が正義だと思ってしまうところがあって、こうする方がいいに決まってるって決めつけた言い方をしてしまって」
劔さん:
「僕はそもそもスーパーに行くのが楽しみなんです。朝昼晩でお店の雰囲気が変わるのが好きで」
犬山さん:
「それは自分の中に全くない考え方だったんです。私は合理主義なので、効率を第一に考えて、相手の感情にまで想像が及んでいなくて。でもこんなふうに自分の考えを押し付けるのは、ふたりにとって良くないと、そこではじめて気づいたんです。
夫とは性格が正反対なのでなかなか想像が難しい部分もあるんですが、時には友達に相談して、できる限り相手がどんな気持ちでそれをしたんだろうって想像力を働かせたいと思うようになりました」
性格はなかなか変えられない。でも、せっかく家族になったのだから
犬山さん:
「人が変わるのって本当に難しくて、今でも自分のことばかり考えて、つるちゃんを傷つけたり無理させたりすることもたくさんあります。
でも家族というチームになったら、怒りに飲まれて相手を傷つけたり、自分の考えを押し付けたりするより、冷静に考えて行動した方がゆくゆくは自分にとっても幸せなんだと気づいたんです。
せっかくこんなに “いいやつ” と出会えて、娘も授かって。このふたりを絶対に手放したくないし、いなかったらきっとすごく寂しい。だから離婚もしたくないし、できる限り長く幸せに過ごしたい。これは自分を変えるタイミングだな、と思ったんです」
夫から見える妻の凹(ボコ)と、変わった自分
劔さん:
「妻は、自分の怒りも含めた感情、考えに至った経緯を、とにかく徹底的に言葉にして伝えます。僕はそれを聞いてこんな考え方もあるんだと、自分一人では気づけなかったことばかりなんです。
結婚するときに彼女に『自分の本当にやりたい仕事と、家のことをやってほしい』と言われたとき、自分のやりたいことってなんだろうと考えたんです。それは、これからどう生きたいか、という問いと同じで。
そのときに、“粋な生き方をしたい” 、そのために “人と比べない” という答えを自分なりに出しました。
それまで僕は自己主張も苦手で、人に流されやすかったんですが、彼女と話すなかで自分の長所や短所が整理されて、出せた答えなんじゃないかと思っています」
「できない」も、違う方向から見てみれば。
「できないこと」は恥ずべきこと。どうにかして克服しなければならないこと。ずっとそう思ってきました。
でも自分の中の凸凹(デコボコ)がなくなる日なんて想像できないし、どこかでそんな終わりのない闘いに疲れてしまうこともあって。
今回おふたりの話を聞きながら、凹(ボコ)を自分ではない他者の目から見たとき、そこにはまた違った景色が広がっているのかも、と思うようになりました。
もしかしたら凹(ボコ)は、誰かと出会い、その人の力になりたいと思った瞬間に、凸(デコ)になりうる可能性を持った部分なのかもしれません。
「できないこと」が、誰かと手を取り合ったり、変わったりするきっかけになる。そう思えたら少しだけ肩の力を抜いて、ゆるやかな気持ちで受けいれられるような気がします。
(おわり)
【写真】砂原文
もくじ
犬山紙子(いぬやま・かみこ)、劔樹人(つるぎ・みきと)
妻・犬山紙子はイラストエッセイスト、コラムニスト。雑誌、テレビ、ラジオなどで幅広く活躍中。主著に、『負け美女 ルックスが仇になる』(マガジンハウス)、『女は笑顔で殴りあう マウンティング女子の実態』(瀧波ユカリとの共著・筑摩書房)などがある。
夫・劔樹人はベーシスト、漫画家。著書に「今日も妻のくつ下は、片方ない。」(双葉社)、「あの頃。〜男子かしまし物語〜」(イースト・プレス)、「高校生のブルース」(太田出版)。「小説推理」、「MEETIA」、「みんなのごはん」などで連載中。
▼文中に登場した書籍は、こちらからご覧いただけます。
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