【わがままな自炊】前編:「ちゃんとする」がゴールじゃない。ひとつの味噌汁が自信に繋がることもある
ライター 小野民
そのやり方、自分に合っていないだけかも?
常備菜づくりや、時短レシピ、使い勝手のいいレトルト食品、世の中には「手際よく、ちゃんと暮らしたい」という願いを叶えるための食にまつわるあれこれが溢れています。でも、それら世の中の「便利」のモノサシが自分に合うとは限りません。
たとえば、機能的といわれるスマート家電が使いこなせなかったり、周囲の家事上手な人の「おすすめの段取り」のハードルがすごく高く感じたり。
そんなときに出合ったのが、東京・代々木上原の行列が絶えない店『按田餃子』オーナーの按田優子さんが書いた『たすかる料理』(リトル・モア)。そのタイトルに惹かれて読み進めているうちに、料理に対するコンプレックスがほどけたような気がしました。
その理由は、どうやら按田さんが「三食バランス良く食べる」、「主食はご飯やパン」という常識に縛られず、「自炊」そのものを再定義しているところにありそうです。
ご自身のことを「わがまま」と評する按田さん。それはきっと、外野の声に惑わされずに、「自分にフィットする方法」を探してきたということなのでしょう。
既存の枠からちょっとはみ出して、自分のルールで生きることは、わがままかもしれないけれど、自分を正しく扱う術でもありそうです。
この特集では、按田さん自身が日々の暮らしのなかで身につけた、新しい自炊のあり方について聞きました。
自炊は、自分を「よい状態」にコントロールするツール
行列ができる人気店「按田餃子」のオーナーとして、忙しい毎日を送る按田さん。お店からほど近い自宅を訪ねると、「いらっしゃい!暑かったでしょう〜?」と朗らかに笑いながら、私たちを出迎えてくれました。
そんな按田さんに『たすかる料理』を読んだ感想を伝えると、「わたしって、料理上手とか料理好きというわけではないんですよ」と言い切ります。料理を特別なものとせず、あくまで暮らしの一環として捉えているからこそ伝えられることがある。そう信じて、料理家やお店をやっていると話します。
按田さん:
「料理イコール自立だと思うんです。
わたし、もともと虚弱体質だったんですよ。子どもの頃は母に食事管理をしてもらっていたけど、大人になってひとり暮らしを始めると、自炊がより切実なものになりました。自分に合ったものを自分で選んで食べることで、体調がよくなっていくことを実感したからです。
体調の良し悪しって、そのまま気持ちに繋がりますよね。だから私にとって日々の料理は、『自分自身を、いい状態に保つ』ための大切な手段でした。
だからこそ、もし料理に苦手意識を持っている人がいれば、それは『自分に合う型が見つかっていないだけ』と伝えたい。世の中で思われているよりも、もっと自炊は自由だし、わがままで良いと思うんです」
「ちゃんとする」がゴールじゃない。1日の流れで料理も考える
按田さん:
「体調管理のために自炊は必要だけれど、世の中にあるお手本が自分に合っていないと気づかされることもありました。たとえば、私は常備菜が向いていなかった。
自分のライフスタイルと性格を考えると、急に外食したくなることもあるし、『今日食べたいもの』の気分に素直でいたい。冷蔵庫に常備菜があることが、プレッシャーになってしまいました」
按田さん:
「料理は、それ単体で存在するわけじゃない。
暮らしのなかには、掃除や洗濯があって、仕事も、子育てもあって、それぞれのライフスタイルがありますよね。だからこそ、料理だけいくらしっかりしても自分をいい状態に保つことは難しい。洗濯はいつ、仕事はいつ、リラックスタイムは……と自分の1日の流れのなかで、うまく分配していくのがいい。
みんな忙しいし、ちゃんと休む時間も必要だから、料理に時間をさけないこともあると思うんです。そんなときは、時短レシピや便利な道具、世の中にある選択肢から自分に合うものを選べばいい。
わたしの場合は、体調をよくしておくためには、自炊は『ちゃんとする』よりも、『自分にあったもの』、『そのとき食べたいもの』を優先するようにしています」
1日3食は絶対?ジャンクはだめ?体の声を聞くのが第一優先
いまや、パワフルに日々を過ごす按田さんが、なりたい自分になるための「食べ方」はどんなものなのでしょうか。
按田さん:
「献立にしないで、ちょこちょこ食べたほうが調子がいい時もあります。3食きっちり食べよう、毎食バランスよくとは思わなくていいんじゃないでしょうか。
理由のひとつは、わたし自身、そんなに動いていないのでカロリーを消費していないから。もうひとつは、ルーティンを作らないようにしているからです。
3食食べると決めるよりも、『いまなにがほしいかな?』というのに向き合います。朝起きて飲むものも、白湯がいいときも炭酸水がほしいときもあって、その違いに自覚的になるのが大事だと思っているんです」
世間の「常識」よりも、自分自身の「体の声」に耳を澄ます。それが、按田さんの料理の基本になっているようです。
それは、ジャンクなものが食べたい!という気分のときも同じだとか。
按田さん:
「家からすぐ近くにコンビニがあるので、衝動的にお菓子を買いに行くこともあります(笑)
でも、ジャンクなものを食べるときは、袋から直接食べず、ちゃんとお皿を選んで載せてから食べる。そういうものを食べたいと思う背景には、ほっとしたかったり、気分転換したかったり、ちゃんと理由があるはずなんです。そのわがままには付き合ってあげたほうがいいと思うんですよ。
だからこそ、何だったか忘れちゃうような食べ方をしたら意味がない。自分を労るための『ごほうび』として昇華するのが大事だと思います」
色々できなくても、「味噌汁ひとつ」上手にできればいい
外からの視線は気にせず、自分自身が本当に望んでいるものはなにかを見極めるのが、按田さんの大切な土台のひとつ。もうひとつ、心地よく生きていくためには、自らを「型」にはめるのも有効だといいます。
按田さん:
「なんでも自由にやっていいよって言われるのも、実はすごくハードルが高い。前例もないところから自分の生き方・やり方をつくるってすごく力のいることです。だから、その人なりの型を身につけて生きていくのがいいかなと思ってて。
とはいえ、世の中で主流として語られる生き方のバリエーションって意外と少なくて、たとえば女性の生き方でいえば、結婚して子どもを産むことが既定路線として語られがちです。私もそういう人生を歩んでいないし、もうちょっと生き方の型自体にバリエーションがあったら、きっとみんな楽になれると思うんです」
同じように、料理にも自分にあった「型」がきっとあるはず。按田さんが料理家として探求するものは、レシピというよりも料理の型なのだそう。
「料理も同じで、なんでもそつなくできることを目指さなくても、たとえば味噌汁ひとつ型をつくって、それを上手にできれば十分。そうできれば自分に自信がつくし、自分をごきげんに、いい状態に保つことにつながると思います」と按田さん。
たしかに、ひたすら新しいレシピを試すよりも、ある種のあきらめからワンパターンに落ち着いてからの方が、料理の腕前が向上した、という経験がある人も多いかもしれません。
では、按田さん自身が実践している「型」とはどんなものなのでしょうか。後編では、日々の台所しごとを楽にする、3つの型を教えていただきます。
(つづく)
【写真】志鎌康平
もくじ
按田優子
料理家、『按田餃子』店主。1976年東京生まれ。菓子・パン製造、乾物料理店などを経て独立。土地の気候を生かした保存食についての探求がライフワークで、その土地独自の食品開発の仕事でペルーのアマゾンに通ったこともある。著書に『男前ぼうろとシンデレラビスコッティ』(農文協)、『冷蔵庫いらずのレシピ』(ワニブックス)など。
ライター 小野民
編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に地方・農業・食などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫4匹と山梨県在住。
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