【35歳の仕事論】第1話:どうしたら「センス」はよくなりますか?(good design company水野学さん)
ライター 小野民
good design companyの水野学さんに、会いに来ました。
当店のスタッフ津田が、35歳という節目を前に、年齢と経験を積み重ねながら「よりよい仕事」をしていくために、さまざまな方にお会いしてインタビューするシリーズです。
今回は、仕事の領域でも不可欠な「センス」にフォーカスした番外編。きっかけは、水野学(みずの まなぶ)さんが書かれた『センスは知識からはじまる』(朝日新聞出版局)を読んだことでした。
仕事をするなかで「センスは生まれつき」とのあきらめと、「何かできることがあるはず」との想いの間で揺れ動いていた時期に出合った本の内容は、津田にとって納得感と希望を与えてくれるものだったといいます。
まだまだこれから。その想いを確信に変えたくて、著者である水野さんへのインタビュー。「そもそもセンスってなに?」から始まる全3話をお届けします。
「34歳でも『まだセンスはよくなるはず』と思っていいですか?」
水野学さんは、日本を代表するデザイン会社 good design companyの代表です。独立して今年で20年。「くまモン」や「中川政七商店」のブランディングなど、誰もが知っていて親しみやすいデザインにコンセプトから関わり、世の中に生み出してきました。
そして、その仕事を支える考え方、方法論はいくつもの本になり、大きな反響を呼んでいます。
それらの愛読者である津田は、緊張の面持ちで水野さんと初対面。しかし水野さん自らジョークを言って和ませてくれる人柄に、インタビューの場はすぐに暖かな雰囲気になりました。
編集スタッフ 津田:
「水野さんの本を読んで、すごく嬉しかったんです。
センスって、生まれ持っている人には一生敵わないのかなとずっと思ってきました。でも、いろんな仕事を経験してくると、自分の中にあるものから生み出す力だけじゃなくて、既存のものを『なにをどう真似るか』も、その人のセンスと言える気も。そもそも、センスって良い悪いで計れるの?ってことまで考えてぐるぐるしちゃっていて。
そんなときに、『センスは知識からはじまる』という言葉に勇気付けられました。とはいえもうすぐ34歳。私のセンスは、まだ良くなるって信じていていいですか?」
水野さん:
「結論から言うと、センスは何歳からでも身につくと思います。だって70代で写真を始めて、90歳近くなってからブレイクしている方がいらっしゃるくらいですしね。
ただ、そうなるためには、いくつか条件やきっかけは必要でしょう」
編集スタッフ 津田:
「そもそもセンスって何でしょうか?水野さんが『センスは知識からはじまる』と考えるに至ったのはなぜですか?」
水野さん:
「僕は、センスはすごく知識と近しいものだと考えているんです。それはセンスが、自分がストックしている知識の中から、最適なものをチョイスできるか否かを指しているから。
たとえば、北欧の雑貨に全く興味がない人に、『アラビアの食器だよ』と言っても全然響かない。
求められている分野に合っているものを選べるかどうかが、センスの良さなんです。センスがあるという意味の最上級はなにかというと、僕は『ゼロポイント(中心点)が分かる』ということじゃないかと思っています」
水野さん:
「常にゼロポイントを理解することができて、どんなジャンルも分け隔てなく、その時の最適なものをチョイスできるというのが、センスが良いと言われる人に一番近しいんじゃないかと僕は思っていて。
最初の質問に戻るけれど、30代半ばでも知識を蓄えることによって、センスの引き出しは増えていくと思います」
センス=「知識」から「最適解」を見つける。そのためにすべきことは?
編集スタッフ 津田:
「センスがよくなるためには、知識を身につける。そこまでは理解できるのですが、知識がちゃんとたまっているか分からないし、さらにそのなかから『最適解』を見つけるとなると、自信がありません」
水野さん:
「たしかに知識がどのくらいたまっているか、客観的に数値化できるメーターなんて、存在しませんからね。だから、『どのくらいストックされたか』なんてことは気にしちゃダメ。インプットをやめずに知識はため続けなくちゃいけないと思います。
僕は過去に、『25歳でセンスは止まる』って書いたことがあるけれど、それはなんでかというと、いろんなことに新鮮味を感じず、驚かなくなる可能性が高いから。逆にいえば、歳を重ねたって何にでも興味を持って驚いていれば、センスの更新は止まりません。
僕が多少なりとも知識を蓄えているのは、いつまでも5歳児のままで『なんで?なんで?』っていろんな人に聞いているから。まぁ、周りにはうざがられますけどね(笑)。
答えに対しても、いつもいちいち感動するから、脳にすごく残る。記憶は、脳に傷をつける作業らしいので、いちいちびっくりすれば良いんじゃないかと思うんです」
▲びっくり!と脳に知識が刻まれる瞬間の表情もしっかり再現してくださいました
第2話では、さらにスタッフ津田がセンスの正体に迫ります。驚くのって怖くないですか?、仕事で「センス」を発揮するには?、などをお届けします。
(つづく)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
水野学
good design company代表。1972年東京生まれ。ゼロからのブランドづくりからコンサルティングまでをトータルに手がける。主な仕事に、熊本県「くまモン」、中川政七商店、久原本家「茅乃舎」ほか。新著に『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』(ダイヤモンド社)。
ライター 小野民
編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に地方・農業・食などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫4匹と山梨県在住。
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