【わがままな自炊】後編:毎日の料理を助けるのは、レシピよりも型づくり。按田さんがすすめる「3つの型」とは
ライター 小野民
既存のモノサシだけではちょっと窮屈に感じることが、身の回りにはたくさんあります。
わたしも、とくに暮らしに関しては「便利」をうたうものに飛びつきがちだけれど、求めているものは、ただの便利じゃないような気もするのです。
自分のモノサシとは、実は「わがまま」ということかも。他人目線ではなく、自分本位の軸を持って、もうちょっとわがままが尊重されてもいいのではないか……。
そんな想いを抱えて会いに行った料理家の按田優子さんは、自分をごきげんに保つために自身の扱い方をしっかりと心得ているのが印象的でした。
後編では按田さんが朗らかに暮らすための秘訣ともいえる、自炊の『型』を教えてもらいます。
毎日の自炊を助けるのは、レシピよりも「型」
按田さんが提案する3つのこと
基本の味付けは調味料を決めておく
按田さん:
「さまざまな味つけで料理を楽しむのもいいけれど、『これがあれば間違いない』というお気に入りの調味料が2つくらいあれば、とても頼りになります。
私の場合は、すし酢とめんつゆを常備。すし酢は酸っぱい味つけはもちろん、保存料としても優秀で、夏場でも土鍋で炊いたご飯にふりかけておけば常温で1日持ちます。
めんつゆがあれば、そばやうどんをゆがけばOKで食事がラクだし、煮ものや炒めものなど、目分量でも和風の味つけにきまります」
今回は、なかでも按田さんがお気に入りという「すし酢」のレシピを教えていただきました。
冷やご飯に混ぜればサラダに。按田家のすし酢
材料(作りやすい分量)
酢…1カップ
砂糖…50g
塩…50g
昆布…5cm角1切れ
これらすべての材料を容器に入れて、常温で保存するだけ。とっても簡単です。
▲ご飯の重さに対して1割のすし酢が目安。1合なら大さじ2程度。
これを余ったご飯にかければ、ライスサラダに。
酢漬けの玉ねぎ、ナッツ類、きゅうりやセロリなどのフレッシュな野菜など、好みで混ぜ合わせるだけでできあがり。
まろやかな酸味のご飯とさまざまな食感の具材で、食欲が進みます。
按田さん:
「冷凍保存するまでもない、中途半端な量のご飯が余ることってないですか?そういう時は、すし酢をかけてしまって、翌日のサラダに使い回すのがおすすめですよ」
食材別「使い切りパターン」をつくる
按田さん:
「大根やキャベツなど1個まるごと買った後、つい余らせがちな食材ってありますよね。そういうものは、自分のなかで展開のパターンを決めておけば、無駄なく丸ごと使いきれます。
切り方や料理法の違いで同じ野菜も全然違った楽しみ方ができるし、時間差を作るための保存方法を知るのもポイントのひとつ。
色々なレシピを試すのもいいけれど、『大根ならこれ』『キャベツならこれ』と決めてしまって、それをとびきり上手に作る。日々の料理は、それでいいと思います」
覚えておくと便利。大根1本で「煮る」「おろす」「炒る」の3変化
▲左上から時計回りに、すももの大根おろし和え、大根の皮のきんぴら、連鍋湯(れんごうたん)。
01「煮る」:中国の家庭料理連鍋湯(れんごうたん)
下のでレシピ紹介
02「おろす」:大根おろしと果物
すし酢をふった大根おろし、果物を合わせる。
03「炒める」:大根皮のきんぴら
フライパンを熱して大根の皮を炒め、濃縮めんつゆで味をつける。好みで仕上げに粉唐辛子をふる。
按田さん:
「連鍋湯は中国のおふくろの味で日本でいえば肉じゃが的な存在。大根をたっぷり使う、大好きな料理です。
大根おろしと果物を和えたものは、能登の民宿で出合った味。デザートとおかずの中間のような不思議な組み合わせですが、絶妙なおいしさでぜひ試してほしいです。
きんぴらのパリパリした食感は、皮だからこその持ち味ですよ」
「煮る」:豚バラと生姜で味つける、30分料理
材料
大根(皮をむいて半月切)…300g
豚バラ肉(1㎝厚に切る)…200g
生姜(薄切り)…4枚
山椒の実…小さじ2
水…5カップ
塩…大さじ1
鍋に豚肉を入れて弱火でじっくり焼きます。余分な脂を落とし、大根以外の材料を鍋に入れて15分くらい煮たら、大根を入れてさらに10分くらい煮て完成。シンプルだからこそ飽きがこない味わいです。
余り野菜は、「塩水漬け」で寿命を伸ばす
按田さん:
「常備菜や冷凍などの食材を長持ちさせる方法のほかに、型として提案したいのが『塩水漬け』という方法です。
発酵した塩水に漬けるのですが、ぬか漬けのようにかき混ぜる手間もいらないし、どんどん入れておくだけの手軽さが大好きです。余った野菜の端っこなどを入れていけるので、無駄も減らせますよ」
材料
水(または大根おろしや野菜の絞り汁)…1/2カップ
塩…小さじ1と1/2
密閉容器に塩と水分を入れて、水分と同量の野菜を入れます。3日くらいで発酵してきたら食べどき。野菜を足すときは、塩も足すと良いです。
*容器の中を3~4%の塩分にする。
しっかり味のついた塩水漬けの野菜なら、料理にプラスするだけで味つけとして使えます。好みの肉や薬味と混ぜれば、調味料いらずで立派な餃子のタネにもなるのだとか。
市販の餃子の皮は使い切れないからと、按田さんの餃子の皮は手作り。といっても、小麦粉と水を「適当に」練っただけだそう。
もっちりとした皮の中の具はさっぱりとしていて、漬物の酸味がひき肉と好相性。面倒くさい気がしていた餃子作りも、ここまで適当でいいのかと目からウロコでした。
型にはまっていこう!という新しいエールをもらって
型にはまる、ということを前向きに考えたのは初めてでした。
「自分らしく」「自由に」という応援や励ましが世の中にはたくさんあります。もちろん、それらの言葉に鼓舞される自分もいるのですが、もしかしてそれがプレッシャーになっているのでは?とも。
按田さんが、自分と上手に付き合うために手にしてきた、生き方や料理の「型」。わがままを通しながら、コンディションよく日々を過ごすための型は、いろんな人にはまるおおらかな型な気がします。
料理も日々の家事も、型通りでいい。まずは自分にしっくりくる型を見つけることで、気ままにもなれる。そんな余裕を持ち合わせて、「条件付き自由」の日々を楽しんでいこうと思います。
(おわり)
【写真】志鎌康平
もくじ
按田優子
料理家、『按田餃子』店主。1976年東京生まれ。菓子・パン製造、乾物料理店などを経て独立。土地の気候を生かした保存食についての探求がライフワークで、その土地独自の食品開発の仕事でペルーのアマゾンに通ったこともある。著書に『男前ぼうろとシンデレラビスコッティ』(農文協)、『冷蔵庫いらずのレシピ』(ワニブックス)など。
ライター 小野民
編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に地方・農業・食などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫4匹と山梨県在住。
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