【チープ・シックのある暮らし】後編:面倒くさがりだから、暮らしに向き合い考え抜く(編集者・加藤郷子さん)
編集スタッフ 小林
誰のためでもなく、自分のためにモノを選ぶ。値段やブランドを気にせず、自分にとって「好き」なものを「好き」と思う。
そんな「チープ・シック」のある暮らしについて、編集者の加藤郷子(かとうきょうこ)さんにお話を伺っています。
前編では「合理的に考えてモノを選ぶのが好きなんです」という加藤さんの愛する、様々なアイテムをご紹介しました。
つづく後編では、そんな加藤さんが自分らしい「チープ・シック」なモノ選びをするようになった理由を伺っていきます。
たくさんの失敗をして、真似をして
加藤さんのご自宅をみてみると、決してモノが少ない訳ではないのに、ホコリをかぶっているものがなく、どれもしっかり使っているように見えます。
加藤さん:
「買い物はすごく好きだけど、周りからは、とても慎重と言われます。一緒に買い物に行くと『つまんない!』と友達にいわれるほど(笑)。
流行っていても、これはうちには置けないとか、自分の家には似合わないとか思ってしまって、冷静ですね。『わたしはいらない』ってきっぱり言うことが結構あります」
▲冷蔵庫に大好きなマグネットフックをつけて。さっと取りたい鍋つかみをかけている
加藤さん:
「でも、そうなったのはここ最近ですね。昔はミーハー心のもと、勢いで買って、いらなくなってしまい反省することもずいぶんありました。
そうやって失敗を繰り返して、徐々にわかってきたのかな。やっぱり買い物はしてみないと、自分の『好き』ってわからない」
加藤さん:
「それに編集の仕事について、いろんな方のご自宅にお邪魔してきたからこそ、考えさせられたこともたくさんあります。
どこかに取材に伺う度に、素敵なものと出会い、すばらしい暮らしの知恵を目の当たりにし、影響を受けてたくさんの真似をしながらモノ選びをしてきました。
わたし、暮らしにおけるアイデアって、自分から考えたことなんてほぼないと思います。
ただ、知恵は自分からは出てこないけど、やってみようというフットワークは軽いタイプ。
いろんな方の素敵だなぁと思うところをどんどん取り入れながら、自分に合うやり方を模索してきたのかもしれません」
コンパクトな家だからこそ、考え抜く
加藤さん:
「このコンパクトな家に越したのも、自分らしいモノ選びをできるようになるうえで、よかったことのひとつ。
どんどんモノを増やすことはできないけど、いつだって素敵と思うモノを買いたいし、新しいモノとの出会いもある。
だからそれらを迎え入れるためには、何かを減らしたりとか、今ある何かをどうにかしなきゃいけなかったりと、絶対考えるんです。制約があるからこそ、どうしたらいいだろうと自然と考え抜く。
例えばこのお皿なんですけど、アンティークで気に入って買ったけど、全然使わなかったんです。だけど普段よく使うものを入れている引き出しに収納場所を変えてみたら、頻繁に使うようになって。
手に取りやすい場所のものばかり、やっぱり使うようになってしまうから、全然使ってないなぁと思ったら場所を入れ替えたりと、家の中で循環させる工夫をすることもやり方のひとつですね」
加藤さん:
「ある程度、愛情持って使える量に意識的に調整していかないと、モノって際限なくどんどん増える。なので置く場所を変えても、だんだん使いきれない量になってきたなというときは、気に入って買ったものでも潔く人に譲ります。
買うときもそうだけど、使っていく中でも『本当に必要か?』ということをずっと考え続けていますね。
そうして考え抜いた先に、『合理的に考えてモノを選ぶのが好き』という結論にたどり着くんですけど。それが、今の暮らしの価値観にも通じているのかな」
今の加藤さんには「いる」・「いらない」の価値観、すなわち「合理的かどうか」という判断軸が、はっきりとあります。
けれどそこに至るまで、たくさん買い物をしては失敗し、いいと思うアイデアは真似をして。コンパクトな家だからこそ、時に手元にあるものを手放しながら、何が自分にとって必要なのか、模索し続けてきました。
そんな加藤さんにとって「合理的」とは一体どんな意味を持つものなのでしょうか。
「どうしたら暮らしが良くなる?」にとことん向き合って選びたい
加藤さん:
「『合理的』かどうかって、わたしにとっては、『これがあったら暮らしがよくなるかな?』と考えることと同じなんです。部屋をすこし飾ることも、居心地をよくすることも、使い勝手よく便利にすることも一緒。
そうやって、暮らしがよくなることを諦めたくないから、小さなモノにも目を向けて、とことん考えます。100円ショップのマグネットでさえ、『これがあったら、暮らしがもっとよくなるのでは?』と、いちいち思考する。
面倒くさがりだけど、いや、だからこそ、そういうことに関しては考えることをやめないんです。
日々の暮らしに、しっかり向き合うこと。考え続けること。それを楽しむこと。
それがわたしにとっての『合理的な』モノ選びです」
加藤さん:
例えばこの絵も、私らしい買い物のひとつ。
古道具屋さんにあった切り絵で、この絵自体は500円くらいで、フレームの方が高いくらい。
だけどこの絵が自分的にしっくりしていて、他のを飾っていても、結局これに戻って来る。わたしにとって、自分の居心地を良くしてくれる『合理的な』モノなんです。
自分の居心地の良さを大切に、真剣に悩み選んだものは、大きな椅子でも、高いアートでも、安いマグネットでも、どれも等しく、暮らしに楽しみをくれるもの。
『安いから適当でいい』とか『高いから良い』ということにはならないんです。
自分に合うバランスを探りながら、心地いい塩梅を探す。そうやって日々の小さなことに向き合い、楽しむ姿勢が、自分らしい「チープ・シック」のある暮らしなのかな、と思います」
自分らしくあるための、モノ選びのかたち
値段やブランドに左右されず、自分の「好き」に忠実にモノを選ぶことって、確固たる意思やセンスがないとできないことだと思っていました。
けれど加藤さんのように、コンパクトな家に住むという制約がアイデアや気づきのヒントになったり、仕事で知った誰かの暮らしを「自分だったらどうしたいか」と柔軟に取り入れていたり。
置かれた自分の状況を考え抜くことで、自分らしいモノ選びをすることは、きっと私たちにも真似できるはず。
「誰かを招いたときに恥ずかしくないようにしなきゃ」
「もういい大人なんだから良いものを持たないと」
「失敗せずにちゃんといい買い物がしたい」
そんな想いが何気なく私の心にのしかかって、 “自分自身の” 暮らしを見つめることを、忘れさせていたかもしれません。
だけどそこで思考停止することなく、日々の生活に向き合いたい。もっと軽やかに、小さな楽しみを探しに行きたい。
取材を終えた帰り道「自分らしく暮らすっていいなぁ」と、なんだか少し軽くなった足取りで、ふと思えたのでした。
(おわり)
【写真】原野純一
もくじ
編集者・ライター 加藤郷子
「食」や「住」に関するテーマで、雑誌や書籍の企画と編集、ライティングを行う。著書に『あえて選んだせまい家』(ワニブックス)、編書に『収納&片づけrules』(朝日新聞出版)のシリーズなど。当店のリトルプレスの編集にも携わっている。
▽加藤郷子さんが編集した書籍は、こちらからご覧いただけます。
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