【ポタージュ好きなもので。】第1話:ポタージュをもっと楽しむための支度、いろいろ
ライター 片田理恵
どうしてこんなに、ポタージュが好きなんだろう
冬が来ると恋しくなる食べ物のひとつに、ポタージュがあります。
とろりとまろやかでじんわりあたたかい、寒さも心細さもまるごと包み込んでくれるような、あのやさしいおいしさ。一杯のスープがもたらしてくれる、素朴な、でもまるで魔法のような幸せが、ポタージュにはギュッと詰まっている気がします。
その魅力をもっと知りたい。食べるだけでなく作ることまで含めて、ポタージュをもっと楽しみたい。そこで今回は、私たちが子どもの頃から大好きなポタージュについて、改めて考えてみることにしました。
オカズデザインとポタージュを考える
「ポタージュ」という言葉から思い描くイメージは、誰しもきっと少しずつ似ていて、でも少しずつ違うはず。その空想のポタージュに、まずは具体的な形を持たせてみたい。
そんな思いで訪ねたのが、フード&デザインユニット・オカズデザインの吉岡秀治(よしおかひではる)さんと知子(ともこ)さんのアトリエ〈カモシカ〉でした。
ポタージュは主に水と野菜で作ります。4年前、理想の水を求めて東京と岡山の2地域居住を始めた夫妻にとって、ポタージュはどんな存在なのだろう。おふたりが作るポタージュはどんなものなんだろう。それが知りたいと思ったから。
そしてもうひとつ、オカズデザインが大切にしている「時間がおいしくしてくれるもの」というテーマそのものが、ゆっくりじっくり火を入れながら作るポタージュにぴったりだと思ったからです。
誰かのために作るのが似合う料理
お邪魔したアトリエの台所では、野菜がコトコトと心地よい音を立てながら煮込まれていました。部屋の中はいいにおいでいっぱい。なべから白い湯気がたちのぼるその光景を見ているだけで、思わず頬と口元がゆるんでしまいます。ポタージュは普段からよく作られるんですか?
知子さん:
「ポタージュを作る局面の9割はこの空間での料理会ですね。特にお客様をお迎えして料理をお出しするという場合、一皿目をポタージュにすることが多いんです。
理由は、会場に着いたばかりの高ぶった気持ちをまずは沈めていただくため。ポタージュには、気持ちを落ち着かせる役割をまかせています。同じ理由でメインとデザートの間にお出しして、一息ついてもらうこともありますね」
確かに、ポタージュを食べると体も心もほっとするように感じます。食欲のない時でも食べやすいし、塩分やとろみを調整をすれば離乳食や介護食にもなるなど、どんな人にとってもやさしいおいしさを持つ食べ物なんですね。
知子さん:
「そうそう。私も疲れている時に食べたくなります。火がよく通っているから体が吸収しやすいし、消化もいい。いろいろな食材が入って栄養も豊富。だからすこやかに体調を整えてくれるんです。誰かに作ってもらったり、誰かのために作るのが似合う料理じゃないかなと思っています」
それってとても素敵な考え方ですね! 私たちの思い出の中のポタージュも、食べた場面や状況が、家族や友達と一緒に過ごした大切な時間と結びついているから、より一層おいしかったのかも。作った人の気持ちが込もっていること、それが相手に伝わること、それはポタージュの大きな魅力ですね。
ポタージュのための、スプーンとお皿
ここでちょっと視点を変えて、ポタージュを食べるという行為のさらなる楽しみ方を考えてみましょう。オカズデザインのおふたりが提案してくれたのが、スプーンとスープボウルの選び方。どんなものを使うかで、食べる印象が変わるといいます。まず最初に、40本程あるというスプーンコレクションを見せていただきました。
知子さん:
「素材、形、厚さによって、味わいはまったく違うものになります。スプーンは口の中に直接入れるものなので、意外と抵抗を感じやすいんですね。ポタージュは素材がそのままダイレクトに伝わる料理。だから、軽くて薄いものを選ぶと食べた時にスムーズで心地いいと思います。スプーンの存在感が残らないから。
それから素材によっても変わってきます。木のスプーンは口当たりがやわらかくあたたかみがありますし、金属にはなめらかで軽やかな繊細さがある。ポトフなどの具が入ったスープの場合はスプーンがナイフの役割もするので、切るという動作がしやすいものを選ぶことも食べやすさにつながります」
次はポタージュを入れるスープボウル。大きさ、形状、色、素材によってさまざまな表情を見せる器ですが、ここに料理を盛りつけるとまた雰囲気が一変するのだそう。
知子さん:
「同じ料理でも、器によって見え方が変わります。スープボウルはその代表的なもの。それと形は同じでも、色合いによってまったく見え方が違ってくるところもおもしろくて。その日の気分で器を決めたり、逆に『この黄色い器にあわせてスープを作ろうかな』なんていうのも素敵だと思います。
ポタージュをきれいに見せてくれるのは、余白やゆとりを感じさせてくれるボウルですね。たっぷりした深さがあると盛りつけるのも運ぶのも安心ですし、リム(縁)がある器なら視覚的にもより贅沢な気持ちになれるのでは」
最後までぬぐって食べたい、どんなパンを合わせよう
ポタージュのある食卓といえば、もうひとつ欠かせないものがあります。それはパン。朝食やブランチ、小腹が空いた日の夜食にも、おいしいポタージュとお気に入りのパンがあれば大満足。ポタージュをよりおいしく食べるためのおすすめは何でしょうか。
知子さん:
「力強い天然酵母のカンパーニュ、それとは真逆のふんわりさくさくとした食パン、あるいはぎゅっと詰まったベーグル。どれもよく合うと思います。ポタージュによっては、胡桃やカレンズ(レーズン)などがたっぷり入ったパンもいいですね。
どのパンも、スライスしたものを軽くトーストして添えればOK。ポタージュをぬぐったりしながら食べたいので、バターはなくてもいいかもしれません」
ポタージュってやっぱり楽しい
オカズデザインと考えるポタージュ特集、いかがでしたか?
「ああ、今すぐポタージュが食べたい!」と思っていただければ大成功。次の2話と3話では、いよいよ具体的な作り方をご紹介します。誰もが一度は食べたことのある定番ポタージュに、私たちが初めて出会った甘酸っぱくて可憐なポタージュ。
オカズデザインのおふたりがそれぞれのポタージュに合わせてスプーン、ボウル、パンをどんなふうにセレクトするかも見所ですよ。
(つづく)
【写真】原田教正
もくじ
オカズデザイン(吉岡秀治・知子)
「時間がおいしくしてくれるもの」をテーマに活動する、料理とデザインのチーム。器と料理の店・カモシカを不定期でオープンし、さまざまな作家の器の展示、季節の保存食の販売をはじめ、食にまつわる企画を開催している。『二菜弁当』(成美堂出版)など著書多数。NHK朝の連続テレビ小説『半分、青い。』では、料理指導を担当。
ライター 片田理恵
編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。
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