【35歳の仕事論】第3話:ルーティンの積み重ねが、人生の余白をつくる。(good design company水野学さん)

ライター 小野民

社会人になって早10年を超え、もうすぐ35歳。先輩の背中を追いかけてきた時期は過ぎて、いまや自分で仕事をつくり、背負っていく、そんな責任がじわじわといつも足元にある感じ。そんな変化が生じています。

自分がこれまで積み上げてきたものを生かした、私の仕事ってどんなもの?年齢も、仕事のあり方も「中堅」に差し掛かったスタッフ津田(編集チームマネージャー)が、人生の先輩に会いに行くシリーズ「35歳の仕事論」をお届けしています。

今回は、good design companyの水野学さんに、「センス」というテーマで全3話のお話をうかがいました。

 

「びっくりする」も「考える」も、余白がないとできない?

センスってなんだろう?という問いからスタートしたお話も最終話。

『センスは知識である』の真意を知り、センスの伸びしろだけでなく、阻むものについても知ることができました。どうやら、センスの引き出しとなる知識をためることにおいては、「センスがいい人になりたい」がゆえの自意識が邪魔になりそうです。

これまでの2話を通して、さまざまな知識をお話してくれた水野さんが語る、センスの更新にとって一番大切なこととは何なのでしょうか。

水野さん:
「知識を得ることを何が阻むかといったら、時間なんです。時間がなくなってくるほど、予測したり、びっくりしたり、考えたりできなくなるから。

だから、センスがよくなることについても、時間を味方につけたほうがいいです。予測ができない、冷静じゃなくなってくる……それは余白が少ないわけです。

紙にたとえると、余白がない紙に書くとごちゃごちゃしてこんがらがっちゃうけれど、余白がたくさんあれば、考えごとをしたりTODOリストを書きやすい。

それと同じで、自分の時間に余白をいかに作るか。いかに白い紙を自分の心と頭の中に持ち続けるかが、とても大事だと思うのです。

そのためにやることは、ルーティンを増やすこと。僕たちは『洋服着ようかな』『いや、今日は裸で行こうかな』とは迷わない」

▲「さすがにそれは迷いません(笑)」と津田

水野さん:
「それはルーティンだからなんです。このルーティンが多ければ多いほど、余白が生まれていく。

たとえば乗る電車はいつも決めておく、乗る場所も決めておく。そうすると迷わないから、空いた時間に余裕ができる、その余裕を予測する時間に使うことができる」

 

どんなにクリエイティブな仕事も、ルーティンで質を高める

水野さん:
「仕事も、もっとルーティン化できることっていっぱいあるんです。僕がよく言うのは、全部の仕事を同じ順番でやりなさいってこと。

それは(1)資料を集める、(2)手を動かす、(3)相談する(伝える)の3ステップを踏むことなんです。

まずは資料を集めること。過去の事例を集めるのもそうですし、クライアントの話を聞いてインプットするのもそう。

そして次、手を動かすというのは、集めた資料をもとに自分なりに考えてラフを作るということ。これはもしかしたら、疑うって作業かもしれませんね。『あの事例が成功したのはどうしてだろう?』『あんなふうに話していたけど、それって過去のこの発言から推測すると、ここが本質かな?』とか。

そして最後に、僕に相談をしなさいと。つまり伝えることになるから、考えがまとまる訳です。

このセットを3回繰り返してブラッシュアップします。どんなに短い納期の仕事でも、どんなに量が少なくとも、必ず時間で区切ってそれをやるのが、うちの会社のルールです」

編集スタッフ 津田:
「へー!時間で区切るというのが意外でした。ラフが出来たら、企画書が書けたら等、クオリティで区切っていないのですね」

水野さん:
「クオリティじゃなくて、時間で必ず。間違った作業をしているのが一番無駄なんです」

編集スタッフ 津田:
「確かに!そうなんです、本当に」

水野さん:
めちゃくちゃおいしいカレーライスできましたって言っても、ほしいのはお寿司だったんだけど……ってことが結構仕事って多くて。

通常1回のプロセスを3回に分けるだけでも、間違いも減らせるし、格段に仕事はできるようになりますよ

 

人生の残り時間を区切ってみたら、何が見える?

水野さん:
いまは仕事の話をしましたが、人生も同じだと思うんです。

結局僕らの最大の敵は、時間。いろんな条件、いろんな不平等があるけれど、時間だけが僕らに平等なものなんですよね。だからお金よりも権力よりも、下手したら知識よりも、時間を確保することが大切なんです。

30代半ばだけじゃなくて、ゴールを見た方が良いと思うんですよね。できるだけ元気に活躍している最後の自分を想像して、今の自分がいて、その間を何ターンかに区切って、逆算していまやるべきことを決めてみるといいと思うんですよ。

これからのことを予測してみて、その予測を裏付けるものとして考える時間が必要。一緒に生きるパートナーや、人生を左右する大切な人がいるなら、伝えてみることが大事です。

そんなことを大きいターンで繰り返すことを意識すると、これからの人生も拓けていくのではないでしょうか」

 


水野さんにお会いして。


センスがいい人になりたい。

自宅のインテリアをもっとおしゃれにしたいし、雑貨をかわいく飾ってコーナーを作りたい。会社員になって10年以上経ち、そろそろ「自分らしい仕事を作っていきたい」という気持ちも湧いてきた。

けれど活躍している人の本やインタビューを読むと、みんな子ども時代から好きなものが明確で、10〜20代の間に大切なことを学んでいる。30代半ばの自分はもう手遅れなのかと、無性に不安が募った。自分は『生まれつきセンスのいい人』に、一生敵わないのかもしれない……。

諦めかけたときに出会ったのが、水野さんの『センスは先天的なものではなく、後天的に身につけられる』というフレーズ。ヒット企画をいくつも生み出してきた、センスのかたまり(!)のような水野さんの言葉に一筋の光を感じた。もっとお話を聞きたい、と思った。

お忙しい水野さんだが、快諾してくださって1時間のインタビューが実現。同行したライターの小野さんと帰り道に「1時間と思えないほど、濃ゆい時間でしたね〜」と興奮していた。「『思う』『悩む』と『考える』は違う」「すべての仕事を時間で区切る」「ルーティン化すれば余白が生まれる」などハッとする言葉がたくさんで、濃密で刺激的な時間だった。

なかでも印象的だったのは、冒頭で「34歳でも、これからまだセンスは良くなると思っていい」と、水野さんが目の前ではっきりと口にしてくださったシーン。

この言葉は、私の希望である。

年齢や経験を「できない理由」にしていたのは、自分だったと気がついた。諦めないというのは、苦しいことでもある。それでも、私にも、まだ時間があるなら「センス」と向き合っていきたい。小さな勇気が湧いてきた1時間だった。

スタッフ津田 

(おわり)

 

Information

今回インタビューした水野学さんの新刊が発売されました。ただいまAmazonや全国書店で販売中です。

仕事を効率的に進める上で避けては通れない「段取り」。とても大切な技術なのに学校でも会社でもきちんと教えてはくれません。多くのプロジェクトを「同時に」「早く」動かすにはどうすればいいのか? その「段取り」の秘密を全公開します。

『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』(水野学著、ダイヤモンド社)

内容(一部抜粋)
・段取りは「目的地」を決めるところから
・仕事が入る「時間ボックス」を用意する
・生産性をマックスにするための打ち合わせ
・段取りをスムーズにするリーダーのひと工夫

 

【写真】鍵岡龍門(8枚目除く)


もくじ

 

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水野学

good design company代表。1972年東京生まれ。ゼロからのブランドづくりからコンサルティングまでをトータルに手がける。主な仕事に、熊本県「くまモン」、中川政七商店、久原本家「茅乃舎」ほか。新著に『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』(ダイヤモンド社)。

 

 

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ライター 小野民

編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に地方・農業・食などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫4匹と山梨県在住。

 


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