【おばあちゃんと私】前編:「それは美しいの?」おばあちゃんの厳しさが、日常のたのしみを見つけるきっかけに。

編集スタッフ 松浦

「誰かの好きではなく、自分のものさしで好きと思える暮らしができたらそれでいい」

ただ、そんなことを思う私のものさしも、きっと誰かのものさしからできていると思うのです。それは、母だったり、友人だったり、同僚だったり、旅先で出会った人だったり、はたまた大昔に書かれた本の中の人だったり。

どんな偉人だって、きっとみんな誰かの影響を受けて、少しずつ自分のものさしをアップデートさせていったはず。

「この人のものさしは、どこからきたのだろう」

特集「おばあちゃんと私」では、そんなものさしをテーマに、染色作家の佐々礼子(さっされいこ)さんと、お孫さんで大学生の香帆(かほ)さんにお話を伺いました。

 

家族で綴る、おばあちゃんの言葉集

「あまり人に見せたことないので、恥ずかしいんですけど……」

そういって、香帆さんが持ってきたのは、小さなノートの束。それは、型染めの工程や料理のレシピといった、暮らしの知恵はもちろん、礼子さんの面白エピソードや、口癖など、香帆さんたちが綴ったおばあちゃんの言葉集でした。

香帆さん:
「このノートが今の私を作ってると言うと少し大げさなのですが、おばあちゃんからは一番影響を受けているかもしれません。なんというか、おばあちゃんはおばあちゃんでも、人生の師匠というイメージ…… 

『そんなことまで書いてどうするのよ〜』とおばあちゃんには言われるけど、厳しい一言も、とぼけた一言も、書いておきたいって思うんです」

 

仕事に子育て、そして介護。いまだからこそ「学校みたい」な家を。

真っ白なシャツの袖をピシッとまくり、何枚にも重ねた食パンを豪快に切っているのが、香帆さんのおばあちゃんで、染色作家の佐々礼子さん。

礼子さん:
「お腹空いてらっしゃるでしょう? あ、でもその前にお仕事だったわね(笑)」

そういうと、早速テーブルの上に型染めの道具を広げて見せてくれました。

礼子さんが染色を始めたのは、意外にも遅く、39歳のときのこと。早くに夫を亡くし、3人の子育てに追われながら、生計をたてるためはじめたのが染色でした。

古紅型(こびんがた)の型紙コレクターであった父と、紅型教室を主宰していた母に手ほどきを受け、その後は染色家・芹沢銈介(せりざわけいすけ)の弟子である村上元彦(むらかみもとひこ)に師事。

仕事と、子育て、それに加え親の介護が重なり、それはそれは忙しない日々だったといいます。

礼子さん:
「こうやって好きなものに囲まれて暮らせるようになったのも最近のこと。こんな余裕、昔はなかったですからね。

子供たちも大きくなって、今では孫が8人。酸いも甘いも積んできた88年分の経験を、少しでも若い人たちの役に立てられたら嬉しい。いま家を買うなら、家族みんなが集まって学校みたいになるところがいいなって思ったんです」

木々に囲まれた、ささやかな門構え。何度も深呼吸したくなるようなテラス。壁にかけられた、鮮やかな礼子さんの作品。そしてそこに並ぶのは、中古の家具や古道具、旅先で出会ったという世界各国の人形や器……

どこを切り取っても美しく、それぞれのものが重ねてきた時が、この家を特別なものにしているようでした。

この家との出会いは、約20年前。「なかなか買い手が見つからない」と不動産屋に紹介されたのがこの家でした。

ホコリが積もり、くもの巣がはり、とても住めるような環境ではなかったにもかかわらず、礼子さんは一目見て買うことを決断。大掃除を繰り返し、少しずつ礼子さんのお気に入りの家具を集めていきました。

 

大切なのは「正しさ」よりも「美しさ」

▲一階には大きな円卓。夏休みには、ここが子供たちの宿題集中スペースに

この家は、孫の香帆さんもお気に入り。ここに来るたび、礼子さんと過ごしたいろんな思い出が蘇るといいます。

香帆さん:
「小さい頃からおばあちゃんの家にひとりで遊びに行っては、一緒にご飯をつくったり、買い物に行ったり、庭いじりをしたり…… 根っからのおばあちゃん子でした。

おばあちゃんのことは大好きだけど、昔はとっても厳しかったのを覚えています。

道で白線をみつけると、上をまっすぐ歩く練習がはじまったり、お風呂にはいっていると、ストレッチの宿題がでたり……

一番記憶に残っているのは、親戚みんなでおばあちゃんの家で過ごした時のことです。『夕食よ〜』と母に呼ばれ、読んでいた本やノートを急いでテーブルの隅に寄せて、ご飯の支度をはじめたとき、その様子をみたおばあちゃんが一言。

『ここにものを置いた人は、これが美しいと思っているのかしら?』と。おばあちゃんは、姿勢や歩き方はもちろん、小さな所作にいたるまで、『それは美しいのか』ということに厳しかったんです」

 

伝えたかったのは、日常にある小さなよろこび

普通に暮らしていたら気がつかないような、日常のちょっとしたことにも目を光らせる礼子さん。そんな礼子さんの目線を香帆さんは自分なりに理解しようとしていました。

香帆さん:
「おばあちゃんは、本当に小さなことまでよく見てるんです。

でもそれは小さな美しさに気づく『癖づけ』みたいなことでもあるのかなと思っています。おばあちゃんがいつも一人で楽しげなのはそういうことかも。

庭の苺に実がついたとか、好きな器に光りが射してるとか。小さなことが毎日の楽しみになってるんだなって。 おばあちゃんが一人は寂しくないって言っている理由が、今なら少しわかる気がします」

香帆さんが富士山麓で育てていた「水かけ菜」も盛り込まれている

そんな香帆さんも、今年で大学4年生。現在は、山梨県で一人暮らしをしながら、生物の研究をしています。

香帆さん:
「昨年の春は、おばあちゃんから初めて型染めを教えてもらいました。ひとつとして同じものがない色の話や、染色と自然の深いつながりなど知らないことばかり。朝から晩までおばあちゃんと一緒で、部活の合宿みたいでした」

礼子さん:
「実は、ちゃんと教えたのは家族の中でも香帆がはじめて。

彼女もずっと興味は持っていたみたいなんだけど、染物や道具を広げた時に、目をキラキラさせてるのを見て、きっと私と好きなものが似ているのかもって思ったの。とっても嬉しかったわ」

「それにしても、お庭も家も、ひとりで掃除するのは、きっと大変ですよね」そう言った私に、礼子さんはお茶目に笑ってこう答えました。

「大変と思っているから大変なの。それも楽しめればいいのよ」。

鼻歌まじりで、サンドウィッチを大きなうつわに盛り付け、「こっちの向きの方がいいかしら? いや、こっちのほうが素敵ね」とレタスで仕上げ。礼子さんといると、日常の何気ない一瞬が、不思議と少しだけ楽しげにみえてきます。

ふるまいや、言葉使いなどに厳しかった礼子さん。ただそれは、見た目の美しさだけではなく、日常の小さなことに目を向けることでもありました。

後編では、そんな礼子さんのもう一つのものさしについて、香帆さんにお話を伺います。

(つづく)

【写真】間澤智大

もくじ

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佐々礼子さん、香帆さん

祖母・礼子さん: 1930年生まれ、染色家。芹沢銈介の弟子である村上元彦に師事。国内外で数々の染色の展示を行ってきた。孫・香帆さん: 山梨県の大学で生物を研究する、大学4年生。


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